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【動画版】真夏の死角ダイジェスト3~愛すべき牧村慶次

みこちゃんです。

予告しました通り、牧村慶次くんの人となりがわかる動画を作りました。この小説は、シリアスな殺人劇がおきるわけですが、一方でその作り方としては、ベースを青春小説に持ってきてあります。

澤田明宏という怪物によって、引き起こされる、普通の人には起きなかったはずの出来事がつぎつぎと普通の人に見舞われる。

中でも、この連続殺人劇に一番似つかわしくないのは、美姫を想う牧村慶次と、もしも澤田明宏がいなかったらありえたかもしれない、恋人美姫だったことでしょう。

この二人だけにして、澤田明宏をこの小説から消してしまえば、それはそれで、ひとつの独立した青春小説となりうる。そんな完成度で青春小説の部分は書きたい、というか、書かないとだめだなと思っていました(現在進行系)。

なぜなら……。

みこちゃんは、小説のもっとも小説らしいところ、そして、実人生の最も実人生らしいところは、悲しみに泣きくれた告別式の中で、窓の外からスピーカーで「たーけやー竿竹」が鳴り響くシーンだと思っています。

太宰治でいえば「トカトントン」ですね。

この世界は本来多層的であり、多重的現実を人々は、自分だけの認識として独我論的に生きている。そして、この多重的現実が、招かれざる客として、時々交錯しますよね。これがみこちゃんは、世界というものだと思っています。

一方でのあり得たかもしれない可能世界としての青春小説はだから、連続殺人撃のどろどろした、大人の世界(途中から読み始めた方は、恵理子さんと田久保秀明警部の過去とか)と交錯するところに、この小説の面白さを醸し出したいと思っています。

そんな、出だし部分の青春小説がしばらく続きます。


注意深い読者の方は美姫が、極真空手の弱点としての顔面攻撃を論じる際に「死角」という言葉を使っていることに気がついたと思います。

だれにでも、どこにでも死角はあります。

この全編を貫く最重要なモチーフがこの「死角」です。最後にはどういう「死角」が明らかになるのでしょうか。

この青春小説部分が続く箇所を下記に引用しますので、ぜひ、お時間のある時に読んでいただけたらうれしいです!


【朗読部分】
 篠原美姫の呼吸は荒かった。

 上気した頬に、うなじから髪の毛がまとわりつく。汗で濡れた頬に髪の毛が張り付く。しっかりと留めたはずのポニーテルからも激しい体の動きで長い髪がほつれている。

 目はしっかりと相手の瞳の奥を覗いていたが、体がいうことを聞かない。このままでは、相手のなすがままだった。いっそ観念したら甘美な敗北の悦楽に自分の体を委ねることができる。

 それは分かってはいても、美姫にはそれができなかった。女としてのプライド…。たしかにそれもあるかも知れない。しかし男性と女性の肉体的な構造の違いを素直に認めてしまのは口惜しかった。

 相手は同じ高校に通う槇村慶次。

 身長が160にわずかに満たない美姫にとって、槇村の肉体的な優越は明らかであり、このまま体育館の床にねじ伏せられることが頭をよぎった。悪くすると気絶させられることもある。その場合には潔くこの男を受け入れるしかない。

 美姫はそう覚悟を決めて、荒い呼吸を鎮めるように深呼吸を繰り返した。

 その時、槇村の眼に油断がわずかに兆すのを美姫は見逃さなかった。体を入れ替えると美姫は大胆に脚を開き、右足を大きく回転させて槇村の頸に絡めた。

「うぅ」槇村の苦痛に満ちた声が聞こえる。

 美姫はすかさず下段蹴りを決め反対に槇村を体育館の床に沈めた。

「まいったよ、みこちゃん。勘弁この通り」

 牧村慶次はふざけたしぐさで、地べたに土下座をして頭を体育館のリノリウムの匂いのする床に擦り付けた。

「あたりまえじゃ、このみこ姫に勝とうなどというのは10年早い」


 美姫と書いてみこ。

 篠原美姫は調子に乗って牧村慶次の背中に馬にまたがるようにしてお尻を乗せた。

「へいへい。流石に沖縄古流空手の正統的な後継者だけのことはあるな」

「そのとおりじゃ。わらわはいつも不満に思っている。なんで世間で空手やってますと言うと、100%の確率で『極真ですか』と聞いてくるんだよ」

 美姫(みこ)は、心底心外そうにため息を付きながら、馬乗りにした槇村の横腹を、まるで馬の鐙を動かすように思いっきり蹴った。完全に八つ当たりである。

「おい、みこ姫。それはいくらなんでもやめてくれ。人間の体で唯一鍛えられないのが肋骨だ。女性とは言ってもみこ姫は首里手空手の四段だ。いくらなんでも俺も怪我をしてしまう」

