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プロの仕事が響き合う 蛭川伊勢夫監督『東京の空の下には』


易者である藤川(宇野重吉)の人生の一幕。その顧客や家族、仕事仲間、近隣の人々に悩まされ、翻弄されながらも、人情や真理に背中を押され、新しい道を見つけていく。

この頃、映画を観るときに気になるのは、「誰を」「どのように」描いているか、ということだ。強者なのか、弱者なのか。弱者はどうしてそのような境遇にあるのか。その行動の背景には何があるのか。人は何に潰され、何に救われているのか。ストーリーもわかりやすく、気負わずに観ることができながらも、地べたで必死で生きている登場人物たちにとても胸打たれた。

こう書くと、単調な人情ドラマのように思えてしまうが、それをコメディとして、エンターテインメイントとして魅力的な作品にしたのは、「井伏鱒二原作(『吉凶うらなひ』1952年)、蛭川伊勢夫監督・脚本、宇野重吉・山田五十鈴主演」といった、一流の制作陣の力だろう。名優として名を馳せた役者たちの演技というものは強烈な魅力があるものだ。佇まい、しぐさでの語り、無言の間に走る緊張感。宇野重吉と、山田五十鈴との、丁々発止の掛け合いは見事だった。黛敏郎の音楽とあいまって、恋心、すれ違い、耐える痛みの切なさが伝わってきた。昨今の映画は大袈裟な表情や大声が飛び交うことが多く、聞くのが辛いときすらあるが、抑えた表現にも大いなる力はあるものだ。

アマゾンプライムで配信されているのをたまたま観たのだが、なぜかリンク(が上手く貼れない。URLは以下のとおり。

https://www.amazon.co.jp/東京の空の下には-宇野重吉/dp/B09DLK1NZ1

映画レビューサイト「フィルマークス」でも出てこなかった。あまりに面白かったので、フィルマークスで忘れないうちにレビューを書きたかったのだが、ないので忘備録にこちらにまとめた次第。なお、本作品の主人公は易者だが、易学について記事をお書きのブログ(蒼流庵主人様)によると、DVDはおろかVHSでも出ていないとのこと。素晴らしい映画なのに、不思議。原作についての面白い記事だったので以下にご紹介。


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