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㊗️ヤス誕!少女都市からの呼び声 本気考察と感想(1万字超)

【目次】
◆はじめに
◆みこしの考察
・なぜ田口の体内に雪子の髪があるのか?
・夢の世界とは何か?
・フランケの夢
・田口の夢
・雪子の夢
・夢の世界の理(ことわり)
・有沢と雪子、ときどき田口
・雪子はなぜ夢の世界に引き戻されたのか
・雪子という存在
・「少女都市からの呼び声」とは何か
◆みこしの感想
◆おわりに


⚠️ネタバレ注意⚠️
観劇済みの方へ向けて書いたのでネタバレしかしてないです!!
他劇団で本作をご覧になる予定がある方は、閲覧しないようお願いいたします。

⚠️妊娠や女性特有の部位に関する話が出てきます。不快に感じる方は閲覧しないようお願いいたします。


◆はじめに


どうも、こんにちワンツー、みこしです。
お久しぶりです。
はじめましての方、はじめまして。

今回はヤスくん主演舞台「少女都市からの呼び声」の考察をしていきます。
考察シリーズもなんだかんだ3回目になりましたね。実は考察書く予定無かったんです。その証拠に1回しか観劇してないし、なんならなんでもう1公演行かなかったのかとめちゃくちゃ後悔した。ではどうして書くのかと問われたら、すっっっごくよかったからです。おそらくアングラ独特の、ワケわからん感じが刺さりました(褒めてる)。

観劇後の勢いでワクワクしながら書き始めたら、これが超苦戦した。抽象的であるのが良さだけど、抽象的すぎてどこから説明したらいいか……。言い訳します。たぶん過去いち読みにくいです。自分で書いた説明が自分で読んでもわからなすぎて、ついに図解に手を出してしまいました。分かりにくいことこの上ない仕上がりではございますが、作品自体の魅力がすごいので、理解してもらえたときにはより深く感動してもらえると思います。

私はズブズブのeighter(丸山担)でございます。全編を通してほぼ超個人的解釈(妄想ともいう)で構成されているので、いち個人の意見としてお読みいただけたらと思います…!!

毎回いいねや考察の感想などくださりありがとうございます!!今回も皆さんのご意見・ご感想を楽しみにしております!!ぜひみこしのTwitter(X)にメッセージください😊

みこしのTwitter(X)→@kimiwo_katsugu
考察ツイートURL→
https://twitter.com/kimiwo_katsugu/status/1701216350306443376?t=UF0aTcXW8X_gmgMDD4VbwA&s=19

さて、これから長い旅が始まりますが、どうか最後までお付き合いいただけますと幸いです。よろしくお願いします!!🙇


◆みこしの考察~「少女都市からの呼び声」とは何か~


それでは考察に入っていきたいと思います。考察のテーマは「少女都市からの呼び声」とは具体的に何なのか、です。前述した通りとてもややこしいので、いくつか前提を踏まえた上であとから解説していく形式にしました。数学の問題集を答え見てから解いていくあれです。
前提にはパンフレットで得た情報と私独自の解釈が混ざっています。最初は意味が分からないかもしれませんが、考察を読んでいくうちに繋がっていくようになっているはずです。

※『』はパンフレットから引用した部分です。それ以外の部分は記憶や憶測だけで書いているので確実な情報ではないことを了承ください。

【テーマ】「少女都市からの呼び声」とは具体的に何なのか

【前提】
・作品を読み解くキーワードは「生と死」、「夢と現実」
・ガラスの塔=オテナの塔=夢の象徴
・夢の世界=死にきれない者たちとその夢が集まる世界=少女都市
・雪子=夢の世界(死者の世界)の象徴=少女都市の象徴
・ビー玉=『子宮の涙』=命、魂の象徴

ここからはストーリーの流れに沿って考察を進めていきます。


◆なぜ田口の体内に雪子の髪があるのか?


