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【喫茶店 美来】5-1『誰にも居場所はある』

今日は、久しぶりに雪が降っていない
しかし、気温が低く、外は寒い
「雪が降らないのはいいけど、外は寒そうね」と
わたしがつぶやくと

「しょーがないよ2月は、
 わたしは、猛暑よりマシと思うけどね~」と
 ギターを片手に、楽譜を見ながら練習しているのは、愛未(まなみ)。

カランコロン♪
「いらっしゃい」
今日は、親子連れだ
娘さんが『ここで働かせてもらえませんか?』と今にも泣きそうだ。
母親は、『急にSNSで知り合った子が、ここで働いているから働きたいっていうんですけど、まだこの子中学生だし、受験も控えてるのでダメだって、、言ったら学校に行かなくなってしまって』とかなり怒っている。
はや1週間と。

「そうですか~。詳しくお話聞かせていただけますか?」というと
「今日は、塾でテストがあるので、早めに終わらせてください。」と語気を強める。
「こちらへ」とボックス席に案内する。
「では、お話を聞いてもよろしいですか?」

わたしは愛未に、目で合図をした。
持っていた、ギターを置き
入り口は、オープンからクローズに変えた。
面接やその方たちだけの空間にしたいときは、
看板をオープンからクローズにすることがある。

愛未は、厨房へ入っていった。
「まず、お名前を教えてくれるかな?」
「笠井 夏南美(かさい かなみ)です。」と
こちらに目をしっかりと合わせていう。

「夏南美さんの好きなことは何かな?」
「バスケットボールや、、、」と言いかけて、母親の顔を一瞬見て
「バスケットボールです。」と言い直した。
「バスケですか。うちの店にもバスケ好きがいますよ~。話が合いそうですね。」
といった瞬間だった。

母親が「早く、ここでは働かせられないと言い切ってください。うちの子は将来有望なんです。バスケで代表選抜に選ばれるし、勉強も難関私立高校に入学できそうなんです。こんなところで無駄な時間を使っている暇はないんです。最後は、医師か弁護士になってもらうんですから。」と怒鳴った。

「お母さんのお気持ちもわかります。ですが、お子さんが『ここでは、働けないのか』と納得しなければ、後々、親の責任だといわれかねません。」というと、母親は、「早く納得させてください」と必死だ。
「もし納得しなければ、どうしますか?」とわたしは、聞いた。
「無理やり連れて帰って、今後ここに来られないようにこちらで、説得しますから安心してください。」
「わかりました。」

そのときちょうど、愛未が
「お水お持ちしました」と透き通るような声で持ってきた。
「ありがとうございます。」母親より先に、夏南美さんが言った。
愛未が「礼儀正しいね、夏南美ちゃん素敵。では、失礼します。」と夏南美さんに笑顔を向け、母親を一瞬見てから、ギターが置いてある席へ戻った。

<続く・・・・>
©心空