人生の解釈を変えてくれる人との関係性に、人は名前をつけたがる。
伊坂幸太郎さんの小説と出会ったのは、高校生のころだった。
初めて読んだのは、『重力ピエロ』。読書習慣があまりなかった自分を「本を読む人」の側に連れてってくれた、引力のある一冊だった。
『重力ピエロ』は、重い。
何が?設定が。
厳しい描写はないけれど、考えるほど辛くなる。
主人公一家を好きになるほど、切なくなる。
なのに、ひとたび物語の世界に入ってしまえば、軽快なセリフと文章のリズムに身をゆだねてしまえる。それがこの小説のテーマであり、不思議な魅力だと思う。
私には、好きな小説がたくさんあって、好きなことばもたくさんある。
ただ、こんなに”好きな人”が出てくるのは、伊坂さんの作品だけだ。
彼らが言うことばだから、好きなのだ。
それは紛れもなく伊坂さんの紡いでいることばなのだけれど、どうしても登場人物たちが自らの意思で発しているように思えてならない。
楽しそうに生きる、というのは、意図的だ。
言い聞かせて、勘違いさせてしまおうという願い。
つまり人生には、楽しくない辛いこともあるということ。
そんなことは、みんなわかっている。
けど、自分以外の誰かが、一緒に勘違いしながら生きていると思えたら。
ドラマチックでシリアスな出来事に、ふと不安になったとき。
横を見るとキラキラした目で、重力に逆らうピエロを見上げている誰かがいたら。
楽しそうに生きてれば、地球の重力なんてなくなる
それは目をそらすということではなく、全部ひっくるめて分かち合うこと。
人生の解釈を、良い方向に変えられる人と、ともに生きること。
その人との関係性は、この物語の主人公・春のように、他人に説明するにはちょっと複雑なこともあるかもしれない。
呼び方はひとまず置いておこう。ただその絆の尊さを、この小説は教えてくれた。
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