唐十郎さんのインタビューにあった通り、雪子は田口と『一緒に生まれるはずだった二卵性双生児の妹』であり、田口が生まれる際に『摘出されたほう』です。ではなぜ髪だけが残っているのか。おそらく現実ではあり得ないことだと思います。あの髪は雪子が「完全に死んではいない」ことを示しているのではないでしょうか。生物学上は死んでいますが、少なくとも物理的にも精神的にも、田口の中では生きている。

これについてたぶんお医者さんたちが大事なこと言ってた気がするけど難しくて、正直アシタカしか記憶にない…笑 パンフレットでは『奇形児が生き残れる可能性についての話』がでてくると書いてありました。他にも生殖がどうこうみたいなことを言ってた気がする…覚えてる方、情報ください🙏
なんにせよ「雪子は本来生きるはずの命」で「田口の中で雪子は生きている」、という前提は考察する上でめちゃ大事です。


◆夢の世界とは何か?


前提の通り、夢の世界は「死にきれない者たちとその夢が集まる世界」だと考えます。『辺りをよおく見てごらん。ここは、無い世界さ。』という老人のセリフがありましたね。実は老人もフランケも、夢の世界にいる人々はみんなすでに死んでいる、死者なのではないかと考えています。つまり老人の言う「ない世界」が指しているのは夢の世界であり、夢の世界=死者の世界だということです。


田口は夢の世界の中で妹(雪子)に出会います。まだ死んでいない田口が夢の世界にたどり着いたのは、腹痛で生死の境を彷徨ったからです。おそらく雪子を探す過程でフランケを中心とした死者の世界(夢の世界)へ迷い込んでしまったと考えられます。

この世界で、
フランケはフランケの夢(儚く壊れる美しさ)
田口は田口の夢(雪子とともに生きること)
雪子は雪子の夢(現世で生きること)
を追ってさらに迷い込んでいきます。
それぞれの夢についてはこれから詳しく考察していきます。


◆フランケの夢


フランケは雪子のフィアンセとして、彼女の身体をガラスに作り替えていました。なぜフランケはガラスの身体を求めるのでしょう?彼は「透き通った頭、透き通った身体を持った、いつか肉体が壊れることを怖れる子ども」と歌っていました。ガラスの身体をもつ子どもなんて現実の世界ならありえません。でも夢の世界ならありえるかも。ガラスの身体だって作れるし。
ではこのガラスのこどもは何を指しているのでしょうか?まずはフランケの過去を振り返ることから始めましょう。

演出の金さんがパンフレットで『日本人にとって満州帝国とはなんだったのか、いまだに彷徨っている精神的亡霊が登場します』と語っておられます。この亡霊とはおそらく連隊長を指してらっしゃるのだろうと思うのですが、私はフランケも亡霊と解釈していいのではないかと考えます。というのも彼にとって戦争の体験は価値観を大きく揺るがす経験であり、無謀とも思える夢を抱くきっかけになったと考えるからです。

連隊長は君の夢を叶えなさいとフランケを送り出し、自分は隊員とともに戦場へ向かいました。彼らはすべてをフランケに託し、戦死してしまった。戦場を知らない私でも辛いと感じるくらいですから、戦地に留まりたいと必死に訴えたフランケが受け取った彼らの誇りと無念は相当なものだったでしょう。

一方で彼が受け取ったものはそれだけではないはずです。戦争の理不尽さ。命の軽さ。何よりそれらに抗って立つ連隊長の意志の強さ。すべては儚いからこそ価値があり、理不尽に壊されるからこそ美しい。
フランケはこうも言っていました。ガラスは一瞬で儚く壊れる。本当に胸が張り裂けたこともないのに「張り裂けそう」と言う人間とは違い、自分の意思とは関係なく、いつの間にか、理不尽に壊されてしまう。『割れたら、おまえはもうおまえじゃない。割れるまでがおまえなんだ。』。

なぜフランケはガラスのこどもを求めるのか。フランケは決してガラスを割りたいわけでも、割れたあとに興味があるわけでもありません。いつか壊されることを恐れながらも生きたいと願うその儚さ、美しさ、強さを夢みているのです。そして夢を手に入れるために、自分が壊すもの(理不尽な存在)として在ることを貫いている。彼が銃で田口を撃ちふたりの夢を壊そうとしたのも、命よりガラスの儚さを尊ぶ彼の道理に従った結果といえます。


◆田口の夢


『僕は雪子とそちらで生きることが出来るのかい、アリサワぁ。』
田口のセリフです。そう、彼の夢は「雪子とともに現世で生きること」。けれどその夢は実現するはずがありません。だって現世に雪子はいないのだから。わかっていても田口はいない妹を求めて夢の世界に迷い込みます。

