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教えて!わかるヒト!行政デジタル化について(札幌市)

この記事は、2021年10月9日に北海道のIT情報発見!発掘!マガジンのmikketa!!に掲載されたものです。

「デジタル庁」が2021年9月に発足し、より一層国や自治体のデジタル化が進むであろう昨今。地方自治体でも「Society 5.0」や「スマートシティ戦略」「デジタル推進」「自治体DX」など、ICT導入や推進に関わる様々な文言が、より一層飛び交うようになりました。

国は、地方自治体のデジタル化/DXについて令和2年12月25日、自治体DX推進計画概要を発表し、同計画の中で自治体DXの意義について大きく2点、ビジョンと重要なポイントを冒頭でまとめています。

・デジタル社会のビジョン「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」 → 住民に身近な行政を担う自治体、とりわけ市区町村の役割は極めて重要。

・重要なポイント  ーデジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させる。  ーデジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく。  ーデータが価値創造の源泉であることについて認識を共有。  ーデータの様式の統一化等を図りつつ、多様な 主体によるデータの円滑な流通を促進。

そして、同計画の中では下記のような、期日目標を定めているものも有りました。

・2025年度 自治体の情報システムの標準化・共通化 ・2022年度末 自治体の行政手続のオンライン化

国でのデジタル化促進や、自治体DXなどの波をうけ、各地方自治体にもデジタル関連部署の設立が昨年から今年にかけ増えて来ました。

ただ、いまいちよくわからない。いろんな資料を見て色んな情報を見ても、「スマートシティ」と、「DX」をどういう役割で進めていくのか、どういう進め方をするのか。同じようにも見えるし、違うようにも見える。(大混乱)

ということで、わからないなら、直接聞きに行けばいいじゃないか!!と、早速お伺いしたのは札幌市役所です。「こんにちはー!」と迎えてくださったのはスマートシティ推進部デジタル企画課の中本さんです。一つ一つ丁寧に、教えて下さったので、編集部以外のどなたかの役にたてば。というので、記事にする許可もいただいたので、みなさんにもどどーん!!!と大公開しちゃいます!!!

Q1:スマートシティとデジタル推進。何が違うんですか?

ースマートシティとDX、すごく似ているように思うのですがこれ、なぜ別立てになっているのでしょうか?何が違うのでしょうか?

中本:結論から言うと、札幌市は同じ部署が担当しています。令和2年度まではまちづくり政策局の中にICT戦略推進担当部という部署があり、そこでスマートシティ関連の施策を行っていました。令和3年度に先日取材していただいたデジタル推進担当局が新設されたことにより、スマートシティ推進部という新しい部ができ、この部署がスマートシティとDXの両方を担当しています。

札幌市ICT活用戦略という、いわゆる札幌市のデジタルの最高法規をスマートシティ推進部が所管しています。この中には行政のDXとスマートシティの観点両方が入っているんです。

札幌のITの歴史をさかのぼっていくと、最先端IT企業が集積し「サッポロバレー」と呼ばれる、勢いのある時代がありました。それが、いつのまにか、東京の下請けのような仕事が増え、一方で他の地方都市のITが大きく伸び始めた。秋元市長は「札幌にはITの底力があるはず。これから人口も減り高齢化も進む中で、ITの力でどう立ち向かっていくのかということにチャレンジしていく必要がある」ということで、この札幌市ICT活用戦略というのを平成29年に初めて作りました。

その中で、「これからのITで市民の方の生活を向上させると言ったら、何が重要?」と考えたときに、『データに着目しよう』という議論になったんです。データを使うことで、GAFAをはじめとしたプラットフォーマーがあれだけ成功するのであれば、データを適正に公共利用することで行政のサービスだったり、住民の住みやすさを向上させるような施策の高度化につながるんじゃないか。というところからデータを活用した取り組みという物を本施策の中でも大きく取り上げています。このデータ利活用の取組がスマートシティの取組へと発展してきたものと思います。

スマートシティとDXは呼び方を分けてはいるものの本質的には同じもので、あえて単純に切り分けるとすれば、今”お金などの条件が整えばすぐに取り掛かれること”はDX。スマートシティは”お金”だけじゃなくて、制度の見直しだったり、新しい技術開発だったり官民連携だったりが絡む、新しい挑戦が含まれるという風に思います。

ーなるほど。短期的なゴール=DX。長期的なゴール=スマートシティ。というイメージですね。一つの部署で、目先の目標と、中長期のものと両方追わなければ行けないのって大変じゃないですか???

中本:そうですね。沢山やりたいことはあるし、実現したら良いなということはあるけれども、それを実現するためのICTの土台ができていなければ到底実現は不可能なので、そういった意味でも同じ部署で、短期的なゴール、長期的なゴール両方を担当するというのは理にかなっているんだと思います。

Q2:Society5.0とスマートシティって、何が違うのでしょうか?

