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いった歯科のデジタル化から見る、歯科業界のデジタル化

この記事は、2021年8月30日に北海道のIT情報発見!発掘!マガジンのmikketa!!に掲載されたものです。

こんにちは!
今回は歯医者さんのDXについて、新札幌いった歯科を運営する
医療法人社団 一心会の理事長 青木さんにお話を伺ってきました!

デジタル化の始まりと見えた成果

青木理事長(以下、青木):私達が創業したのは、2009年4月のことです。居抜き物件を200万で買って始めた歯科医院だったんです。当時は私とスタッフ3人、年中無休で365日、休みなく診療をしていました。ものにお金をかけるよりも、教育と採用にお金をかけて、仲間を集め、100年続く医院つくりのビジョンを診療開始当初から持っていました。
つい先日、東区に2院新しく開業をし、グループは6院+東京に提携1院、本部、提携ラボ1社まで成長し、そして従業員は110名の規模まで組織を拡大することが出来ました。
うちの事業成長において本部の存在は大きいと思います。ほとんど歯科医院を見ても、院長先生が診療しながら経営と教育を行う体制になっていますよね。それも一つの正解だと思いますが、今後の時代、スピード感や多様性のある組織を求められる中で、私ひとりではチャレンジしたい事や永続性のある組織を作れないと感じていました。
私はこの本部機能を含めて、100人組織を作る事で、歯科医療において大切な「臨床、学術、教育」の3本の柱を構築できると考えました。同時に、この3本の柱がすべて揃っている事で、100年続く医療組織(永続性のある組織)を目指す事もできました。

私達は、開業当時から「教育」に力を入れて運営してきました。また自社で数百ページの業務マニュアルを整備している事も社内に本気度を現すために毎年作成し、配布しています。
教育の概念としては、自分自身の教育(勉強)、社内チームへの教育、患者さんのデンタルIQを高める教育(啓蒙)があり、それぞれに力を入れています。
それにより患者さんが増え、本来広告費等に使う費用が教育により減少し、その分従業員や医療設備に還元し、更には学術や臨床技術の向上に費用を使うことができています。2009年の開業依頼、リーマンショックや2つの震災。そしてコロナウイルスによるパンデミックなど、開業以来いろんなことが有りました。その中で業績を落とすことなくここまで来ることができたのも、教育に力を入れてきたからだと思っています。

ー入澤:なるほど。今回デジタル化を進めようと思ったのはどういう背景があったのでしょうか?

青木:歯科のデジタル化を進めるにあたり、まずは歯科技工と歯科医院の周辺コンテンツにフォーカスして取り組んでみました。
理由は2つあり、一つは歯科技工士という職業の働き方の改善と、地位改善です。
歯科技工士は国家資格なんです。現在日本には約12万人いると言われているんです。ですが、実際に仕事をしているのは3万数千人と言われています。そして半数以上が50歳以上の方々なのです。
高齢化が進んでおり、更には女性の割合は約2割程度と非常に少ないです。ただこの割合というのが、ここ10年ぐらい全く変わっていないんですよね。この課題をどうにかしたいというのが一つ。

2つ目は、現場の人間が本来やらなければいけないことに集中できるようにする。という点です。受付の仕事においては、医者や歯科衛生士が診療中に確認しきれなかったことや、その場では話せなかったことなどを、患者さんの表情や様子を見ながら、聞いたり話をするというのも大事な仕事の一つなんです。ただ、お会計をすることだけが彼女達の仕事では無いんですよね。
自動釣銭機の導入や、レセコン、ネット予約システムなどの導入等で彼女たちにしか出来ない重要な業務の時間をより増やせるようにしているんです。

ー入澤:デジタル化の促進によって、変化は有りましたか?
青木:ものすごくあったと思います。1点目の歯科技工士の働き方については、土日祝日休みに出来たという点。そして、歯科医院の従業員の中で一番早く帰れるようになったというのも大きな成果ですね。
2点目に関しては、歯科医院の営業時間を短くしたのですが、それでも営業利益が上がっている実績は、ルーティーン作業をデジタル化したことによる大きな良い変化です。
ゆくゆくは、歯科医院自体も18時に診療を終えられるようにして、それでも業績が下がらず、明るいうちに帰宅し、家族でご飯を食べられる!という状態を作っていきたいですね。

スピードと使いやすさを第一に

ー入澤:ありがとうございます。ここからは具体的にどういった物を導入されたかお伺いしても良いでしょうか?
青木:そうですね。診断の際に必要なレントゲン撮影は、CTを完備してフルデジタル化にしました。また診察席一席一席にiMacを設置し、患者さんのお口の状態を見える化させ、説明も視覚化させる事で分かりやすくなりました。

CTスキャンをした画像の読み込み装置

スキャンしたCT画像やレントゲン写真も、以前はアナログで現像液を使用していましたが、今はLANで繋がっているモニターに、ワンクリックでiMacに転送し、画像として取り込むことができるようになっています。

治療の合間合間に、スタッフさんがPCで作業をしている様子が非常に印象的でした。

もう一つのツールはレセプトコンピューターと予約システムについて説明します。PCで随時、待っている患者さんの情報を確認できるように、PCは4台置いてあります。それ以外にもiPadも置いてあり、それぞれが使いやすい物を使いたい場所で使えるようにもしてあります。

ー入澤:システムはご自身で作られたのですか?