田口が雪子に出会うシーンで、田口がまるで雪子と久しぶりに再会したかのように接していることに違和感を覚えました。ハイスクールの頃のままだとかいう単語も出てきて、あれ?雪子って生きてるんだっけ?と思いながら聞いていました。たぶん田口はずっと、自分の代わりに死んでしまった雪子と一緒に生きてきたのでしょう。それが田口が見てきた幻なのか、本当に雪子の意思だけが存在しているのかはわかりません。だけどきっと普段から当たり前のように“いない”雪子と一緒に生きてきたんだと思います。

ただ、有沢以外には妹などいないと雪子のことを隠しているはずです。雪子が他の人には見えないのだとどこかで気づいたからかもしれません。だからこそ田口は雪子に執着しているとも言えます。有沢以外で自分を深く理解してくれる人。まさに一心同体の存在。貧乏暮らしを照らす太陽のようにハツラツとした少女。自分が死にかけたとき、どうにかして雪子だけでも甦らせたいと願うのも無理はありません。

また田口は優しく熱烈な、矛盾しているかのようにも見える愛情で雪子を想っていたのだと考えられます。それがわかるのは『雪子、さあ、生きる筈だった世界が待ってるよ。』というセリフ。彼は雪子が自分の代わりに死んでしまったことに、少なからず罪悪感を抱いて生きてきたのかもしれません。だからどうしても雪子の願いを叶えてやりたいと本気で思って彼女を現世に送り出した。あの瞬間の切なさと彼の覚悟はとても印象的でしたね。
一方で雪子のことをうっかり押し倒してしまったり首を絞めたり、自分だけのものにしてしまいたい、みたいな独占欲も感じます。長年孤独に雪子のことを想ってきたからこそ、田口の愛情は絵の具のように混ざりあった複雑な色をしているのでしょうね。



◆雪子の夢


ガラスの塔に閉じ込められている雪子。塔は「オテナの塔」と呼ばれ、人々に最後の希望として夢見られています。夢の世界の夢の塔の中にいる女の子。それが雪子。彼女は多くの人から“夢であること”を背負わされた存在です。フランケの夢、田口の夢。すべて雪子に依存しています。けれど彼女自身の夢は何なのでしょう?

ちょっと話は逸れます。田口の指を切るシーンで、雪子は身体がガラスになったなど嘘のように動き回ります。もしかしたら、ガラスの身体になったなんて幻なのかもしれません。フランケもフランケの周りの人たちも、フランケの夢の中にいる雪子を見ていただけなのかもしれない。同じように田口も田口が見たい雪子を見ます。ガラスの身体になったと言われても、ちょっとやそっとじゃ壊れない、体温をもった“人間”の雪子を見ている。でもフランケの夢とちがうのは、体温を持つ雪子を求めているのが田口だけではない、ということです。というのも雪子の夢は「現世で生きること」。

最初はこっちじゃなくて、ガラスの身体になることのほうが望みとしては強かったのかもしれません。『あたしの肉体だけが母親の肉体と最も縁遠い観念の結晶になるの』と言う雪子のうっとりした表情はまさに夢見る乙女です。なぜ雪子がガラスの身体になりたがるのかというと、このセリフが示す通り「母親の肉体から縁遠い観念」になりたいからなんですね。

雪子は母親のお腹のなかで死ぬことを余儀なくされました。それはつまり人間の肉体に殺されたようなもので、肉体というものの無意味さ、儚さを痛感しているはずなのです。だからこそ肉体とか子宮とか妊娠とかいうものは雪子にとっては価値のないもので、ガラスの身体(肉体ではない無機物・生を生み出さないもの)こそが価値あるものなのです。ガラスの子宮なんてまさしく「母親の肉体から最も縁遠い観念の結晶」と言えますね。

ならばなぜ雪子は現世で生きたいと願うのか。有沢との会話や田口に首を絞めてもらうシーンで確信しました。雪子はそれこそ死んでもいいくらい、現世で生きたかった。誰かと出会って、魚を食べて、恋をする。人間の肉体に価値はないと思う反面、人間として、女性として無事に生まれていれば当然得られたはずの人生を夢見ている。なぜなら雪子は自分の意思とは関係なく、理不尽に命を奪われたからです。誰かの手で理不尽に壊されてしまうガラスのビー玉と同じように。

