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HARP構想の生い立ちから今、そしてこれから。

この記事は、2020年12月22日にmikketa!!にて公開した記事です

会長の入澤です。今回は入澤が単独で取材に行ってきました!

昨今、国の「デジタル庁構想」が持ち上がり、話題が多いですが、実はHARP社は、その走りだと、僕は個人的に思っていました。HAPR社の村上さんに、生い立ちから、現在の事業内容、そして、これからの国の動きに関してじっくり聞いてきましたので、是非ご覧ください。最後の編集後記に大事なことを書いてますので、そこまで是非お付き合いください。

村上 順一(むらかみ じゅんいち)
昭和34年11月14日生まれの千歳市出身、
61歳昭和58年(1983年)に道庁へ入庁。
道職員生活の長くを情報政策業務に携わり、平成28年(2016年)
に北海道総合政策部情報政策課長、平成29年(2017年)に北海道
総合政策部情報統計局長を歴任。
令和2年(2020年)から(株)HARP常務取締役、現在に至る。

HARP構想の成り立ちについて

もともとの発端は2001年の国家戦略であるe-JAPAN戦略なんです。世界最先端のIT国家を作るという国家戦略の中で当然インフラ基盤整備もあったのですが、その中に「電子政府の実現」というのが一つ盛り込まれてました。これがHARP構想のきっかけです。

当時は、「クラウド」という名称はまだまだ馴染みがなかったのですが、『共同でアウトソーシングして電子自治体を推進していこう』という構想が総務省であり、道は、「市町村等のフロントオフィス業務・バックオフィス業務の共同アウトソーシングに関する調査研究」を受託し、共同アウトソーシング構想を作ったんですよね。それがHARP構想=北海道電子自治体プラットフォーム構想です。

当時、どういう課題が自治体の情報システムにあるのか等をまとめたんです。(上部画像参照)今でもあまり変わりないのですが、大きく課題は4点。1つ目は、全体最適の問題。システムは縦割りで全体の最適化が描けてないので、コストが高い状態だったり、内部の人材が非常に不足していて、なかなか対応できないっていうのがあったんです。2つ目は、自治体の情報システムはどうしてもベンダー依存になっていて、職員のITスキル不足から、特に小規模自治体さんになるとベンダーさんにお任せになっちゃうんですよね。3つ目は、財源もなく非常に予算が(開発をし、保守運用をするとなると)厳しいという点、最後の4点目は、セキュリティの確保で、これも今にも通じるものがあるかなって。

入澤 これ当時ですよね。20年経って今言ってること全く一緒ですね。

当時なんですよ。2002~3年くらいの事ですよね。

「自治体がシステムを自由に選択でき、作らない、持たない」という変化にどう柔軟に対応し、どういう電子自治体を作っていこうかっていうのが大きな課題でした。

HARP構想は北海道独自の共同ソーシングモデルで、住民サービスの向上、行政の効率化・高度化、地域経済の活性化を目的に、今後どのようにして電子自治体の取り組みを進めていくのか、という課題を、「官民連携による推進体制の構築」と、「新しいシステム手法の採用」という2つの解決手段を選びました。

官民連携による推進体制の構築

一つの推進体制は、官の体制で「北海道電子自治体共同運営協議会」という道と市町村で協議会を作ったんです。協議会の中でみんなでやっていきましょう、やることを決めるのも協議会で決めていきましょうって。一方、そういうシステムの開発を支える基盤っていうのは、地域のIT企業が担いましょうと。

それと、もう一つは、これら官と民をつなぐ事業体して第3セクターの株式会社HARPを作りましたということなんです。

入澤 この協議会はいまだにあるんですか?

