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東北きりたんシリーズ~お前はまだどんど焼きを知らない~

※きりたん動画の台本です
動画で観たい方はこちらをどうぞ

きりたん:うわぁ、これどうしよう…。困ったなぁ。

巳弧:きりたんどうした?

きりたん:あ、みこさん!

巳弧:何を悩んでるの?

きりたん:みこさんに話してもなぁ…。実は、古いお守りをどうすればいいか悩んでいたんです。小学校に入学する時、お土産にもらったものですけど。お守りは1年で交換した方がいいって聞いたからどうしようかなと。捨てるのも違う気がするし、でもちゃんとしないとバチが当たりそうだし。

巳弧:バチは当たらないと思うけどね。それなら「どんど焼き」に持っていけばいいんじゃないかな。

きりたん:どんど焼き? どんと焼きのことですか? 正月の初めくらいに神社で焚火をするあれですよね。

巳弧:そうだね。どんと焼き、どんと祭と呼ぶのは宮城の方言で、全国的にはどんど焼きが多いかな。 ちなみにどんど焼きの焚火には意味があるし、似たようなお祭りは全国にたくさんあるよ。

きりたん:えっ、あれ焼き芋を焼いてるんじゃないんですか?

巳弧:違うよ。 そこに持っていけばお守りを燃やしてくれます。

きりたん:お守りを!?

巳弧:しかも合法で。

きりたん:合法!?

◆◆◆

巳弧:ではきりたん、どんど焼きはどんなことをするものだと思う?

きりたん:えーっと、そういえばいつもお正月の飾りを神社で燃やしてもらったような…。 近くの神社は焼き芋をくれるので、それ目当てに親について行ってました。

巳弧:そうだよ。どんど焼きは正月飾りを燃やすお焚き上げと、正月に迎えた歳神様を送り出し一年の無事を祈願する除災招福の儀式だったんだ。

きりたん:歳神様…新年に神棚を拝むあの神様ですか?

巳弧:歳神様だけで動画を作れそうだから今回は割愛しよう。今は新年にお迎えする神様と覚えてくれればいいよ。 どんど焼きは、地域によっては山から若木とともに山の神様を迎えて祀る儀式でもあるし、田畑を荒らす鳥を追い払い豊作を祈願する「鳥追い」を一緒に行うこともある。

きりたん:燃やすだけじゃないんですね。

巳弧:宮城の面白いどんど焼きと言えば、仙台市大崎八幡宮の松焚祭(まつたきまつり)じゃないかな。 さらし姿の若者たちが提灯を持って鈴を鳴らし、掛け声とともに仙台を練り歩く「裸参り」で有名だ。 もとは酒造関係者から始まった商売繁盛祈願だったが、近年では多様な職業の人が自由に参加するようになった。

きりたん:ああ、あれすごいですよね。 寒い中がんばってるなぁと思ってました。

巳弧:他にも福島県会津地方では、どんど焼きの炎で団子やスルメを炙って家に持ち帰り、家族皆で頂くんだ。 そうするとその年は家内安全、無病息災で過ごすことができる。

きりたん:へぇ、スルメって不思議ですね。おつまみなのに神聖な儀式に使うんだ。 

巳弧:スルメはハレの日に使われることもあるし、会津にはイカニンジンというスルメとは切っても切り離せない伝統食があるからね。うまいよ、日本酒が進む。

きりたん:でた、酔っ払い。

巳弧:…次、富山の「おんづろこんづろ」。

きりたん:……何?

巳弧:おんづろこんづろ、だね。 富山県黒部市の下立(おりたて)神社のどんど焼きだよ。 お焚き上げの燃え上がる炎が鶴の飛び立つ姿に見え、それが「おおづる、こづる」になり、さらに訛って「おんづろこんづろ」になった。

きりたん:由来を聞かないと絶対に意味が分からないやつだ。

巳弧:そして長野県ではどんど焼きを「三九郎(さんくろう)」と呼び、米の粉で作った団子をその炎で焼いて食べる子どもたちが主役の行事となっている。 この団子を食べると「歯が痛くならない」「腹が痛くならない」と子どもたちの間で伝わってきた。 以前は翌日に燃え残りの松の枝を持ち帰り、自宅の屋根に投げ上げ火災予防を祈願したそうだが、残念ながら今は行われていないようだ。

きりたん:それいいなぁ、私も食べて痛みを予防したい。 他の地域のどんど焼きは大人の行事って感じがするので、子どもが主役な行事は珍しいですね。

巳弧:火を扱う祭りだからね、必然的に大人が中心になるかな。 少し変わったもので言うと、島根の「墨付けとんど」かな。 地区の女性たちが風呂場やかまどの煤(すす)を集めて水で練った墨をつくり、トンド宮という御輿を担ぐ者たちや通行人の顔にどんどん墨を付けていくんだ。

きりたん:へぇ~、羽子板の罰ゲームみたいですね!

巳弧:墨が付けばつくほど良いものとされているよ。 この墨が付くと1年間風邪をひかず海難にも遭わないと根強く信仰されているんだ。 このお祭りが面白いなと思ったのは、御輿を担いで海に入り大漁を祈願する「海の祭り」としての側面と、このお祭りで使われた米と大豆が田植え儀礼でも使用されるという「田の祭り」の二面性を持っていると考えられることかな!