でもガラスの身体であるということは「命がない」というのと同義だから(人間はガラスの身体では生きられない)、体温のある身体じゃないと現世には行けない。だから自分の本来の肉体を取り戻す代償として、田口の指を切る“必要があった”。田口は雪子とともに生きたいと純粋に望んでいて、その気持ちは雪子も同じですが、まったく同じ大きさなわけではないと思うのです。そう感じる理由は次のテーマで。


◆夢の世界の理(ことわり)


田口が雪子に指を切られたように、おそらく現世に戻るには代償がいります。必要なのは失ったものと同じ価値のもの。だから雪子の本来の肉体を取り戻し現世で生まれるには、雪子の失われた指や身体と同じ価値のものが求められます。
ここで雪子が失ったものとその代償をまとめてみましょう。

  •  中指→田口の中指(勇気の指)

  •  薬指→田口の薬指(情熱の指)

  •  小指→?(雪子と逃げる約束の指)

  •  子宮→?

  •  命→?

そう。雪子が現世に戻る代償はまったく支払われてません。田口は頑張ってたけど、中指と薬指じゃ足りなさすぎるのです。でも雪子はちゃんと現世に一瞬戻れている。ってことはちゃんと支払われているか、支払われそうになっているはずなんです。ではいったい何が代償として支払われそうになっているのでしょうか。順にみていきましょう(教育番組みたいになってきた)。

まず小指。これは田口がはっきり言っています。『最後に切るはずだった指は、己の身体のことだった。』。そう、田口が腹をフランケに銃で撃たれたときに小指の代償は「田口の身体」をもって支払われ、約束は果たされました。

じゃあ残りの子宮と命は?私は、子宮の代償は「田口の腹」、命の代償は「田口の命」だと思います。これだけ聞くと「?」ってなるでしょうが、物語の流れから考察するとしっくりくるんです。

田口の腹の痛みは、子宮の痛み、つまり生理痛みたいなものじゃないでしょうか。もちろん田口は男性だから子宮自体ありません。でも子宮と同じ場所にある腹が痛むのは、本当なら代償として切るはずだった子宮を切っていない田口への、夢の世界からのツケが回ってきているのだと思います。にしても日常的に腹に痛みが襲うなんてひどく苦痛のはず。実はこの「痛み」自体にもちゃんと正体があるんですね。詳しくはのちほど。

代償に話は戻ります。では命は?田口は生きてるけど?と思うでしょう。その通り。田口は生きています。いや、生き返った、というほうが正しい。雪子が現世にいる間も、たぶん田口は生死の境にいます。田口の命が雪子の命の代償ならば、雪子は現世にいるのだから、本当ならあそこで死んでいなければおかしいですよね。けれど田口が死ぬよりも先に、雪子が夢の世界へ引き戻されてしまった。だから田口はギリギリ息を吹き返したとは考えられないでしょうか。つまりそれぞれの代償について改めてまとめるとこういうことになります。

ただこの考察には問題が3つあります(多い)。
ひとつめは、そもそも夢の世界で雪子が失ったものはこれらに留まるのか、です。なんか全身くらいの勢いで改造されてる場面があったので、もしかしたら顔とか脚とか全部ガラスになってるかも。でも小指の代償が田口の身体だという事実は「田口が勝手に小指の代償だと思い込んだ」可能性もあるので、「全身の代償を全身で払った」と解釈することもできます。

ふたつめは、夢の世界での出来事が現世にどれほど影響を及ぼすのか、です。夢の世界で田口は指を切りましたが、現世では指あった気がする……けど覚えてない。覚えている方、情報ください。まあもし影響があってもなくても子宮を持っていない田口がすべての代償を払えるはずはないので「田口の腹痛が生理痛説」は変わらず提唱できると思います。

みっつめの問題は、この理を雪子が知っているのか否かです。もし知っているなら、自分が完全に生き返れば田口が死ぬことを知っていたかもしれないのです。私は、雪子はうっすら勘づきながら田口に代償を求めていた可能性もあるのではと考えています。というも『もしも、この町から連れ出せるなら、ちょうだい、最後の指を。』というセリフから、約束を果たしてほしい雪子の切実な願いが感じ取れるからです。加えて雪子が現世に現れたとき、女になった田口として自分のことを見る有沢に対して雪子は「そう思うならそうでもいいわ」と返していました。ここにも雪子の純粋かつ強かな生への渇望が感じられます。もちろん雪子にとって田口は大切な存在だけど、自分の夢を叶えたいって気持ちも人一倍強かったんだろうなと思います。そりゃそうだよね。本当は生きるはずだったんだもんね。


