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【詩】Chiffoncake

したたる音
茶色いメープルシロップの
まだ蒼いバナナの房の
滑り落ちる
ボウルに
バターの傲慢が融けてゆく
白砂糖はよろこび
黄身の唇が歪み
粉々になる

清冽な卵の殻が
罅割れてゆくプライド
卵白の恐れは泡立ち
ハンドミキサーのモーター音がびりびりと響いて
ふるわれた小麦粉は軋み
ホイップクリームは躍り
膨らんでゆく
どろりとした素材が
銀色のステンレスの型に嵌め込まれ
やがてターンテーブルは
回旋曲を重ね
リフレインのように
ラム酒の滴りが欲望をかきたて
チョコレートの破片の混ざり合った
Chiffoncake

女が
完成する
蜜の匂いが
キッチンに充満し
私が
壊れる


甘き香りの扉が開く





            詩集「スパイラル」
             モノクローム・プロジェクト刊
                 2017/4/10

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