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【詩】悪魔祓い

私の頑固な顎があなたを追い出してしまった。テーブルには、桃色のローストビーフが客の肥えた舌という祭壇に捧げられるのを待っている。煌めくグラスの連なりが、被災した悲劇のスピーチを細断する。曰く、「食べ物がありません!どこにもありません!」。詩人たちは優雅に、己の功績をお互いに裁断しつづける。

サーモンピンクのドレスで昨夜の情事による痣の付いた肢を包みつつ、絢爛たるシャンデリアの光の下に、大学教授の脹脛が上に乗っている有田焼のインディゴブルーの皿を発見して私は世界と繋がれた。この瞬間、逆子で出生する筈であった私の姪を流してしまった、あなたの暗緑色の臟を思い切り壁に叩き付けたのである。

生きるべきか死すべきかと激しい論争を戦わせながら、あなたはロビーで隣のソファーに座った肩に漆黒のブラジャーの紐の透けた淑女を犯したいという欲望と闘っているらしい。窓の中の下弦の月は、どこまでも私を追いつつ検閲している。遠く北東の汚染された海では、群れからただ一匹離れた鮭が南へと泳いで行った。





                  詩集「スパイラル」
                   モノクローム・プロジェクト刊
                       2017/4/10

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