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「その犬の名を誰も知らない」新作読書会に参加しました。

南極大陸、昭和基地で置き去りにされた一年間、生存していたカラフト犬、タロとジロ。60年前のことです。たぶん、この本をお読みになる方は、生まれる前の出来事。ご両親や、その親たちから、南極の奇跡として、語り伝えられたのではないかと思います

私自身もほんの子供でしたが、でも、このタロとジロのことはよく覚えています。大人になって、あれは、三好達治の詩「雪」で出てくる二人ではないかと、考えたことがあります。

太郎をねむらせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
二郎をねむらせ、二郎の屋根に雪ふりつむ。

この二頭のカラフト犬は、厳しい気象条件の中、どうやって、生き延びたのか、何を食べて過ごしていたのか、考えるとたくさんの謎がたくさんあります。この本の監修をされた、北村泰一さんは、南極第一次越冬隊のメンバで、1957年から1958年、南極の昭和基地で厳しい一年を過ごしています。彼は、オーロラの観測担当であり、さらにカラフト犬の世話係りでもあったのです。

1968年、タロとジロが発見されてから、十年後、昭和基地で一頭のカラフト犬の遺体が発見されますが、それはずっと封印されいたのです。つまり、タロとジロの他に、もう一頭のカラフト犬が、昭和基地にいた。この犬が、二頭の世話をしながら、生き延びたのではないか。では、なぜ、発見時に三頭揃って見つからなかったのか。

これは、ドキュメンタリーでもあり、ミステリーでもあります。北村さんだから、わかることが次々と明らかにされ、死亡した犬をのぞき、また、条件にあわない犬を消去していて、その第三の犬があきらかになるのです。

時間の経過で、真実が見えるようになるというのも、歴史の面白さではないでしょうか。
読書会では、さまざまな職種の方が参加し、素朴な疑問から、当時の政治状況にいたるまで、密度の濃い、意見交換がありました。読書はもちろん、ひとりでも楽しいけれど、こうやって、テーマを決めて集うのはもっと楽しい。それを実感しました。


その犬の名を誰も知らない
文芸
嘉悦 洋(著/文)北村 泰一(監修)
発行:小学館集英社プロダクション
四六判
344ページ
定価 1,500円+税

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