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愛しのイギー様

中学生でニューウェーブやパンクなど先鋭的なロックに目覚め、高校生の頃にはすっかりひねくれたリスナーになってしまいました。刺激的な新しい音を求める一方で、ロックの真実を追い求める者は、当然その源流も遡らないと行けません。デビッド・ボウイ、ルー・リードやベルベットアンダーグラウンドに触れるうちに出会ったのが、イギー・ポップと彼がいたバンド、ストゥージーズでした。MC5と共にガレージロックを代表するバンドであり、当時「パンクのゴッドファーザー」と言われていたのでした。レコードに針を落とした瞬間にビックリしました、パンクよりパンクだったので。親しみやすさの全くない凶暴でざらついたノイジーで危険なサウンドにやられてしまいました。さらにライブではガラスの破片の上を裸で転げまわり血だらけでのたうち回ったり、自分のナニを露出するなど半狂乱でライブしていたという伝説までありました(ジム・モリソンの影響だったようですが)。そんなイギーがついに来日するというではないですか。コレは何を差し置いても行かねばなりません。

春の嵐 戦慄のライブ体験

1987年4月2度目の来日公演、大阪サンケイホール。イギー2度目の来日公演。今となってはカオスすぎてよく覚えておりませんが、最もアドレナリンを出したライブのひとつでありました。
ステージの照明が落ち、ノイジーなギターの音と共にイギーが登場した瞬間から、「イギーーー!!!」という絶叫とともに会場は一気にハイボルテージに。ステージ前に観客が押し寄せ、鮨詰め状態。そのうちファンは次から次にステージに上がり、イギーに抱きつくと、警備員にステージの傍につれさられていきます。イギーはファン達をいやがる訳でもなく、好きにさせている感じでした。サンケイホールは当然ですがライブハウスではありません。ちゃんと椅子が固定されたコンサートホールです。会場の真ん中ぐらいの席だったのですが、そこから無我夢中で観客をかきわけ椅子を乗り越えてステージに突進しました。ついに最前列、目の前に上半身裸のイギー様が、、、若気のいたりと申しましょうか、気がつくと自分もステージの上に駆け上がってしまっていたのです。イギーとの距離1メートル、鍛え抜かれた筋肉が汗で光り恍惚とした表情でマイクを握るイギーに、「イギーーーー!」と叫んで抱きつきました。すぐさま警備員に引き剥がされるとステージ脇に連れ去られ、「大人しく観とけ!」と言われてホールの外に出され、後ろの扉から再入場させられました。そして最後列から再びステージを目指してカオスの中へ。狂乱のうちにライブは終了したのでした。

秋は夕暮れ

高校生活最後の春がこのような狂乱に終わり、季節は秋へ。何故か頼まれて文化祭の実行委員長に祭り上げられてしまった私は、まあ暇潰しにいいかと安請け合いをして、委員長の務めを果たしておりました。
模擬店や催し物の企画進行などに加えて、重要な仕事の一つが全校生徒が文化祭当日に着るTシャツ作りです。例年、○○高校第○回文化祭という文字を英語にしたダサいパジャマにしかならんようなもんでしたが、好きにデザインしてもよいということで特権を思う存分利用させて頂くことにしました。
どうせなら好きなレコードジャケットをTシャツにしてまえ!しかも、とっておきの1枚を。そう考えてレコード棚からチョイスした1枚が1977年に発表されたイギーのソロ2作目「Lust For Life」です。イギーの不適な笑みがアップにされたアルバムカヴァー。中身はデヴィッド・ボウイとの共作といってもいいほどで、ストゥージーズ時代と違い多彩なアルバムとなっています。後に映画トレインスポッティングのテーマとして使用されるタイトル曲や「Passenger」など名曲が目白押し。
アルバムジャケットをコピーしてTシャツ業者に渡すと、あっという間にTシャツが出来上がってしまいました。
そして迎えた文化祭当日、学校中がイギーにジャックされ、そこら中がイギーのどアップで溢れかえっていました。学校でイギーポップを知っていたのはたぶん10人ぐらいじゃなかったでしょうか。ツッパリの不良から、真面目なガリ勉くんまで、全校生徒がイギーポップに支配されたシュールな光景を眺め、友人のボンジョビのコピーバンドの演奏を聴きながら、嵐のような戦慄のステージを思い出しつつ、夕暮れに一人にんまりとしたのでした。

Tシャツにしたアルバム Lust For Life / Iggy Pop (1977)

当時は、関西の男子校ということもあり、みんないかにウケや笑いをとるかということしか考えてないような学校でした。窓ガラスを壊して回るほど支配されていた訳でもなく、下ネタ全開でアホなことばかりの高校生活だったのですが、ライブで躊躇なくイチモツを出せるロッカーを崇拝し高校中に溢れかえさせたのは、自分なりの社会に対するイタズラや悪ふざけ、ヴァンダリズムだったかもしれません。

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