青木:いえいえ。世の中には歯科医院向けのSaaSは沢山有ります。0から自分たちで開発するのではなく、今ある既存の物を使ったほうが圧倒的に早くそして、コストも掛かりません。ですので、世の中に有る既存のシステムを比較検討し導入しています。
技工士が使用するデジタル機器も同様で国内外のメーカーを組み合わせて活用しています。

CAD/CAMなどの機器をを活用して作業量を何倍にも増やすことが出来ています。今までは、一つ一つ手でいちから作る必要があったため、とても時間も労力もかかり、いろんな作業を同時に行うということはなかなか出来ませんでした。ただ、今回このよう機器が導入された事によって、機械が切削や焼成している間に、別の作業に従事することができるようになり、作業効率がものすごく上がりました。ちなみにこれらの機器はAI搭載しており、最適な歯の形態を提案したりしてくれるので再現性が高く、精度の高い技工物(被せ物の歯など)が提供出来るようになりました。

また、一度入れたシステムをそのまま使い続ければよいかというと、全くそうではなく。今の自分たちに事業の規模や方向性に合っているか、既存の業務内容の改善につなげることができるシステムなのかという点もとても大事な点です。診療予約はWEB予約を主に活用しているのですが、その予約システムも経営分析ができる別のものに変更しました。診察券も今後はすべてアプリに移行し、ペーパーレスにしていきます。

予約サイト画面(https://apotool.jp/)

今後の展望について

ー入澤:いやー。すごいですね。今後はどのようにされていきたいなど展望はありますか?
青木:ありがとうございます。今後の展望と言うか課題は大きく3つです。
1つ目は採用です。採用の部分はどうしてもアナログになってしまうんです。
様々な媒体を試しはしたけれども、なかなかうまくフィットせず。デジタルへの移行が難しい状況です。コロナ前にはりますが、焼肉食べながら求職者を口説いていました(笑。この部分はマッチングサイトやキュレーションサイトの構築を行い、改善したいですね。

2つ目は、歯科と技工業界のプラットフォーム化です。全国の歯科医院と技工所をネットワーク構築させて、歯科のプラットフォームを作ってみたいです。ダイナミックプライシングで技工物の料金や納期が変動し、隙間時間と人材の効率活用です。これが出来たら、うちの歯科グループだけではなく業界全体がハッピーになるのではないかと思っています。

最後は、教育です。現状行っている教育の部分を今以上にE-Lerningで補い、マニュアルも電子化させます。またVRやARで治療のトレーニングをすることができたらいいなとも思っています。

現状は、診療時間内で教育を行っています。教える側と教わる側の診療時間が減っているのも事実です。だからこそ、貴重な教育の時間を、より効率化して、技術や知識を習得しやすくなる環境を作っていきたいです。

ー入澤:ありがとうございました。


入澤取材後記

歯医者さんにあまり行くことがない自分ですが、ここまでデジタル化が進んでるのかと驚きました。デジタル化を通じて、働き方を進化させてる取り組みを垣間見えました。

一つ目は、予約受付や会計業務などの事務作業は、徹底的にデジタル化し、本来社員がやらなくても機械に任せておけることは、全部機械にやってもらうという事。そして本来人間がやるべき仕事にフォーカスしてもらうという点。

二つ目に、これまで歯形を取り、その歯形の石膏を作り、それを手作業で削りながら差し歯などを作っていた作業を、口腔スキャナで口の中をデジタルで3次元化し、それをCAD/CAMで制作するという取り組みによって、格段に作業の効率化が図られ、技工士さんでも定時で帰れるようになったという点。

3つ目に10年ちょっとで6院までグループで立ち上げた秘訣である教育システムがある事。細かい作業一つ一つをマニュアル化し、それが冊子になり社員さんに配って見てもらってる。今は冊子だが、今後デジタル化をしていって、動画やVRなどで、教育コンテンツも充実させていきたいと話していました。

単に、1つの医院のDXというわけではなく、歯科業界全体を変えてしまおうという、IX(インダスリアル・トランスフォーメーション)も見据えており、さらに医院を増やしていきたいと意気込んでいます。医療法人一心会さんの取り組みに、今後も注目していて行きたいと思います。


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