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made hands

やるせない混沌とした世界の中でも、小さな光を見つけることができる。

誰もが自分のことで精一杯の世の中だからこそ、とても身近な存在を愛し、愛で育て、続けていくことの大切さをこのショートフィルムで教わった気がする。

舞台は韓国の記者会見室と病院。

場面展開が少ないからこそ没入感があり、短い時間の中でも彼らが生きる「シーン」に入り込むことができる。飛び交う会話と手話の世界は、喧騒と閑静の対比を生み、緊張感がつねに存在していた。

テレビでよく見る手話は、聴覚障害者ではない人たちにとって見過ごされがちな光景だ。しかし、よく目を凝らして見るとなんとなく言っていることが伝わってくる。言葉を発しない表現だからこそ、表情や身振り手振りで自分を表現しなくてはいけない。制約があるからこそ、弱くも強くも表現ができる。普段私たちの生活の中で交わされる言葉には、多少なりとも抑揚はあるが、意識しないととても平坦なものだ。

話を映像作品に戻そう。
新型コロナウイルスが世界を席巻し、韓国も例外なく緊張感が走っていた。主人公の男性は手話通訳士として記者会見の場面で手話をしている。一方、今にも我が子が生まれそうな妻を病院に残し、仕事と家庭のあいだで心が引き裂かれそうになっている。

中継が一段落すると、すぐに妻が寝ている病室に戻る。妻も、聴覚障害者なのだ。病室で交わされる手話は、混沌とした世界とは別で、ふたりだけの世界。テレビで放映されている公的なものと、ふたりの日常会話にも対比がある。この絶え間ない二重構造が、観ている人たちにとって緊張と安堵をもたらしている。

この作品のタイトルは「The Hands/その手」。
手でつながり、手で表現し、手で生きている。

美容師もまさに手で生きる人だ。
どの職業も手を使うかもしれないが、より属人的により個性が伴う手の仕事といえる。その人の手からしかヘアデザインは生まれないし、その手前には客とのコミュニケーションがある。言語(手話)を使い、手でその人に合う髪型を作り上げていく。
この映像作品を見てもうひとつ感じたのは、所作がとても美しいこと。そのクライマックスは映像の最後にとっておいてあるが、それまでの過程、積み重ねてきた想いが爆発し表情と手話で表現されている。ほとばしるほどの愛情と、小さな光を見る瞬間だ。
それは世の中の美容室でも毎日行われていて、髪型が出来上がって合わせ鏡を見る瞬間に訪れる。

美容室の日常の中に潜んでいる、小さな光を見続けて、私も生きていきたい。

手がもたらす幸せは、もっともっと。

(ミネシンゴ)

このnoteは『MILBON BEAUTY AWARDプレゼントキャンペーン』にあたり、「美しさ」を最も体現したショートフィルムとしてミルボンが選んだ『The Hands/その手』の感想を審査員ミネシンゴさんに寄稿いただきました。
ショートフィルムとプレゼントキャンペーンについてはこちら


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