 美姫はますます調子に乗って、今度は反対側の脇腹肋骨を踵で攻撃しながら言った。

「極真もたいしたことないのう、おらおら、前に進んでみろこんにゃろ」

「そこまで我が極真空手をバカにするとは、もう許さん」

 槇村が立ち上がって小柄な美姫をそのまま背中を伸ばした反動で空中に放り上げた。

「きゃ」

 美姫が無重力感覚になって一瞬後、槇村が美姫の小さな体を自分の大きな胸で受け止めた。図らずも美姫は槇村に姫抱っこされてしまうことになったのだった。

「確かに沖縄系の空手の動きは鋭いし、型も合理的だ」

 今度は槇村が勝ち誇った顔で言う。

「しかしな、極真空手の創始者大山倍達館長はこう言ったんだ」

「何を言いたいかは分かるよ」

「うん、言ってみな」

「『技は力の中にあり』だろ」

「その通り」槇村はそう言うと、整った顔にスケベ顔を作った。

「何だ、慶次。お前何かよこしまなことするわけじゃないだろうな、ここは学校だぞ。放課後とは言え先生もほとんど残っている。わらわが大声を出したらおまえ一発で捕まって停学だぞ」

「ふふふふ。技は力の中にありだ」

 槇村が目をつぶって唇を寄せようとしてきた。

「あほ、ばか、ヘンタイ!」

 美姫は大声を上げて槇村の額を正拳突きで攻撃した。

「うげ」

 槇村が苦痛で体を半分に折る。

「ほほほほ。何が技は力の中にありだ。それが極真の弱点だ」

「顔面を正拳突きとは卑怯な」

「卑怯とは何事だ。極真はその強烈な破壊力のゆえに怪我、ヘタすると稽古中や試合中に相手を死に至らしめる必殺拳だ。それはわらわも認める。それ故の極真の禁じ手だもんね」

 美姫は槇村のおでこを、右手の人差指でピンピンと弾きながら言った。

「ああ、そのとおりだ。極真空手では顔面への正拳突きはご法度だ。だからK1ルールでは世界最強のはずの極真もしばしば破れてしまう」

「まあまあ、そこまで卑下することはないよ。だから極真には死角があるというだけさ」

 美姫は槇村が少し可哀そうに思えて、それまでの「わらわ言葉」をやめて少し優しく言った。

「控えめに言っても、ケンカになれば極真は確かに世界最強かも知れない」

 槇村は美姫のこの一言で機嫌を直した。

「分かってくれてるならそれでいいんだ。だからこうして、お互い他流試合は禁じられているのに、ときどき放課後にこうやって稽古するのも楽しいし、修行にもなる」

「私もそうよ。いつもありがとね」美姫は素直に相槌を打った。

「いや、こちらこそ。でもびっくりしたよ。1年の時の初めての自己紹介でさ」槇村は懐かしそうに言った。

「ああ、あれね」

「いきなり自己紹介で、こんな可愛い女の子が『趣味は空手です』」

 槇村は笑いをこらえた。

「なぬ!?かわいいとな」美姫はどうでもいいところに反応した。

「でもいきなり怒った」

 槇村は美姫のかまって欲しいポイントをあえてスルーして話を続けた。さっきの馬乗りにされた仕返しかも知れない。

「だってあれはバカ担任が!」

 美姫はしかとされた照れ隠しもあって大きな声を出す。

「そうだったよな、すかさず担任が『お!空手か、極真か』」槇村は爆笑した。

「ううう」

 美姫は怒りに拳を正拳にに握り直して肩を震わせた。

「極真なんかじゃありません」二人はハモるタイミングを合わせて大声を出した。

「極真なんかじゃありませえぇぇぇん、せぇぇぇぇぇん。えぇぇぇぇん」

 誰もいない体育館に二人の声が響いた。

 二人は笑い転げた。

(以下続いております)


最初はエッチ小説かと思わせるということで、遊んでみました(爆)。感想くれた人は全員騙されてましたね。

きひひひひ。
( ̄▽ ̄)

あと、牧村慶次らしいところが出て来る回の抜粋。


他にも牧村慶次は前半、ばんばん登場しますので、興味を持たれた方は、最初から一気読みしてくれると、一番うれちーーーーーーーーなーーーーー!

改訂版作成により隠しておいたマガジンをリニューアルして復活しましたので、途中までしかまだ収録していませんが、ぜひ一気読みにご活用下さい。



(^-^)

ではまた!

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