あります。現在では、道と全道179の市町村と6の広域連合が参加し、共同システムの充実や運営などの協議を行っています。

新たなシステム構築モデル

今では当たり前かもしれませんが、共通サービスをモジュール化し、例えばユーザー管理やストレージ、バックアップなどを連携基盤とし、その上にコントローラを介し、アプリケーションを結び付けることをやりました。この開発にあたっては、技術力のある地元のベンダーさんにいっぱい参加してもらったんです。

当時のHARP構想の方向性としては、単一共同センターからスタートし、複数共同相互活用、そして将来は、クラウドコンピューティングという見通しを立てていました。サービスは、電子申請から始めてその次に人事給与などの内部情報に着手。最終的には、基幹系システムなどの総合パッケージに向けてやっていきましょうっていう絵柄を描いていました。これは、いま見返してもこのとおり進捗していったなあと思います。

入澤 いや本当そうですよね。今の国の方針の走りですよ。本当に。

基幹系システムの標準化にむけての取組で、一番大きかった事業がH21年からH23年の間で道が実施した「次世代型電子行政サービス化調査研究事業」です。基幹システム系の税や福祉、住民記録などのシステムが、北海道の市町村では、どういうワークフローになっているのか、どこが共通なのか、5万人以下の市町村だと、どういうモデルがいいんだろうか、SaaS型で提供する為にはどういう契約の内容で機能要件としては、どういうのが良いかというような調査を行いました。

調査結果では、様々な課題が浮き彫りになりました。カスタマイズが多く、制度改正のたびにカスタマイズが必要で費用が増加している、業務フローがバラバラ、レガシー系の古いシステムの運用の問題など。

道では、この実証事業の結果を基に、実践活用するためのモデル「北海道モデル標準」をつくりました。これが今の国の標準化への取り組みと一致しているとこなんですけど。

入澤 すごい!

「北海道モデル標準」には、大別して「業務モデル」と「技術モデル」があります。

「業務モデル」では、サービス提供型契約書などのひな型とか、調達・サービスレベルの仕様書とか、現行システムと標準モデルを比較するFit&Gapの分析などのツールも用意し、セキュリティ監査の実施要綱なども作成しました。「技術モデル」では、インターフェイス、インフラの仕様とか、データ移行するときのデータ移行標準フォーマットも現在、国が進めている中間標準レイアウトに先駆け作成しました。

これらガイドラインにしたがって、基幹系システムのクラウドサービスを提供しているのが、北海道自治体クラウド(HARPクラウド)です。今、国が検討を進めている標準化の検討よりも、仕様の機能面での粒度が粗いところはあるんですけど、まさしく先んじてやっていたんだと思います。

一方、総務省でも同じ時期に全国で自治体クラウドを促進するため、「自治体クラウド開発実証事業」を実施し、多くの府県がこの事業に参画しました。当時、道も、この事業に参加し、多くの道内自治体に参画いただきながら様々な実証事業を行いました。実証事業の人事給与システムなどの成果は今でも活用しています。

入澤 すごいですね。まさに今、国がこれからやろうとしていることの、先を行ってますね。知りませんでした。

HARPの現在の役割

現在(株)HARPが提供しているサービスは、このスライドの通りです。道内自治体に対しITコンサルも実施していますし、厚生労働省がいま標準化の先駆けとして行っている国保の標準システムを導入する際のコンサルティングなども行いました。住民向けのサービスとして、電子申請や施設予約などを提供しています。職員向けのサービスとしては、道内のIT企業さんと連携しながら先に説明した総合行政システム(自治体クラウド)や学校の通信簿管理などの校務支援サービスなども提供しています。

入澤 施設予約とか、よくバスケの体育館を取るとかに使わせてもらっています。

ありがとうございます。施設予約のシステムについては、札幌市のほか旭川市、函館市、恵庭市、北広島市など、そして、道外では広島県と県内市町など、10月からは山口県と県内市町が広島県と共同利用という形で利用いただいています。

電子申請については、他県でもサービスを展開していますが、道内では電子申請を利用しているのは、全体で2/5くらいだと思います。

入澤 2/5程度、残りの3/5の自治体は何やってるんですか?