ーなるほど。。。そうなってくると不勉強でお恥ずかしいのですが、ますますわからなくなるのが、Society5.0とスマートシティって何が違うのでしょうか??(大混乱)

中本:ここは国も厳密に分けていないと思います。Society5.0に関しては、デジタルツインのイメージで、リアルでできていること(手続き含め)をサイバー空間上で再現することができれば、サイバー空間上で分析だったりサービスを想定することができるので、それを現実空間に反映し、これまでにない新しい世界が展開できる。

スマートシティやスーパーシティもデータ連携基盤というものが土台にあるんです。

都市OSって呼ばれるのですが、それが必ず街の中心に有るんですよね。

ーあぁぁぁ、都市OS。。。それもよくわからないやつです(号泣)

中本:都市OSもまだ、完成品って世の中に無いと思っています。札幌市でいくと、データ利活用の取り組みを始めた時に「ICT活用プラットフォーム」という物を作ってるんです。それは、官民のデータを集積するプラットフォームになっていて、単にデータが入っているだけじゃなくて機械がデータを使いやすいように、データを加工して入れていく、自動で連携するなどを目指したものなんですよね。これを拡張した“概念”が、徐々に呼ばれ方が変わっていって最近は都市OSって呼ばれたり、データ連携基盤って呼ばれたりしてるのだと思っています。

ーひぇーーー。そんなにころころ名前が変わっていたら、 議会説明もですし、資料作成もものすごく大変そうですね。。。  「この間まで、別の物の話してただろ!!なに?一緒なのか?」とかなりそうです。

参照:https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/a-whitepaper3_200331.pdf

参照:

中本:今は、わかっている人だけで進めているという側面もあると思うので、やはり市民の方々にきちんとわかる形で伝えていくっていうのは考えていかなきゃいけないことだと思っています。

ーそうですね。。。中々ハードルは高そうですが、必要性含め市民の皆さんに理解していただくためにも、もう少しわかりやすくなると良いかもしれないですね。

中本:なので、私たちも2020年の札幌市ICT活用戦略の改定の時にイメージを掲載しました。身近なところでいうと除排雪って、春になれば“溶けて無くなるもの”に年間200億かけている世界です。少しでも効率化するあるいは市民満足度を高くすることが、データを使ってできるのであれば、挑戦しない手はない。例えばどこの道で渋滞が起きてるとか、路面が滑るよとか、気象データでこれぐらい雪が降りそうだとか雪雲の進路がどうなっているっていうデータを全部集約して一元化して把握することができれば、今すぐ対応すべきところの雪を取りに行くという除雪の仕方が可能になるかもしれない。今は、そういったものが可視化されていないので、「雪が○センチ降ったら、全市一斉に除雪車出動!」というやり方にならざるを得ません。様々なデータを官民の垣根を超えて扱えるようになれば、もっと人の活動を最適化できるんじゃないかって思うんですよね。こういったことを官民連携でやっていっても良いんじゃないかと。

便利な街づくりという意味では、生体認証みたいなところもICTの戦略の実例で触れましたけど、予め本人同意を頂いてデータを連携基盤で使わせていただければ、公共交通機関なんかも顔パスで乗れたりとか、賛否はあるとは思いますけど。官民のいろんなサービスを手続きなしでシームレスに使うことができるんじゃないかっていう発想だったり、データを連携して活用することができれば、市民生活がより便利になりますよー。っていう、身近に置き換えると少しイメージしやすくなりますか?

あー。なるほど。都市の運営に必要なデータ=気象情報だったり、顔写真だったり、データとして扱えるものを共通基盤上に載せることで、加工しやすくなったり、利用しやすくなり、市民サービスでデジタル化が進んでより便利になっていく訳ですね。それが都市のオペレーティング・システムという訳なんですね。そもそも、それがないとパソコンのOSと同じで、上に仕組みとして乗っかるはずのスマートシティもスーパーシティも、データの利活用を前提としているので、目指す街づくりは実現しませんよ。という話になりますもんね。

中本:そうですね。個人が特定される情報というのは、今回改正された個人情報保護法でも当然に保護されるものですから、あくまで本人同意を前提に、データを活用することができれば、市民生活がより便利になって行くと思います。これをやっていくためには当然市民の方の理解も必要ですし、技術の問題もありますし、制度の問題、色々な問題、官民と連携しないとどこかの主体だけがやったって意味がなくて、みんなでデータを使える状態を目指していかなければいけないですよね。一つとったデータが他のサービスでも使える状態っていうのを目指して行くのが都市OSの本質だと思います。

Q3:札幌市のデジタル化、課題になりそうなのはどういった点でしょうか?

ーICT関連が中々得意ではない、活用が難しいという市民の方々が一定層いるのも事実だと思うのですが、苦手な方々に合わせていると、ICT活用は中々前に進まない。でも、得意な方々に進度を合わせていると、多くの市民を置き去りにしてしまう可能性もあると思います。札幌市としてはどういう方針で、進めていくのでしょうか?