◆有沢と雪子、ときどき田口


「雪子は、女になった僕として生きるんだよ」と話す田口に背中を押され、表向きには「田口女の子ver.」として現世に現れた雪子。ビー玉の欠片を拾った有沢に姿を認められます。また後述しますがビー玉は魂の象徴で、ビー玉が割れたということは、あのとき田口と雪子は分裂したのではと思うのです。田口という魂が2つに割れて、そのカタワレとして雪子は現世へ出てきた。

でも雪子は本当は「田口女の子ver.」ではなく雪子のままなんですよね。はじめは雪子が田口の姿を借りてるのかな?と思ってたんですが、雪子がビンコに言ってた「あなたは認めようとしないけれど私の姿がだんだん見えてきてるはずよ」みたいなセリフから察するに、その姿は見ようとする人にしか見えない、幽霊のような感じなんじゃないかと推測します。

さて本題です。あのとき雪子が妙に有沢に積極的なのが気になって理由を考えてみたら、ひとつの疑問にたどり着きました。
有沢のことが好きなのは、田口ではなく雪子だったんじゃないか?

最初は田口が有沢のことを好きなんだろうと思ってました。LOVEかLIKEかは微妙なところですが、雪子のことを信頼して話すくらいなので、田口にとって有沢は現世にいる唯一の理解者といえるでしょう。確実に特別な存在です。でも、雪子の有沢へのあの熱烈さ見ました?すごくないですか??単に田口の有沢を慕う気持ちが雪子に伝わっているだけでは、ああはならないような気がするんですよね。

いやいや、雪子にはフランケおるやんてなるんですが、フランケと雪子は「必要・不必要」で繋がってる利害関係なのであくまでも「フィアンセ」であって恋人じゃないんですよね。だから雪子の恋心が有沢にあってもなんらおかしくはないんじゃないかと。

雪子は田口を介して現世を感じていた。有沢のことを「こいついいヤツ!好き!」と思っている田口の心理が雪子に伝わる。そのうちに雪子は有沢のことを好き(LOVE)になって、片想いを募らせていった。さらにその心理が田口にも伝わって、ビンコのことが苦手になってしまった。こう考えるといろいろ腑に落ちるというか。

雪子が引き戻されてしまったあとに田口が有沢とビンコの名前を呼ぶシーン。ビンコのことが苦手なわりには普通に名前を呼んでいたので、田口自身の意思というよりも雪子の影響が大きかったのではと思います。雪子があれだけ自由に有沢を求めて、この世に有沢しか男おらんのちゃうかくらいに熱烈なアプローチをしてるのも納得できますね。

ところで有沢が雪子の髪を撫でる描写がなぜあんなに強調されていたのか気になって、それも考えてみました。髪は、雪子のなかで唯一現世にちゃんと“存在している”ものです。だから髪を有沢(現世に“存在している”人)に触れられると、雪子は現世に存在していることをより実感できたのではないかと思うのです。あと「好きな人に髪を撫でられる」ことで雪子の「普通の女の子として生きたい」という夢を少し叶えられたんじゃないかとも思います。そうだといいな。


◆雪子はなぜ夢の世界に引き戻されたのか


雪子が夢の世界へ戻された場面を思い出してください。ビンコがガラスを落としたり、ラムネのビー玉を響かせることで雪子は戻されてしまいましたよね?なぜあれで戻されたかというと、雪子のガラスの身体がビー玉と共鳴したからです。

雪子はガラスの身体を夢の世界へ置いてきています。田口がガラスを割ったとき、ガラスの身体をもつ雪子は、自分ではないガラスでも割れると辛いと話していました。あの現象と同じように、ガラスの響く音に雪子が夢の世界に置いてきたガラスの身体も共鳴して、雪子は夢の世界へ引き戻されてしまったと解釈できます。

もう少し深く観察してみると、興味深い考察が得られます。ビンコが響かせていたのはラムネの瓶でしたね。詳しくは「ラムネの瓶」と「ビー玉」です。ビー玉は、また後述しますが命や魂の象徴です。あれは「ガラスの身体」と「失われた命」が擦れ合う音なのです。つまりあの音に雪子が反応してしまうのは、単に夢の世界にあるガラスの身体に呼ばれているだけではなく、失われた命たちにも呼ばれている、と考えられます。実はあの音も「少女都市からの呼び声」なんです。答え合わせはのちほど。


