Memories Covered with Tar and Alcohol
「思い出の店、閉店」というタイトルにでもしようと思ったがろくな記憶もないのでやめておく。
初めて酒を飲んだ居酒屋が閉店した時のことを思い出している。
キャベツがお通しだった。
カルピスサワーが一番うまいとか思ってたのはなぜだろう。
一緒に行った友達が「君は羽生選手に似てるね」とか言われていた。
次に行った時は「星野源にも似てるな」とも言われていた。
ビルの3階だった。
ハイボールのポスターが貼ってあった。
店内は綺麗とは言い難かったが、茶色を基調とした落ち着いた雰囲気の小さな店だった。
何回目かに訪れた時に新人バイトの子の初日にぶつかった。
「うちはこんな感じだからさ、楽しみながらやってよ」とマスターが言うのが聞こえた。
マスターは僕らみたいな若造が来ることが嬉しいらしくいつもニコニコしていた。
飲み会の帰りに(主に朝5時までやっているという理由だけで)よく行っていたラーメン屋が閉店した時のことを思い出している。
何のことはないラーメン屋だった。
マンガがたくさん置いてあったことくらいしか覚えてない。
味も別に覚えてない。
一つだけ記憶に残っているのはもう日の出も近い時間に先輩が「こういうふうにラーメンを食うから太ってしまうんだ」と腹を見せてきたこと。
あと、「俺はクレジットカードの請求分は缶につめて保管している」という処世術?も聞いた。
その後、居抜きで別のラーメン屋になったがそっちはあまり行かなかった。
先輩と朝まで飲んだ居酒屋が閉店したらしい、という話を聞いた時のことを思い出している。
「ボトルを入れるのがクール」だと思っていたせいで、仲間がみんなボトルを入れるせいでいろんな名前のボトルキープがあって店員を困らせた。
「海ぶどうは三杯酢がうまい」みたいな噂が流れて、必ず三杯酢で注文していた。
友達ともよく飲んだ。
沢山の夜をあの店に溶かしては、笑い合った日々の断片を懐かしく思った。
何かの打ち上げで、先輩から教えてもらったアーティストを今でも聞いている。
座敷とテーブルがあった。
今思えば結構デカかったな。
焼酎の味を覚えたのはあの場所だ。
卒業式の前日に朝まで飲み明かした居酒屋が閉店したと聞いた。
ろくな思い出はない。
そもそもチェーン店だし。
安くもないし。
でも少しだけ寂しくなった。
この世から、僕らの夜がまた一つどこかへ行ってしまった気がした。
もしかしたら。
ろくな思い出などないことが、ある意味でいちばんの思い出かもしれない。
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