中本:(DXやスマートシティ関連は)ゴールが中々見えないですよね。なので、先進的なメンバーが中心となって、何ができるのかというのを少しでも見せていく必要があると思うんですよ。ちょっとした成功事例だったりプロトタイプだったり、(デジタル化が進むと)こういうことが実現しますよ。ということを、一般の方々にもお見せして興味を持っていただくというのがまず、必要なことかと思います。「こういう物を使えるようにするためには、データの利活用というのが必要となってくるので、そこをご理解いただけるでしょうか?」というのを、丁寧に説明して、市民の理解と同意を得ていくというのは、行政として必要な役割だろうと思います。

ー。。。とにかく大変ですよね。庁内のデータをだしてくださーい!っていうまず、市役所内でのデータ関連でのやり取りを乗り越えた先に、プロダクトをやっと作れるようになり、その先に市民の方々の理解が必要でって、、、ものすごく長い道のりですね。時間がすごく掛かりそうです。

中本:庁内の中で行くと、情報を開示することに対する抵抗感だとか、何に使われるのかわからない得体の知れなさから来る警戒感みたいなものもあります。加えて、今のデジタル化って、力業によるなんちゃってデジタル化のような側面もあって、結局こういうところにデータをアップするのも誰かが手作業でやっているっていう「中のヒト」が居るような状態でやってるんですよね。これでは手間がかかり過ぎて、取組が進みません。

例えば国が言っている行政手続きのオンライン化を例にとっても、今は住民の方はインターネット上で手続きをしたとしても、役所側はCSVとかでデータを受け取った後、それを紙に印刷して、管轄の区役所に送ったりして、普段の事務処理に乗せる。結局、紙でやるより手間が増えちゃってるんですよね。それがまだまだこの分野でもあるので。。。

余談ですが、札幌市(役所)は、パソコンは基本的に有線で接続されています。パソコンを持ち歩いて打ち合わせということもできないですし、テレビ会議をするのも別途テレビ会議用の端末が必要になる状況なのです。これはセキュリティを厳重に担保するために閉域網で仕事をしているからなのですが、“デジタルでできること”を当たり前にできるようにするために、クリアしなければならない課題はたくさんあります。

ーそうなると、資料は紙に印刷したものを持ち運ぶようになりますし、紙で保管するものも増えますよね?、ICT化を推進させるはずだったイントラが業務のデジタル化を阻害しているような気がしてしますのですが・・・。

ICTのセキュリティ面ということを考えた時に、住民の方の大事な情報をインターネットと接続できる環境に置くことはできない一方、そのままでは市民の方のオンライン申請も我々の働き方も利便性が向上しない。なので、ここをどう考えていくのかっていうのは大きな問題だと思います。

まさにスマートシティにしても行政機関が多くのデータを持っているので、自治体のデータをある程度人手を介さずに、出しましょうと言われていたりしますよね。データにリアルタイム性がないとデータそのものの価値って無くなったりするので。この場合、みなさんが普段使っているインターネット環境と、行政が住民の方の情報を扱っている独自環境とをどこかでつないでいく必要はありますよね。そうなると、双方のつなぎ目のセキュリティをかなり厳格にしてやらなきゃいけないっていうのもありますよね。ここは大きな議論になっていくと思います。行政の信頼を揺るがすわけには絶対いかないので。

ーここでより便利にするためにはクラウド化だ!ってなるのか、いやいやオンプレじゃないとセキュリティは守れないので独自性を担保し続けます!ってするのか大きな分かれ目になりそうですね

そうですね。でも、ここはやっていかないと便利な世の中にはなっていかないので安全を確保しながら利便性を確保していくということは、絶対やっていくことになると思います。また、生産年齢人口の減少で行政もコンパクト化していかなければ行けないという中で、なるべく入口から出口までデジタルでつなぐことで「中のヒト」が居ない状態を作っていく、これもセットだと思っています。


編集後記

いろいろとデジタル化の勉強をしたり、多く取材をさせていただいたりしていると、行政のデジタル化に関して、「もう技術は存在するんだからやっちゃえばいいじゃん!!」って、思うことも正直何度もありました。でも、今回わからないことを徹底的に質問させていただき、お答え頂いたことで、「いやいや一筋縄じゃいかんのだよ」ということも、すごくよくわかりました。

行政がデジタル化を進めていくためには、住民の理解と同意、そして庁内の理解と協力と体制の変化。システムやサービスを作る事業者との調整や、実現性の担保。いろんな壁を乗り越えて行かなければいけなく、改めて「大変だーーーー」と実感しました。

少しでもこの記事が、行政のデジタル化よくわからないぞー。 と感じているかたのお役に立てたら幸いです。

取材・文・写真:新岡 唯

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