ほとんどの自治体で様式のダウンロードの取組は行っていると思いますが、まだ、電子申請を行っていないところも小規模自治体を中心に多くあります。

電子申請と言っても、研修・講習・各種イベントや粗大ごみ収集の申し込みなど割と簡易に申請手続ができるものとマイナンバーカードを利用して、本人確認が必要な税の申告手続きなど様々な手続きがあります。

まだまだ、行政に対する申請手続きの中心は、紙ベースで行われている中、現在、国では、デジタル手続法を令和元年12月に施行し、行政の手続きのオンライン化を強力に進めています。

ただ、全国的に進められている電子申請の取組は、例えば渋谷区で進められているLINEでの申請など意外と若者向け、都会型だと思いませんか? 北海道は、人口1万人未満の自治体が120以上あるなど小規模自治体が多く、しかも高齢化が非常に進んでおり、おじいちゃん、おばあちゃんたちにパソコン、スマフォから電子申請しなさいと言ってもなかなかできないと思うんですよね。

ただ逆に言えば、小規模自治体では役場職員の皆さんはおじいちゃんおばあちゃんの顔もほとんどわかっていて、本人確認が、職員が行う「顔認証」でできるということがあります。

おじいちゃんおばあちゃんが、役場に来られた時、職員がタブレットですぐ本人情報を引き出し、申請書などの記載が省略でき、手続申請も簡便にできるなど、大規模自治体よりもきめ細かい高度な住民サービスができる可能性があります。北海道特有の小規模自治体向け、高齢者にも配慮した質の高い行政サービスができればと思っています。

最後になりますが、連日、デジタル庁設置に関する国の動きが報道されています。

直近では、12月11日に「第6回マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」が開催され、その中で、

・全国の自治体の17の基幹システムを5年後までに統一・標準化を進める。  

・マイナンバーカードを持つメリットを高めるために、運転免許証とマイナンバーカードの一体化は、できるだけ前倒して、令和6年度末までに実現する。

など、行政のデジタル化を実現するための課題を33項目に整理し、それらを今後5年間、令和7年度末までに実現するための取組方針の検討が行われたところです。

これらの取組が今後、どう検討され、どう進んでいくかは、地元ベンダーさんの今後に大きな影響を与えるものと考えています。

これから、本年末にはデジタル庁創設に向けた基本方針の策定が予定され、令和3年中にはデジタル庁を発足させることとされており、今後の国の動向をしっかり注視していく必要があると思います。

まとめ

以上、いかがでしたでしょうか?HAPR社の生い立ちから、現在の事業内容、そして、これからの国の動きに関して、ご説明頂きました。北海道では、20年も前から、今のデジタル庁構想に近いことを、やっていたわけです。すでに道内全自治体が加入する協議会があり、官民連携の第三セクターがあり、HARPは今のデジタル庁の先駆けと言えるのではないでしょうか。

当時のIT企業は、例えば勤怠管理システムがあるとしたら、それを、必要とする212の市町村それぞれに金太郎飴的に売ることが出来ました。非常に儲かってたと思います。一方、自治体側からしたら、それは税金を使ってるという事だから、看過できなかった。そこで、共通でASPにしていこうという動きになったわけですが、当時のIT会社は猛反発したと思います。そのせいで、うまく歩調が合わず、HARP構想として掲げていたものは、うまくいかなかったこともあったのかなと、私自身お話を聞いていて感じることがありました。ただ、時代が流れ、今はクラウド全盛時代。共通のシステムをみんなで使うのが当たり前になっています。当時のような反発は、今は起きないのではないでしょうか。また、今、国が議論している、システムの標準化により、国が一括で作ったものを、自治体が使うとなると、ますます地元の仕事がなくなってしまうわけです。今こそ、官民が連携して、立ち向かう時期なのではないでしょうか。

これは私の持論ですが、情報システムというのは、インフラの一つだと思います。ある意味で道路と一緒です。北海道の道路は、地元の会社が作り、地元の会社が保守をしています。同じく、システムもやはり、地域性があったり、何か痒い所があったらすぐに手が届く距離にIT企業がいないといけないと思います。例えば、自治体により住民サービスは全然違い、出産祝い金があったり、なかったり、教育費が無償だったり、そうではなかったり。いろいろ自治体によりサービスが違うのです。国が主導するのであれば、その設計や仕様作りは大いにやってくれればいいと思います。しかし実際の開発や保守は、やはり地元の企業でやるべきです。

北海道IT推進協会として、きちんとそういった意見を出し、北海道が日本に先駆け、先進的に自治体が主体となりIT化を進めてきた取り組みの成果を無駄にせず、北海道が率先して成功事例を作り、北海道の手法を全国に広めることで、国のIT化を引っ張って行ければと思います。

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