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【詩】1と9がない

あなたは私の愛を映画館で囓るポップコーンのように放り出して「もうキミは要らないよ」と呟いた。私がコーラをあなたの背中にぶちまけるとみるみる内に褐色の染みが広がった。あなたは黙ってスーツを脱いで「クリーニング店へ行ってくれないか?でなければ別れる」と言った。私は空になったコーラの瓶であなたの後頭部を強かに殴った。あなたは床に倒れて動かない。

私は119番をコールしようとしたけれども、何故だか電話機のプッシュボタンからは1と9がなくなっていた。あなたは昏倒したまま動かない。ドアを開けて外を左右に見まわすと誰もいない。素早く黒いビニール袋にあなたを詰め込もうとしたら、死体はスーッとしぼんでグニャグニャの抜け殻だけが残った。

私は台所にへなへなと座り込んだ。あなたはただの空気人形だったのだ。しわしわになったシャツを脱がすとぺちゃんこになった皮膚の塊だけが残った。私はこれを愛していたのだ。壊れかかったクーラーの音が部屋に静かに響いていた。



                  詩集「スパイラル」
                   モノクローム・プロジェクト刊
                          2017/4/20

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