影法師から目をそらさずに(第1話)

(第一話)

むかし君はいっていたね

影法師にはその人の魂が宿るんだって

学校帰りのデートだったしさ

なんのことだかさっぱり分からなかった

僕はわかったふりをして君をアイスクリームやさんに誘ってアイスを食べさせたね

君は華やかな雰囲気なのに抹茶アイスを頼んだのがなんだかいい想い出だよ

そうだねもう想い出の話だ

でも想い出は育っていく

忘れようとしても育っていくんだ

そのことをぼくは君から学んだんだ

君は頭がいいのに「学ぶ」という言葉が大嫌いでしたね

「学んだことに満足する人間が学ぶという言葉を珍重する」

きみのぼそっと漏れるその旬で怜悧なそしてどこか温かい

その言葉が謎だった

そのことを君に言ったこともあるね

君の言葉は謎だと

帰ってきた言葉は

「影法師を踏めるかおまえ」

最初は意味不明でした

ちなみに女の子に「おまえ」なんていわれたのは人生はじめての体験で衝撃というよりなんだか清涼でした

そのあたりから僕は…

僕は…

それまで自分のことを「俺」としかいえなかったんだ

なんだか君といると「僕あるいはぼく」こう言いたくなってしまいます

聡明な君だから即答するのだろうけど

この回答はなぜなんだろうは……

ぼくのなかでしまっておきます

なぜなら君はもういない

気丈に生きていても病魔は肉体を蝕んでいく

僕は……

「影法師を踏めるかおまえ」

君のいなくなったあとで一生かけてこの言葉を考えたいです

影法師……

今となってはもう遅いですが

君が何を言いたかったのか

朧げにわかる気がします

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