【米国株】ユナイテッドヘルス(UNH)の財務分析

1.遵守事項

(1)金融商品取引法に関すること

有償、無償を問わず、有価証券およびその他の証券の価値判断の提供、個別銘柄推奨、インサイダー情報の提供、相場操縦といった不公正取引にかかる行為に関与しないことを誓約致します。有償による情報提供の意図はなく、投げ銭はお控えいただきますよう、何卒宜しくお願い致します。

金融商品取引法に定める「投資助言・代理業」、その他の金融商品取引業者としての登録を要し得る行為を行わないことを誓約致します。無登録営業の撲滅を切に願っております。

投資判断にあたっては、自己責任であることにご留意願います。

(2)著作権に関すること

情報の引用においては、必ず引用元を示します。

有料記事については、リンクの掲載を行うことはありますが、発行元の許可を得ることなく記事の内容、図表などの掲載は行わないことを誓約致します。また、無償のレポート等における引用においては、著作権法に定める「引用の要件」を遵守し、無断での転載・複製を行わないことを誓約致します。

(3)その他

こちらの記事は、国内外の上場企業をテーマに上げることもありますが、あくまで産業や企業を分析することを目的としており、株価の検証を行うことを目的としておりません。

また、株価や投資判断(売買タイミング、強気、弱気等相場の見方等)にあたってのご質問についてはお答えすることができませんことをあらかじめご留意願います。


2.UNH(ユナイテッドヘルス)について

(1)会社概要

ユナイテッドヘルス・グループ(UnitedHealth Group Inc)は、医療保険から在宅医療、医療データ解析、薬剤給付など医療サービスを多種多様に手掛けるヘルスケア総合カンパニー企業のような位置づけです。創業は1977年、ミネソタ州ミネトンカに本社があります。

ダウ構成銘柄の一角を占めており、足許の時価総額は5,072億米ドル、約70兆円とテスラに次ぐ時価総額世界第8位の巨大企業です。

UnitedHealthcare、OptumHealth、OptumInsight、OptumRxの4つのセグメントで事業を展開していますが、後ろ3つをまとめて、「Optum」と呼ばれることが多いかと思います。

(1)UnitedHealthcareの下で運営されている医療給付(医療保険)、および(2)Optumの下で運営されている主に保険外の医療サービスの2つのビジネスプラットフォームを通じて事業を行っています。

(2)UnitedHealthcare

①UnitedHealthcare Employer&Individual(従業員・個人向け)
UnitedHealthcare Employer & Individual は、全米の大企業、公的機関、中規模企業、中小企業、個人を対象に、消費者志向の包括的な医療保険プランとサービスを提供しています。また、世界150カ国で750万人以上の人々に医療・介護サービスを提供しています。

②UnitedHealthcare Medicare&Retirement
高齢者やその他のメディケア受益者の健康と福祉のニーズに応えることに専念しています。包括的で多様な商品とサービスを通じて、1300万人以上の人々の健康管理をサポートしています。

③UnitedHealthcare Community&State
多様な経済的に恵まれない人々のためのケアを提供する、多様な医療給付商品とサービスを提供しています。
経済的に恵まれない人々、医療を受けられない人々、雇用者負担の医療保険に加入していない人々のためのケアを提供します。全国で800万人以上の人々にサービスを提供しています。


(3)Optum


以下の3つ事業を通じて、支払者、ケアプロバイダー、雇用主、政府、ライフサイエンス企業、消費者などのヘルスケア市場にサービスを提供しています。

①OptumHealth
ケアの提供、ケアの管理、ウェルネスと消費者の関与、および健康金融サービスに重点を置いています。
包括的で患者中心のケアを提供し、患者と医療従事者により良い成果と経験をもたらし、総ケアコストを削減します。
より低い総ケアコストで実現します。私たちは、クリニック、在宅、バーチャル、デジタルの臨床プラットフォームを通じて、人々の健康に積極的に関与しています。

②OptumInsight
データ、分析、調査、コンサルティング、テクノロジー、およびマネージドサービスソリューションを提供する。
臨床、管理、財務のプロセスをよりシンプルかつ効率的にするために、信頼できるサービスと分析で医療システムをつなぎます。私たちは、高度なデータ、テクノロジー、臨床の専門知識を意思決定の流れの中で適用し、ヘルスケア体験全体を改善します。
ヘルスケア体験全体を向上させます。