◆雪子という存在


私は雪子=少女都市の象徴だと解釈しています。そう感じるのは、雪子がふたつの要素の象徴として存在しているのではないかと考えるからです。

ひとつめは、夢。実はヒントが本稿の序盤にあるんです。雪子は周りの人から“夢”であることを求められていると書いていましたね。夢の世界は人々の夢で成り立っている。少なくとも田口を中心としたこの劇において、夢の世界は雪子がいなければ成り立たない。つまり雪子=夢と夢の世界そのものの象徴であると考えられます。

ふたつめ。これは特に人によって解釈が分かれるところだと思いますが、私は「無念を抱えて死んでしまった命」の象徴だと思います。ここで踏まえなければならないのが、フランケの過去パートに出てくる連隊長です。連隊長は『日本人にとって満州帝国とはなんだったのか、いまだに彷徨っている精神的亡霊』です。つまり自分の夢(満州帝国)を見届けることなく死んでしまった。わかりやすく言うと成仏できずにいるのです。連隊長と雪子といえばやはりクライマックスのビー玉のシーンですよね。これもまた後述しますが、ふたりには「無念を抱えて死んでしまった命」という共通点があります。「現世で生きられなかった雪子」と「自分の夢を叶えられないまま死んだ連隊長」。そしてふたりには「叶えられなかった夢」もある。あのシーンからも、雪子が「夢」と「無念を抱えて死んでしまった命」の象徴であることが感じ取れます。

雪子が「夢と無念を抱えて死んでしまった命」の象徴だとしたら何なのか。そして「少女都市」とは何なのか。最初の前提を思い出してください。夢の世界=死者の世界でしたね。「夢と死」の2つの要素は今作の中心にある大きなテーマです。ここで雪子のあるセリフを思い出してみましょう。

『思い出して、兄さん、あの少女都市。』


このセリフを雪子がいつ話してたか自信ないんですが、「思い出して」ということは雪子と田口が一緒にいた、過去の世界を思い出してほしいということでしょう。それが夢の世界なのかお母さんのお腹の中なのかわかりませんが、どちらも同じようなものです(急に雑)。

要は生と死の狭間・夢と現実の狭間である「ない世界」を思い出してというメッセージだと思うんですよ。ない世界=夢の世界、死者の世界なので「少女都市=夢の世界、死者の世界」である、と結論付けられます。さらに夢の世界の象徴は雪子なので、「雪子=少女都市の象徴である」という公式も成り立つと思います。

なんか難しく書いちゃいましたが「雪子=夢の世界(死者の世界)の象徴=少女都市の象徴」でもあるってことです。ただちょっと注意しなければならないのは、雪子が「少女都市」を認識しているということは雪子=少女都市というわけではなく、あくまでも田口から見た少女都市の「象徴」である、ということです。また「ない世界」は夢の世界以外にも存在している可能性があります。例えば天国、地獄などの死後の世界。夢の世界はあくまでも生と死、夢と現実の狭間の世界なので「ない世界」の一部ではありますが、全部ではないはずです。


◆「少女都市からの呼び声」とは何か


やっとたどり着きました。ここまで読んでくださった方は、なんとなく呼び声の正体を感じてらっしゃるのではと思います。
「少女都市からの呼び声」とは、田口の腹の痛みのこと。つまり、

雪子(無念を抱えて死んでしまった人々と、その夢たち) が 

田口(自分の夢を託した生きている人) を呼び続ける声

なのではと考えます。

田口の身体は本人の意志とは関係なく痛み続けます。なぜなら彼の身体は、この世に生まれていたはずの雪子の身体でもあり、雪子のために支払われた約束の代償だから。雪子がどこかのガラスが割れると辛い、と話していたのと同じ。彼の身体は痛む度に、雪子が無事に生まれていれば当然あったはずの、体温のある身体と共鳴している。たとえ髪を切除してもしなくても変わらず、メスを入れられた瞬間の痛みをもって田口を蝕み続け、あったはずの命を求める。その「痛み」こそが雪子=少女都市からの「呼び声」なのです。

