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大家という稼業(借金が好き)

 不動産投資家は借金が大好きだ。
 いつも借金のうわさ話ばかりしている、こうやったら融資が出た、新しいローン商品が使える、金融庁が入って渋くなった、合併でフィーバーする、あの支店はよく出る…。ほとんど会話がパチンコ狂と変わらない。お前ら借金が好き過ぎる。俺も借金が大好きだーッ。

 借金は翼のようなもので、自分の足で歩いていては、一生たどり着けないところまで連れて行ってくれる。
 いま手元に1億円がなくても、借金をするだけでいますぐ1億円のアパートを買うことができる。そのアパートが毎年1千万円のお家賃を生み出し、そこからお金のレンタルフィーである金利2百万円を支払う。あとの8百万円は?ぜんぶキミのものだ。
 1億円を貯めてから買おうと思ったら一生かけても手が届かない買い物なのに、不思議なことに先に買ってから借金を返せば十数年で簡単に手に入れることができる。
 それに借金といっても何も無駄遣いしたわけじゃない。日本円をアパートに両替しただけのこと。やめたくなったらいつだって日本円に戻して返済すればいい。

 不動産投資の醍醐味は、他人のお金を借りて買い物をして、他人のお家賃でその借金を返済することだ。まるで他人に借金を肩代わりさせてるようなもので、あまりにも虫が良すぎるだろうか。普通の人ならちょっと気がひけるかもしれない…。

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「読んで納得!! vol1 不労所得の仕組みについて」より

 ありがとう。そんなに気にかけなくても大丈夫だった。
 だからもう、借金は悪いこと。働くに追いつく貧乏なし。そうした資本家に都合のいい洗脳から解放されよう。お金の増えないブタの貯金箱をいつまでも大切に抱きしめて暮らすのはやめだ。借金じゃなくてファイナンス。お金が足りないんじゃなくてレバレッジ。CCR!IRR!other people's moneyで成果をドライブ!そうやって不動産投資セミナーで気持ちになって借速をぶち上げた結果、最初のカーブを曲がり切れずに崖から転がり落ちていく新人大家の事故が後を絶たない。

 そうなんすよね。先の8百万円から、▼経費2百万円、▼税金1百万円、▼アモチ(元本返済)3百万円を引いて手元になんぼ残るかといえば、せいぜいキャッシュフローは2百万円くらいだろう。
 そのうえ最初1千万円だった家賃は建物がボロくなるにつれ減っていき、税金は減価償却が切れると増えるのだ。ローンに頼った不動産投資は、だんだん道がせまくなる税引後キャッシュフロー峠をブレーキの壊れた車で駆け抜けるようなもの。
 このワインディングロードを脳内にイメージできていると、次々とローンを重ねても、しばらく道が細くなるけど大丈夫かな、一本返済が終わって来年から道が広くなるからもう一棟いけるな、コロナ融資で幅員が広くなった!などと、楽しく多重債務ドライブができるようになると思う。
 まあそんなドライブはしないでもいいんだけど…。事故を起こす人があまりに多いと金融庁のパトカーが借速の取り締まりにきて迷惑なので、初めて走るときは、ちょっと返済比率とかも気を付けてみてください。最高速レースじゃないんで、どんな車でも事故さえ起こさなければ前に進むんです。

 借金をすればするほどお家賃が入ってくるのは事実。でも家賃年収N千万円をアピールしてるのに預金口座にはN千万円がない大家ばかりなのも事実。家賃はどこへ消えた。
 >▼アモチ(元本返済)3百万円。
 ここだ。物件はそのままなのに、借金が減るという形で、返済するたび純資産が増えている。ぼくはこれをコンクリ貯金と呼んでいる。そして悩ましいことに物件を買うだけの大家は、売却について妄想することしかできない。
 簿価は幻、積算はバグ、路線価はインチキ。マーケットで売りに出してちゃんとまた日本円に戻るのか。株価のように値段はみえないのだ。
 それが本当にコンクリ貯金だったのか、それとも売主業者のウブロ代やキャバクラ代を割賦で払っていただけだったのか。大家業の答え合わせは大家をやめたときにしかできない。

 さて。不動産投資におけるレバレッジの魅力から、ATCF(税引後キャッシュフロー)の乏しさ、さらにNAV(純資産価値)の見えなさぶりについて書いてきた。
 ぼくはもうNAVについて考えることをやめた。だって乙区の債権者の許可、さらに借地なら地主の許可、そもそも流動性が死んでいる物件や権利関係で係争中で日本円に戻らないものもあり、自分の意思だけではもう大家業からきれいに足抜けすることは困難になってしまった。
 幸いなことに東京の地価が下がらないので、返済したら返済しただけ借り直して、また次の物件を買うということを何年も続けられている。そのため残債はぜんぜん減らないし、借金はいつか返し終わらなければならないという意識も希薄になってきた。貸してる債権者の方だって残高を減らしてくれるなという顔をしている。そもそも法人は永遠に生きるのに、借金をぜんぶ返す必要なんてあるのだろうか。あるのかどうかわからないNAVについて考えるよりも、いま目の前にあるキャッシュフローを愛そう。

 そんなわけで不動産投資で本当に儲かっているのか、答え合わせの時間は永遠に来ないままになりそうだ。どこか心に残尿感を抱えたまま、お家賃とローン返済の隙間で、この利益なのか借金なのかもわからないお金を啜って、今日も暮らしていく。




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