![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/63118938/rectangle_large_type_2_0b82f9eaab78686e40b2776b37cad231.jpeg?width=800)
Photo by
cectne9
その後の道
とある晴れた皐月の日に
私はアパートの窓から見える
細い道なりの終点にあるうつくしい建物へ向かって
ぽつぽつと歩き始めた
高級そうな表札をかけた
住宅がたくさん視界の端っこから
流れてゆく
(私は歩くのが早い
(すたすたすたすた
いつもの沼にたどり着く前に
あっという間に
道の終点は見えた
小さな傾きかかった民家が一軒
袋小路の奥にあり
そこで行きどまりだった
宵闇にひかって見えていたビルは
そのまた遥か向こうにあるのだった
私はわらった
大声でわらった
(いつかあの瀟洒なマンションらしき建築物に住んで
(胡麻白ろい頭の素敵な彼氏と一緒になって
(ふたりきりで暮らしてゆくかのように
夢見ていたけれども
現実には
ひとりであれ所帯持ちであれ
生きてゆくということは
最後に崩れかかったひとつの廃屋になるということなのだった
でもそれは
現在のわたしには
もうそんなに悲しい事実には思えなかった
(みんないつかどこかで
(つめたい骸になるのだということが
すとんと腑に落ちた
それから私は
細い道をまた引き返して
自分のアパートの八階の部屋に着いて
焼きピーマンの丼と冷やしツナの山葵奴ときゅうりと大葉の赤出汁を
狭い台所でつくって食べた
暮らしは
今
ここに
あるのだ。
初出 妃23号 2021年8月
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?