この解釈を踏まえてクライマックスの様々なシーンを振り返ってみると、どこかしっくりくる感覚がありませんか?
一緒にいくつか振り返ってみましょう。

さきほど、雪子が引き戻されたあの音も少女都市からの呼び声である、と書きましたね。
「ガラスの身体」と「失われた命」が擦れ合う音。田口と雪子は『つんざくようなガラスの割れる音が近づくなか』で夢の世界から逃れました。雪子のガラスの身体は、夢の世界からの脱出とともに壊れてしまったのではないでしょうか。雪子の存在も魂もすべて、もう夢の世界に戻ることはできません。ではどこへ行くのか。きっと天国のような「ない世界」でしょう。失われたものの終着点、というべき場所かもしれません。理不尽に壊されたガラスの身体と無念を抱えた命たち。“ない物たち”が雪子という“ない存在”を“ない世界”へ導く音。それがあの音の正体です。

クライマックスのビー玉のシーン。連隊長が雪子と重なるように登場した瞬間、直感的に「ああ、このビー玉はすべて命なのだな」と思いました。戦場で志半ば死んでいった人たち。兄弟を生かすために死ぬしかなかった子どもたち。みんなみんな、ビー玉のように儚く、理不尽に殺されてしまった。行き場なく漂うように横たわる雪子は連隊長とともに天国のようなところへ行くのでしょうか。行き先は誰にも知り得ません。

雪子と共鳴して痛む腹(少女都市からの呼び声)をぎゅっと抱くようにして庇う田口。彼が何度雪子の名前を呼んでも、もう二度と雪子に会うことはできません。今度こそ雪子は完全に“ない存在”になるのですから。自分の代わりに死んでしまった雪子への罪悪感と、生き返らせてあげられなかった悲しみと、「お兄ちゃん」と呼ぶように痛む腹の苦しみと、彼はこれからもずっと向き合って生きていかなければならないのです。

金さんはパンフレットであの大量のビー玉のことを『子宮の涙』と表現されていました。命が失われるということは、誰かが涙を流すということです。理不尽に失われた命たちのために、どれほど多くの涙が流されてきたかを想像してみてください。

大切な人を失った心の痛みは、田口のように物理的な痛みのほうが楽なんじゃないかと思えるほど、深く長く続いていきます。特に堕胎や戦争で亡くなられた場合は、ご本人がどんな思いでどんな無念を抱えていたのか、そもそも無念を抱えていたのかさえ聞くことができないケースもあるでしょう。でも残された人々はその痛みと折り合いをつけて生きていくしかない。そして自分が幸せになるたび、田口が雪子に『おまえは幸せだったか?』と問いかけたように「あの人は幸せだっただろうか」と自答し続ける。

「少女都市からの呼び声」なんて本当はないのかもしれません。「夢の世界」と呼ばれているように田口の一連の旅はすべて夢で、雪子も元から存在しない、田口の幻なのかもしれない。むしろ普通に考えればそのほうが自然です。でもこんな夢を見てしまうほど田口は追い詰められていた。自分の命を妹に生きてほしいと願うほど、いない妹を想っていた。唐さんはその「想い」に理由を与えたかったのかもしれません。「私たちの心は少女都市からの呼び声に応えているのかもしれない」「だから想いに囚われることはおかしいことではない」と。そして夢の世界に生きることを肯定も否定もせず、ただ現実を生きていくしかないことを提示している。現実の残酷さに心を抉られることがわかっていても、夢をみることを諦められない。そんな人間らしい弱さに対する、唐さんなりの愛情のようなものを感じました。




考察は以上です。いかがでしたか?分かりにくくてすみません…これが限界でした…。
考察してて一番怖かったのが、この解説に1万字ほど要す物語がすべて唐さんの頭の中で生まれた、という事実です。もしかして頭のなか四次元ポケットですか??意味わからん。とてもじゃないけど人間じゃないです(褒めてる)。すべてが抽象的で明確な解釈がないし、夢の世界を中心とした話だから全体的に展開が突飛なんですよ。でもねぇ…それがいいんですよねぇ……。

このあとは個人的な観劇感想を語っていきます。eighterさんはもちろん、今作品をきっかけに唐作品にハマッた方には「わかる~!」となっていただけると思うので、気が向いたらどうぞ。


