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立川談春芸歴40周年記念興行「立川談春独演会」

8月10日(土) 於;有楽町朝日ホール

「たがや」「蒟蒻問答」「死神」

「人はいかにして死神に転生するか(したか)?」というのが、今回の談春の「死神」の主題であろうか?

ご存じのように、「死神」は、三遊亭圓朝がヨーロッパの死神の物語を翻案したもので、その原典は「グリム童話(またはほかの物語)」と言われている。

今回の談春の口演は、その「死神」の物語に新たな翻案が加わったとも思えるようであった。

「死神」をざっとなぞっておくと、風采の上がらない男が借金の金策尽きて帰宅をするが、一文の金も用意できなかったことで、頭の上がらない女房に「金を作ってくるまでは家に入れない」と言われて叩き出される。金策の当てもなく町を彷徨ううちに、橋の欄干から川面を見ていて「死んじゃおうかな」という気になるが、それは、男に死神が寄ってきているから。

死神は男に向かって「お前(おめえ)は、なぜか他人のような気がしない。金が儲かる法を教える(おせえる)から死ぬのはやめろ」という。

そして、医者の看板を出して医者になれと薦める。死神曰く、病人には、必ず死神が一人取り憑いている。そのとき、死神が病人の枕元にいたら、その病人は助からないが、死神が足元にいれば、その死神を追い払えば病人は助かるという。その死神を追い払う呪文を教えるから医者になれというのである。

この呪文、演者によって異なっていて、「死神」という噺を楽しむ一つの要素ともなっている。

最も有名なのが、六代目三遊亭圓生の「アジャラカモクレンキューライス、テケレッツノパア」であるが、談春は「地震なんかは別に怖くない(前日に地震があった)、~うんぬん(後半は忘れた)」というもの。

男は、死神から呪文を教わり医者の看板を出すが、果たして死神の言うとおり病人の近くには死神がいて、足元にいれば呪文で追い払い、病が治癒して多額の礼金をもらい、また枕元にいるときは、「お生憎様ですがこの病人は助かりません」と言うと病人がほどなく亡くなるので、男は「生き神様ではないか」と呼ばれるようになる。

こうして男は大金持ちとなるわけである。

ここで、談春は、従来の「死神」にはない、別の噺の展開を仕掛けとして施す。それは、最初に助けた病人が大店の店主であるが、その店の番頭が、医者になった男のマネージャーになることを申し出て、その後の男のすべての治療(というのだろうか?)を取り仕切ることになる。

金がかなり貯まったところで、番頭は男に、骨休めに妾と一緒にお伊勢参りをして上方旅行に行って来たらどうかと薦める。男は、その言葉に従って長旅を終えて江戸に帰ってくると、なんと家の中はもぬけのから。番頭が全財産を持って、さらに男の女房も連れて姿を消したのである。男は、「あの番頭の野郎、鼻からそのつもりだったんだ」と気づくが後の祭り。

金がなくなったところで、再び医療施術(?)を再開するが、今度は毎度、病人の枕元に死神がいるので助けることができない、従って礼金もまったく得ることができない。

ある日、江戸でも三本の指に入る大店の番頭がやってきて、「主人近江屋善兵衛の命をせめてあとひと月生きながらえさせてくれたら、千両、いや二千両出しましょう」と言うが、今回も病人の枕元に死神がいて、らんらんとした鋭い目つきで病人を睨みつけている。金は喉から出るほど欲しいが、「この病人は助かりません」というと、番頭がそこを何とかとしつこく言うので、男は一計を案じる。四人の屈強な若者を用意して布団の四隅に配置し、死神が呪い疲れてふと油断をした瞬間に布団を回転させて、枕元が足元になった途端に呪文を唱えると、面食らった死神は姿を消し、病人は元気を取り戻すのである。

大枚を得た男であるが、先刻の死神は、男に医者になれと薦めて呪文を教えてくれた死神さんだったというのはご存じのとおり。

そして、死神に無理やりに連れていかれたのが、人の寿命の蠟燭が燃えている世界。地下に向かって進んでいくことが多いが、ここはいったいどこなのだろうかといつも思う不思議な世界で亜ある。

ここで、男は、近江屋善兵衛と自分の寿命を取り換えてしまったことを知るのだが時すでに遅しである。男は死神に向かって必死に命乞いをするが、「おめえが悪い」の一点張り。ようやく、蝋燭の火を繋ぐことができたら寿命が伸びることを教えてもらうが、ここで談春は、死神に「おめえ長生きしてどうすんだ、後悔するぞ」と伏線となるような言葉を語らせる。

果たして、蝋燭の火は繋がって生きながらえることができたが、この蝋燭の火が繋がるというのは極めて珍しい。

死神の姿は次第に薄くなって消えてしまう。死神は、近江屋善兵衛を連れていけなかったことの責任を取って自らの姿を消す。

男は蝋燭の世界からなんとかして現実の世界に戻り、そこは最初に死神に出会った橋の上。

そこで、今度は店の金をスリに取られて死のうとしている若者に出会う、そして男は、死神の姿に変わっている。

男が蝋燭を繋げて生きながらえたことで、なんと男は死神の後釜を任せられてしまったのである。

死神との最初の出逢いで、「おめえは他人の気がしねえ」と言われたのは、この男は死神に選ばれし者、死神に輪廻転生することを課されたのである。

死神に転生した男が若者にひと言、「おめえは他人の気がしねえ」。


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