③OptumRx
医療、行動医学を統合した、フルスペクトルの薬局です。
また、複雑な臨床的ニーズを持つ患者さんに包括的に対応し、消費者により良い、より透明性の高いデジタル薬局体験を提供します。


3.米国の医療保険制度

(1)公的医療保険制度

米国では公的医療保険制度は、

①65 歳以上の高齢者および障害者を対 象とするメディケア
②低所得者を対象とするメディケイド

の 2 種類が存在します。

その他に、特定の子供が加入できる児童医療保険プログラ ム(CHIP:Children's Health Insurance Program)、退役軍人が加入できる保険制度(VHA: Veterans Health Administration)などが存在します。

上記の制度の対象外となる人は、民間医療保険への加入を検討する必要があります。

多くの人は民間医療保険を主に利用しているのが実態です。

(2)民間医療保険とオバマケア

民間医療保険は福利厚生としての性格が強く、雇用主が提供する保険の場合、中小企業よりも大企業が提供する医療保険の方が良い内容である場合が多いようです。

加入条件や内容はプランによって異なります。

2015 年、民主党のオバマ政権が成立させた医療保険制度改革法(通称「オバマケア」)によって、従業員が 50 人以上在籍する企業には医療保険の提供が義務付けられました。

この医療制度改革に伴い、民間の保険需要は右肩上がりに伸び(だいたい年平均5%程度)ていくこととなりました。

保険加入者のほとんどが企業を通じて保険プランに加入しています。

企業が提供する保険に加入する場合は、企業側が保険料の一定割合を負担する場合がほとんどです。
但し、企業を通じて医療保険に加入する場合は、企業が用意したプランや内容以外は選択できないケースがあることがネックとなります。
通常プランに加えてさらに充実した内容のプランを用意している場合もあるようですが、当然に保険料が高くなることになります。

(3)民間保険の特徴

UNHやAnthemなど保険プランを扱う保険会社は「キャリア」と呼ばれます。

企業は「保険代理店」を通じて従業員にプランを提供することが一般的となります。

その他、自社で保険料を積み立てる形式もあります。

個人の場合は、各州が運営するマーケットプレイスを利用することが多いようです。

(4)ネットワークという概念を知っておこう

ネットワークとは、保険会社と契約している医師、病院、診療所などの医療機関のことです。

民間保険に加入する場合、基本的にはその保険のネットワーク内でのみ医療サービスを受けられ、ネットワーク外での受診は自己負担が大幅に増えてしまうようです。 

①PPO(Preferred Provider Organization)
PPO はネットワーク外の医療機関であっても、自己負担額を増やすことで保険が適用できる制度です。保険料も高くなるため、所得に余裕がある層でないと利用が難しいでしょう。

② HMO(Health Maintenance Organization)
HMO は、基本的にはネットワーク外で医療サービスが受けられません。HMO は保険料も低い特徴があります。

(5)保険料・医療費の支払い

保険料・医療費の支払いについては、以下の5つの考え方を理解しておくと、民間保険の概要が分かりやすくなると思います。

以下のような条件を踏まえて、保険のプランが設計されていきます。

①保険料(Premium)
定例で支払う保険料

②ディダクティブル(Deductible)
保険金が支払われるまでに自己負担せねばならない費用

③保険適用後の自己負担率(Co-Insurance)
保険金が返ってきた後の自己負担率

④自己負担額の上限額(Out-of- Pocket Maximum)
高額医療費がかかった場合の自己負担上限額

⑤ 生涯限度額(Lifetime Maximum Benefit) 
被保険者に保険会社から支払われる生涯の上限額



4.財務分析

(2022年3Q時点。UNHの10-Qより引用)

■表A UNHの2022/3QのP/L(損益計算書)

■表B UNHの2022/3Qのセグメント別業績

2大事業セグメントの営業利益(2022/1~9月)は、
・「UnitedHealthcare」(医療保険)が3,799百万米ドル
・「Optum」(医療保険外サービス)が3,663百万米ドル
となっており、ほとんど同じ水準となっています。

バランスよく利益を稼いでいること、いずれも昨年の実績と比較して着実に増収増益を果たしており、安定したビジネスモデルを築けていることが確認できました。

■表C UNHの2022/3QのB/S(貸借対照表)

