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【詩】朝の街灯

あなたの精液を根こそぎ搾り取った朝
井の頭公園の夏というより春めいた街灯を歩き
各停の始発はゆっくりとよろめき
セーラー服の少女の出立姿を見つめている学生服の少年の
視線にきらめくような陽光が浮かび上がり
そうあれはわたしでした
三十年前の予感がはっきりとした記憶になって
家の家紋は穂積です
歩くときはいつもスマートフォンはマナーモードに設定し
SEXの最中に携帯を見ないで下さいと言わずに
ゆるやかになだらかに背中に手をまわし
屹立した性器に手を触れ
導いてゆくのは私の方です
二人前のそばと帆立はおいしかったですか
と聞く間もなく古びた便器が目の前にあり
くずれてゆく腹部のシルエットが重なり
呑み込もうともしない喘ぎがたぶん階下にも聞こえていて
濃い桃のカクテルはバッドトリップしますよ
物事は安心感を持って一歩一歩対処しましょうという臨床医の声が響き
ああうるさいうるさいと
ネットサーフィンの中に水没してゆくわたしの快楽が
ありとあらゆる男根にも波及してゆく
デパスは頭痛薬の代わりにいつも携帯していて
五十代向けのアイシャドウで隠れた目元の皺が
あけひろげに開かれていて今も
早死にする前にもう一度お会いしましょうと
時候外れの挨拶を交わして
鳩尾のフィルムに焼き付いている
早朝の改札口に何事もなかったかのように消えてゆく男の影法師が
気がつけばいつもそこにあります






               詩集「スパイラル」
                モノクローム・プロジェクト刊
                    2017/4/10

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