見出し画像

#6 でくのぼう

鬼のようなシェフの元すこしづつではありますが、
仕事ができるようになってきました。

60席あるお店でしたが、私にあたえられたガスコンロはわずかに2口。
全然たりません。
せめてもう一つガスコンロがあればもっとスムーズに回せるのにと、
いつも思ってました。
シェフには、お前ごときがもう一つガスコンロがあっても上手く使えるわけないだろと言われておりましたが、内心「そんなわけないだろと」
こんな劣悪な環境でなければもっとスムーズに仕事ができるのにと。

そんな中名古屋の店舗にヘルプに行くように命じられます。

自分も約8か月ほど毎日のようにお肉を焼いていました。
なのである程度の自信もあり、名古屋の店舗はとても設備が充実しているとのことで、ガスコンロ2口でやっていた私からしてみれば余裕でした。

これは自分の実力を見せつけるチャンスだと。

お店についてキッチンをみたときはとても驚きました。
席数70席に対してガスコンロも7口あります。
もう勝利確定しました。

俺は60席のお店でガスコンロ2つでやってますけど?

ランチは魚と肉を焼いていきます。
11時~14時の3時間営業です。
特に問題もなく終わりました。当然の結果ですが。

夜はランチよりメニューが複雑になり、温前菜もやりながら、魚と肉を焼いていきます。予約もほとんど入っていないので余裕です。
温前菜と魚と肉がほぼ同時に入って来ました。
しかしここで問題が。
普段から2つのガスコンロでやっている私は3つ目のガスコンロの面倒を見ることができません。魚が焦げつきました。
あれおかしいな。
多数のガスコンロを使うことができないのです。

というか3つ目のガスコンロを使うことができません。
つまり2つしか同時に作業ができないのです。

器用で仕事ができる一つの指標にマルチタスクがあると思うのですが、
料理人にとってマルチタスクはとても大事です。
時間のかかる仕込みを効率よくやっていかないと、限られた時間でいい料理を作ることができません。

私の働いていたお店はどこも小さなお店で、調理場の設備には恵まれてきませんでした。実はそのお陰でマルチタスクを求められなかったのです。

もっと広い調理場ならもっと効率よく仕事ができると思っていたのですが、
それは幻想に過ぎなかったのです。

例えるなら80キロしか出ない車でレースをしていて、もっとスピードが出る車なら勝てると思っていたけど、いざ120キロ出る車に乗ったらコーナーを曲がりきれずにガードレールに激突してリタイアしてしまうといった所です

幸い初日の夜は暇でしたので何とかなりましたが、明らかにパフォーマンスは低く、自分でもやばいことはすぐに理解でしました。
気持ちを切り替えたものの翌日からちゃんとできるわけもなく、相変わらずのていたらくです。

私の前に来ていたヘルプの方は難なくやっていたそうで、
私は役立たずの烙印を押されます。

こうして私の初めての出張は散々たる結果となりました。
そもそも仕事ができなくて一度はクビになったほどのやつが1年足らずで仕事ができるようになるわけありません。

忙しいお店で小さな成果に対して勘違いしておりました。

初心わすれるべからず

ちょっとだけ調子に乗っていた私でしたが
軽く鼻をおっていただいた出張となりました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?