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【長編小説】真夏の死角 40 小谷三郎として生きること

 外務大臣、当時の財務大臣、総務大臣、国家公安委員会委員長を歴任した小谷三郎代議士の実子が亡くなって、父である小谷三郎の御礼状の代筆屋の僕が正式に息子として法的にも、後援者にも認知されることになった。

 岩手県の山奥から東京の成城に引っ越した。代議士というものは地元は選挙に帰るだけだね。一応小選挙区の地盤は地元に持っているけど、地元なんて選挙のときにしか帰らない代議士がほとんどだ。ほとんどの代議士は、戸籍こそ地元に残っているものの、住民票も東京だし、税金も東京都に払っている。選挙権は東京選出の代議士に対して行使される。おっと、テレビ局に勤務する君にいまさらそんなこと言っても釈迦に説法だね。

 いや僕が言いたかったのは、高校生の僕にとって、地元の英雄というのは、地元のために働いているものだと漠然と思っていたんだけど、もちろんそんなことはない。彼らはひたすら東京で、東京のために、いや、東京の永田町の中で、議員の、いや、自民党の、いや、自民党の派閥の中の人のためにだけ働いている。そんなの想像はついていたけれど、日々そのことを実感したよ。

 地元の陳情なんて全部秘書がやっているし、票をつなぎとめておくために、頻繁に大型バスをチャーターして国会見学会というツアーをやるのは知っているよね。あれは、政治資金規正法逃れに一番いいんだ。だから、君のような記者が国会に張り付いているのは、どうも昔から疑問だったよ。大型バスに乗ってやってくる後援者たちは二泊三日の旅行中、それこそ大名のような接待を受けまくる。

 男性は銀座で貸し切りだし、女性は老舗デパートの外商部でひとつ何十万もする茶器や洋服を買い放題だ。政治資金規正法には参加費用一人一万円だけが掲載されるんだけど、表に出てこない金が飛び交っている。もちろん、政治家はいっさいカネは出さない、金を出しているのは企業のスポンサーだ。
 企業のスポンサーが国会バスツアーに来たお客さんにボランティアで散財するというわけだね。その時にもちろん、公共事業を優先して回すという定番の口利きから、息子の裏口入学、就職の斡旋などありとあらゆる週刊誌、新聞ネタが飛び交っているよ。取材をするのなら、お土産物をもらって頭が痴呆化している、国会見学バスツアー参加者にすればいい。スキャンダルのネタなんて腐るほどころがっている。

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