◆みこしの感想


「この作品、だいぶ難しくないか??
アングラってぜんぶこんな風なのか??」
私の最初の感想です。羅列される情報の渦……。始まって5分くらいかな、赤ちゃんの模型が出てきた時点で一回理解することを諦めそうになりました。正直とっつきにくいかな、と思ってたんですが、話が進むにつれテーマの深さと世界観の美しさにみるみる惹き込まれていきました。

夢の世界って聞くとファンタジーな印象を受けるけれど、この作品は完全なファンタジーではない。むしろ堕胎や戦争など、センシティブな話題の芯をついた物語だと思います。なぜ命の不平等は起こるのか、虐げられた命たちはどう感じているのか、残された命はどのように生きていくのか。考えるだけで胸が痛くなるような重いテーマを、コミカルかつ前衛的な演出(ケレン味)を通して投げかけてくれる作品でした。

セリフがね、難しいけど美しいですよね。驚いたのが、意味の分からないところがあってもまあまあついていけるんですよ。不思議と観ているうちに全体を繋ぐ線がうっすら見えてきて。何よりクライマックスのシーンには時が止まったように目を奪われ、ため息が出ました。あんな風に抽象的な表現が多いからこそ解釈の余地が大きかったので、いろいろ考えながら観劇できたのが楽しかったです。

観劇後も非常に深く残る作品で、考察書いておかないと後悔する!と思いました。おかげで1ヶ月くらい少女都市のことばかりを考えていたので、自分の思考に「少女都市の呼び声」というカテゴリができてしまった気がします。ラムネの瓶見たら「雪子……」て言っちゃいそうな気がする笑

そしてeighterとして絶対に見逃せなかったのが主演のヤスくんです。ときどきヤスくんがすっっごく可愛く見える瞬間があって。特に白い入院服?を着ているときとか、少女のようにあどけなくって可愛いな~って思ってたんですよ。そうしたらヘアメイクさんがパンフレットで『田口と雪子はほとんど同一人物というコンセプト』と語っておられたのを見て、腑に落ちました。振り返ればふたりが白い服を着て抱き合うシーンも二卵性双生児感ありましたし、その情報を知らない観客にも「可愛らしい」と思わせるヤスくんの演技力に感服します。本当に複雑で難解な作品ですが、アングラ特有の魅力がヤスくんの持つ多面的な魅力によってより引き出されていたと感じます。

ていうか…ビジュが…めちゃくちゃいい……。すべての角度にスキがない。美しさの塊。指切るあたりのシーン、ヤスダーさんたち、生きてますか??ヤスくんの愛らしさと男らしさのギャップが存分すぎるくらい発揮されてて死ぬかと思いましたね。特に雪子と抱き合うシーンと首絞めるシーンで会場の全eighterが息を呑むのを感じました。わかる、あんな甘いヤスくんの直後に漢のヤスくん見せられたらギャップで倒れるよな。

あと超個人的感想になるんですが、私ね、長髪が好きなんです。髪をかきあげる仕草の妖艶さ。照明に透けて明るくなった、なびく茶色の長髪。しかもこれまた超好きなお兄ちゃん設定で、妹にアンビバレントな感情を抱いているときた。設定もりもりで最高ですね。閃光ばなしといいヤスくんお兄ちゃん役多いの嬉しいです、ありがとうございます。

最後のカーテンコールでは自分が座ってる端っこのほうにも視線投げて、「バイバーイ😊」と優しくお手振りしてくれました。存在がバファリン……。全編サングラスなしで、カーテンコールも眩しいだろうに裸眼で出てくれてました。アーティストとしてもそうですが、ヤスくんはほんとにプロフェッショナルですよね。いつだって自分のできる最上のパフォーマンスをしてくれます。その姿勢が格好いいし、eighterとして誇らしいです。ありがとう大好き……。


◆おわりに


みなさん、こんな長くてわかりにくい考察と感想を読んでいただき、本当にありがとうございました。ヤスくんのお誕生日という節目にあげられたこと、幸せに思います。

最近天気が不安定ですよね。晴れてたと思ったら雨降るし『なんてじめじめした陽気だろう』と思いますが(誰がうまいこと言えと)、風邪などひかないようにお気をつけください。夏もきっともう少しで終わり!厳しい残暑も乗りきっていきましょう!!

来年のスケジュール、どれかひとつ舞台だったらいいな~!私にまた考察を書かせておくれ~~!!😆


みこし🍣


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