きりたん:わぁ、よく分からない。 みこさん話し出すと長いので次に行ってください。

巳弧:えー、じゃあ次。 九州ではどんど焼きのことを「鬼火焚き」や「ほっけんぎょう」と呼んでいるよ。 こちらは小正月に行うどんど焼きより1週間ほど早く行われるみたいだね。 きりたん、小正月はいつだか分かる?

きりたん:えーっと…近くのどんと焼きが1月の14、15日くらいなのでそのくらいですか?

巳弧:そうだね、元旦の正月儀礼を「大正月」、農村や漁村に古くから伝わっているのが15日の「小正月」だよ。 だからどんど焼きは15日に行われることが多いんだけど、これに対して大正月の「明けの日」、1月7日に行われるのが「ほっけんぎょう」だね。 やることは他のどんど焼きと同じくお正月飾りのお焚き上げだよ。

きりたん:九州だけ1週間早いのは面白いですね、なんでだろう。

巳弧:そこを考えるのが民俗学ってことで。

◆◆◆

きりたん:みこさんは何でそんなに詳しいんですか?

巳弧:ん? まあ民俗学を学んだ時に調べたから。

きりたん:さっきも出てきた民俗学って何ですか?

巳弧:民俗学はねぇ、面白いよ。 簡単に言うと「マイナーな文化のルーツを調べる学問」かな。 教科書に登場するような主流の文化の裏に存在した地域の人々の生活や風習を調べて歴史を考える学問だよ。

きりたん:???

巳弧:みこさんは民間に残る伝統を通して文化の発展の仕方を研究しているんだよ。

きりたん:じゃあ、どんと焼きを研究して何が分かったんですか?

巳弧:そうだな、例えばどんど焼きの起源かな。

◆◆◆

巳弧:どんど焼きの起源は平安時代の宮中行事「左義長(さぎちょう)」とされているよ。 「左義長」は元々1月15日の夜に行われていた行事でね。 当時は三毬杖(さぎちょう)と呼ばれる青竹を束ね、短冊や扇子を添えて正月飾りなどを焼いていたそうだよ。 これが民間に広まっていき、各地域で少しずつ変化していったのが現在のどんど焼きだ。 

きりたん:すっごく昔からあるんですね!

巳弧:1000年以上の歴史があるのはすごいよね。 名前の由来としてはその年の神様「歳神様」を迎えるために使ったものを焼く行事だったので、その「歳神様」が変化して「どんと焼き」となって行ったという説がある。 他にも炎が「どんどん」燃える様子からきている説、炎を燃やす時にはやし立てていた台詞の「尊と尊と(とうととうと)」が訛ったものとする説、燃やし始めに青竹が弾け「どんっ」と音がすることに由来する説など様々だ。

きりたん:なんだか言葉遊びみたい。

巳弧:言葉遊びにはちょっと笑っちゃうよね。 ちなみに現在のどんど焼きでは古くなったお守り、お札、書き初め、熊手、だるまや人形、のし袋なども燃やしてくれる。 ただし地域によっては「だるまを燃やすのは縁起が悪い」、「燃やすものは正月飾りに限る」などルールがあるから、燃やしたいものをどんど焼きに持っていく前に神社の人に確認しようね。

きりたん:はーい! 私のお守りもお願いしよっと!

◆◆◆

きりたん:面白かった~、お守りから日本の伝統を知れて良かったです。 どんと焼きが楽しみになりました!

巳弧:それは何より。 ちなみにどんど焼きのような日を使ったお祭りは世界中にあるよ。 例えば韓国のタルチッテウギというお祭りはどんど焼きに非常に似ているらしい。見たことないけど。

きりたん:なんだか親近感が出てきますね!

巳弧:他にも日本の火祭りといえば「虫送り」もある。

きりたん:それはなんですか?

巳弧:虫送りは田んぼの稲や畑の野菜についた病気や害虫を駆除するための呪いだね。 「虫送り」は田植えが終わり、除草が済んだ初夏のころに行われるよ。 みんなで火をつけた松明を持ち、太鼓を鳴らしながら田んぼの間の畦道を歩いて回る。 そして一団は道祖神の広場に集まり祈祷の呪文を唱えることで病気や害虫を村から追い出すんだ。 日本人は古くから部落と部落…まあ村と村の境界を特別視していて、境界に建つサエの神は村の安全を守る守護神だった。 そのためサエの神の前では村に憑いた悪いものを焼き払う正月の火祭りや、村で流行った流行病、作物の病気や害虫を外へ追放するための儀式が行われてきたんだ。

きりたん:虫送りって虫だけじゃなく、悪いもの全部を追い出すお祭りなんですね。

巳弧:ねー、それだけ作物を育てて村の安全を守ることに必死だったってことだよね。

きりたん:そっか、むかしは農薬もないし薬だってたくさんあるわけじゃないから…。

巳弧:民俗学を通して生活への理解が深まったでしょ?

きりたん:はい! より歴史が身近に感じられるようになりました!

◆◆◆

巳弧:というわけで今日の研究はどうでしたか、きりたん。

きりたん:全国には似たようなお祭りがあって、それを研究することで文化の発展のしかたが分かると思いました。

巳弧:有益な時間になったようで良かったよ。 きりたんのお守りは次のどんど焼きに持って行こうね。 場所によっては一緒にぬいぐるみも燃やしてくれるみたいだから、古いものがあれば持っていっても良いかもしれないね。

きりたん:え…! もしかして私のグッズも燃やされちゃう!? みんな燃やさないで〜!


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