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【喫茶店 美来】5-2話『誰にも居場所はある』

愛未は、再び席に戻り、ギターで「群青」を弾き始めた。
「バスケットボールの選抜で、学力も高いということであれば、うちの店で働くのは、退屈かもしれませんよ」
夏南美さんの表情が曇り、うつむいてしまった。

では、最後の質問です。
「夏南美さん、この店で働きたい理由は何ですか?」
「私は、ここで働くことができる人は、学校に行っていない子たち。っていうことを聞いたからです。だから私も働くことができると思って、来ました。」
「それだけですか?」とわたしが言うと
「あと・・・」と言葉に詰まってしまった。

「このお店で働くためのルールを、全部ご覧になりましたか?」
「えっ?不登校の人ならだれでも働けると・・・しか」
「言いたいことは、言わなければならない。得意なこと・苦手なこと・好きなことなど、言いたいと思ったことはすべていうのがルールです。」

「バン!」 
母親が机をたたく。
「何が言いたいんですか!帰るよ!」と
母親は席を立ち、夏南美さんの手をひっぱる。

しかし、夏南美さんは、席を立とうとしない。
「早くしなさい!塾にも遅れるから」と
母親は、出入り口でこちらを見ている。

愛未の透き通った声で
「好きなことを続けること
 それはたのしいだけじゃない
 本当にできる 不安だけど」と歌いだした。

愛未が一言
「夏南美さんのお母さん。少しだけいい?」

「あたしのこと何歳に見える?」と優しい声できいた。
母親は、困惑していたが、怒りはまだある。
「え?それ今関係ある?」と答えなかった。
愛未は、「あるよ。わたしもこの空間にいる以上、言いたいことはいうから。正解したら夏南美さん連れて帰っていいよ。間違えたら・・・」

母親は、「何よ!あんたにそんな権限ないでしょ!と怒る」
わたしは、言った。「うちの立派なスタッフです。面接をするのは私だけではありません。」
「変なお店だわ」と母親は、さらにイライラした様子だ。

愛未が「で?何歳に見える?」
母親は、「18歳?19歳?」と投げやりに言った。
愛未は、夏南美さんとわたしのほうを見て、にやり笑顔を見せ
「残念。」とピックを母親に向ける。
「正解は、高校2年生。普通ならね。じゃ、間違えたので夏南美さんを1時間お預かりしてもよろしいですか?塾ないでしょ?今日。」と自信満々にいう

正直わたしは、かなり動揺した。そんな愛未はそのようなことをするタイプだと思わなかったからだ。

母親は「何言っているのあります!」という
間髪入れずに、
愛未が「高い偏差値の学校に行って、夏南美ちゃんが上位にいられる確証あるの?
 もし、仮にいい学校に入学できたとしても、最下位だったら彼女は、間違いなく路頭に迷う。
 なぜなら親の敷いたレールを歩いてきた子は、どこかで躓き、自分の意思決定能力が低くなるから。」

母親は、「あなたに何がわかるの!」と怒鳴って。愛未に迫る。

わたしは、思いのほか冷静だった。
なぜなら・・・

<続く・・・>
©心空