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【喫茶店 美来】3-2話『勇気の一歩』

「行かないなら俺行くぞ」と涼が行きかけたとき、
「行きます。その代わり、、、」と優音くんは、言葉に詰まって、
うつむいてしまった。

わたしは、「ここでは、言いたいことは存分に言っていいんですよ。それこそ、契約内容に書いていますからね」とほほ笑むと

優音くんは顔を上げて「その代わり、店長が使っているデザインTabを貸してください。それでイラストを描きたいです。」

「わかりました。本日分の給与は決定ですね。」
優音くんは、にこにこ笑顔だ。

「わたしもついていくよ。」と葵が言った。
「では、行きましょう」というと
さっきの笑顔から緊張した表情に一変した。

ボックス席に行くと彼がこちらを不安そうな顔で見て、
こう言った「あの、まだベル鳴らしてないんですけど」

葵が、「何かお困りかな?と うちのスタッフが気が付いたものですから。」と言って、優音くんのほうを向いた。

もちろん優音くんは、「なんてことをしてくれたんだ!」とちょっと不満そうな顔をしている。

涼が「葵は、可愛い顔して鬼だな」と厨房でひっそりと笑ってる

実は・・・「お金がこれしかないんです。」と
見せてくれたの120円
「ごめんなさい。注文できません。」と彼が言って席を立とうとした。

その時、

優音くんが、消えそうな声で何かを言った。
男の子は、「え?」と優音くんのほうを向いた。
何か知っている単語が聞こえたのか、少し明るい顔になった。

葵は、優音くんに「大丈夫ですよ。聞いてみましょう。」と
背中に手を当てた。

「絵師100人展行ったの?それ、Hitenさんの作品」と
今度は、相手にも聞こえる声だ。
厨房で、ガッツポーズする涼。わたしも心の中で嬉しく思った。

「はい。家族旅行の時に、寄ってもらいました。」とストラップを見せる。

「僕も行ったの」と突然スタッフルームに戻ってしまった。

「何かあったのですか?」と男の子は、葵に聞いた。

「きっと彼は、あなたとお話がしたくて何かをもってくるのだと思います」葵がそういうと

彼は、何だろう?と期待半分、不安半分と何とも言えない表情だ。

わたしが厨房から出て、彼のところへ言った。
「安心してください、大丈夫です。へびなど突拍子のないものはもってきませんよ」と冗談で言ったのだが、笑いが起きなかった。

すぐに、彼は戻ってきた。
彼が持っているストラップと同じ絵柄のクリアファイルだ。

「俺と同じイラスト。75万円する絵ですよね。すごくきれいな絵ですよね。光の当て方によって見え方が違って面白いですよね。ずっと眺めることができました。」

「わかるよ!」「キミ、名前なんていうの?」

「啓太っていいます。」

「啓太くん。Hitenさんのこの作品さ・・・」
それから、二人は、ずっと「絵師さん」について話していた。

優音くんの腕時計が鳴る。

<続く・>
©心空