影の中の真実(終話)

翌日は普通に学校に行った。
でも途中下車して学校はサボった。

また、聞こえたからだ。
おねえさんの声が。

「私の声が聞こえた?」

「聞こえました」

「もう少しだけ話しようか」

「はい」

ひとつひとつ私がどんな思いで聴いたのか、
砂場でおねえさんの顔を1時間かけて描いたのか、

たしかめたいんだろうな、と思ったので、いつも車窓から通過する見る駅だけど初めて降りた。

その駅の周辺には女子高なんてなかったから、駅員の人は一瞬「なんで」という表情になってたけど。

ふらふらと歩いていった駅近くの公園には、私が上書きした、おねえさんの砂絵がそのまま、ものすごく大きく描かれていた。

私が昨日描いた小さな砂絵そのままが、途方もなく大きく描かれていた。

声が聞こえた。
首筋にキスをされて、胸を抱きかかえられた。

「あ、あっちがわにいくのかな私……影の世界に」

「さよなら。影じゃない自分でやれることやってから、また影の世界においで」

涙が止まりませんでしたが、涙が枯れる頃、往来する通行人の数も少なくなり、

砂場に映るお姉さんと同じだった髪型だった影も私のもとの髪型になりました。

顔をあげると、私が一生懸命書いた公園中のお姉さんの似顔絵はすっかりなくなっていました。
キスをされていた唇から伝わってきた唾液が心臓にあたったら死んでもいい、と思うあの甘美な快楽は消えていました。

何かが終わったんだと思いました。

カバンを握りしめて、午後から学校に行きました。
「遅刻届け」は教師の前で破り捨てました。

お姉さんの声は何十年も聞こえなくなりました。

通行人の数も減りました。

いつかまたお姉さんの声を聴きたい。

もうすぐ聴こえるのかな。

祈ってます。

(了)

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