B/Sは総資産額が約30兆円を誇る巨大企業です。

自己資本比率は、直近の数字で32.1%と一定の水準を確保していますが、そもそもこれだけ安定して営業キャッシュフローを稼げている会社でもあります。
もっと自己資本を削って投資家還元ができるような財務内容と思われますが、保険会社の性格を有しているという点で、自己資本も一定程度必要になると考えるべきでしょう。

赤で囲っているGoodwillはのれんで、10兆円規模と大きくなっています。
買収を積極的に行っている証左であり、とりわけ医療サービスのOptumの強化に注力しています。

<ご参考>

米ヘルスケア再編、在宅医療に脚光 アマゾンも触手:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0307X0T00C22A9000000/

米ユナイテッドヘルス、在宅医療大手を買収 6600億円:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN29CH40Z20C22A3000000/

緑囲いのUneraned Revenueは前受収益です。
まだ、UNHがサービス等役務提供していないものの、先に現金をもらっている時に発生する勘定科目ですが、これが増える会社は増収基調であったり、契約条件を改善したりということが一般的に多く、これが大きく増えていることは良い傾向と言えるかもしれません。

最後に、黒囲いのLong-term debtは長期借入金です。
日本円で5兆円規模の借金をしているので、それなりの規模と言えますが、年間の営業キャッシュフローで賄える規模の金額でもあり、客観的に考えるとかゆくもない水準、と言えるのではないでしょうか。

以下に、格付けシングルAの彼らの調達条件を載せておきます。
今の金利環境での調達が、どんな世界になっているかを知る良い参考になるのではないでしょうか。

■表D  UNHの長期借入金調達条件

■表E UNHの各社格付け


■表F UNHの2022/3QのC/F(キャッシュフロー計算書)

赤囲いの、今年度9か月間の営業キャッシュフローは非常に堅調に伸びていると言えるでしょう。
純利益の増加に加えて、先ほど説明した黄色囲いの前受収益の増加が非常に効果的となっています。

彼らはヘルスケアのサービス業であり、設備投資を必要とする業態ではありませんから、投資キャッシュフローの多くは有価証券投資(青囲い)や企業買収(緑囲い)に充てられています。

投資キャッシュフローでも多額の余剰資金が出る状態ですので、投資家還元は積極的であり、自社株買い、配当(紫色囲い)もいずれも伸ばしてきています


表G UNHの保険収支

医療保険サービス企業であり、保険収支の考え方を持つ必要があります。
バランスシートやキャッシュフロー計算書だけを見るだけで確認できないことも多く、そういう時は10-Qをつぶさに探しに行く必要もあります。

2022年度9か月間の医療費の発生額は157,251百万米ドル(約20兆円!!)に対して、医療機関にすでに支払った額は152,847百万米ドルとなっております。
若干の時期ズレが生じるのが、診療報酬債権の一般的なところではありますが、収支のズレは時間差を加味すれば最終的に一致することになります。

5.おわりに

UNHは、ベースを理解するには、やはり医療保険サービスを提供する会社であること、に尽きると考えています。

近年はOptumの伸びが著しくなっていますが、それはUNHが医療保険サービスの提供を通じて、医療ネットワーク、被保険者ネットワークを構築できているからこそであり、そのネットワークに乗っかる形でシナジー効果を発揮しているのがOptumであるという構造があると考えられます。

国民皆保険が当たり前の日本と違い、米国の医療は高額で公的医療制度は脆弱である、ということはよく知られているとは思います。
但し、ではその中身はどうなっているの?と説明できる方は少ないでしょうし、私もそれができる自信は今でもありません。

但し、ファンダメンタル投資というのは、理想としては外部環境分析が前提にあってしかるべきです。
連邦政府から州、地方に至るまで粒さに理解せよ、と言われても、それに限界はあるわけですが、大枠の概要や業界の潮流を理解しておくだけでも、会社を見る視点が変わってくるのではないでしょうか。

UNHは常に政界との距離が報道される会社です。
オバマケアを起点に成長を加速させたことからも分かる通り、社会制度に中にあってこその会社です。

外部環境分析と、会社というミクロのレベルからの視点を持ち合わせることができると、UNHを見ていく面白さに気付けるのではないでしょうか(私は気づけていませんが笑)

今回は以上となります。大変ありがとうございました。

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