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John Coltrane Balladsを聴きながら

「もうコルトレーンはバラードしか聴けなくなった」           

行きつけの中古レコード屋で年配のジャズファンがふとそんな言葉を漏らしたのを聴いて、若者だった僕はああ絶対にこうはなりたくないと思ったものだ。

このコルトレーンのバラードというのは、コルトレーンが演奏するバラード曲という意味ではなく。

コルトレーンがマッコイタイナー、ジミーギャリソン、エルヴィンジョーンズとの黄金のカルテットで録音した歴史的名盤「Ballads」のことだ、一説にはコルトレーンが愛用するマウスピースの調子が悪く、早いフレーズを吹けないので苦肉の策としてバラード集を録音したと言われている、その真偽の方は分からないが人類が残した最上の芸術のひとつなのは間違いないと思う。

このアルバムでのコルトレーンのテナーは、まるでビリーホリデイの歌唱のようだ。                                  あまりにも美しく、聴いた者の心を癒し、それでいて時に胸に突き刺さる。

コルトレーンだけではなく、マッコイもジミーギャリソンもエルヴィンも圧倒的に素晴らしい、多くのジャズファンに今なお愛され続ける、時の風化という残酷な物などこの名盤に関しては関係ないようだ。

僕も不惑を迎え何年か経ち、コルトレーンのいわゆるゲロゲロのフリーというものが聴くのが辛い年齢になってきた。

「もうコルトレーンはバラードしか聴けなくなった」

と僕が言葉にする日もそう遠くないのかも知れない。

あの時はあんなに嫌だったのに今では、それを受け入れつつあるようだ。

歳をとるというのは、そんなに悪い事じゃないと、コルトレーンの「Ballads」を聴きながら、そんな事をふと思った。

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