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大家という稼業(妻子のこと)

 不動産投資をしていることは妻子には内緒にしている。
 と、いうのはさすがに嘘だけど、不動産投資について家ではほとんど語らないようにしている。妻からするとたいした残業もなく安定したお給料を毎月もらってくる三菱地所の正社員と結婚しているのとほぼ同じだ。言い過ぎか。ほぼ日本空港ビルデングの正社員と結婚しているのと同じだ。
 もしこれが数億円の負債を連帯して負わせるのであれば、たとえ夫婦でも説明責任や事業報告がいると思う。けれどどうなんだろう。投資なんて一人で決めて、その結果も一人でぜんぶ受け入れないといけないのに、関係者が増えたらそれだけ投資判断は遅れるし、彼女がどう思うだろう…と心の中で一方的に考えることすらノイズになって純度が落ちてしまう。たぶん失敗したくないという気持ちが強くなりすぎて失敗すると思う。
 パッケージ化されたアパートローンなんかだと、妻を連帯保証人を立てて個人で借りた方が金利が安い局面もあったりするのけれど、あえて金利差で数百万円の損を出してでも事業性のプロパーローンとして法人で借りることで、不動産投資の大冒険には自分以外の誰も巻き込まないようにしている。

 朝に家を出て、夕方に戻ってきた時にはパパの借金がひっそり1億円ほど増えていたりする楽しい我が家だ。そのあと家族で回転寿司に行って「イクラばかり取るんじゃない。とびっこも同じくらいうまいぞ。」と子供をたしなめたりもする。30万皿くらい節約しないとさっきの借金は返せないので完全にコントなんだけれど、投資と家計は2桁くらい金銭感覚を切り替えないとやっていけないし、その切り替えができずに公私が混ざると、すぐに身を持ち崩しかねない。
 不動産投資ゲームの点数なんかに一喜一憂して生活を乱したくないのだ。土地取引で売主に手付金を1千万円持ち逃げされた日は、若干ぼんやりしながら家族で新宿で映画をみていた。東京都が道路拡幅で仕入れ値に数千万円載せて土地を買ってくれた日も、とくに何を祝うわけでもなく覚えてないほど普通に過ごした。でも映画のあとにはお腹をこわしたので、マイナス側での2桁切替はどこか体に負担がかかっていたのかもしれない。

 そうやって一人で気ままに大家業をやっているけれど、悩みといえば子供のことと死んだあとのことだ。
 ぼくにはこの暮らしが性に合っているけれど、誰でもできる仕事だし、とりわけ人に感謝されたりする仕事でもないから、ぜひ継がせたい、大家はいいぞとも思わない。とはいえ有名大家さんを見ると、だいたい子供に継がせているし、そもそも賃貸業には二代目や三代目の人も多く、不動産は世代を超えて続く戦いでもある。そのうち後継者がいないとお金を貸してもらえなくなる年齢もやってくる。
 よりよい生活のため、よりよいお給料をもらうため、よりよい学歴を得るため、よりよい塾に行く…みたいな話だったら、もうぜんぶやらんでええぞ、パパが今からアパートの買い方を教えちゃるという気持ちもあるけれど、周囲を見れば生活のために働く必要が一ミリもない地主連中ほど、むしろしっかり勉強して高学歴だったりするので、たぶん人生にはアパート以外のものも必要なのだろう。

 もう一つの悩みはいきなり死んでしまったときのことだ。「団信は家庭内で利益相反する!」とよく冗談で言っているけれど、実際に加入していないので、相続人には借金とボロ物件の山がいきなり数億円分降ってくることになる。さぞや迷惑だろう。うまいことその時に相談できる人や廃業プランを準備しておいてあげないといけない。
 数百通の契約書を積み重ねて動いているこの巨大なピタゴラ装置はぼくが死んだあとどれくらい動いてくれるのだろう。そのまま十年くらいは遺した家族を変わらず支えてくれるだろうか。それともブツアゲ業者に解体されたり、漏水に疲れた妻が相談に入った駅前の不動産販売にいいようにされてしまうのだろうか。
 そのあたり不動産投資家の皆さんは死んだあとプランをどう準備しているんだろう。よかったら教えてください。

 そういえば、ちょっと前に築60年のブロック造・借地の店舗型風俗店という癖の強い物件をご遺族の方が利回り20%で売っていたことがあった。交渉に出てきた息子さんは大企業でサラリーマンをしていて「父親がこんな物件に投資をしているなんて我々家族はまったく知らなかった…すぐにも手放したい。」と、ぼやいておられたので、それならばと利回り30%を提示したら「そんなに安く売るくらいなら利回りで持っておきます!」とブレイクしてしまった。いい話だ。利回りは全てを癒す。
 正直、まだまだ後継者とか相続とかいった話をするには恥ずかしい規模なので、もうしばらく大家業を頑張って、せっかくなら相続税についても悩んでみたい。まだまだ買います。物件情報ください!




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