見出し画像

オール北海道でデジタル地域通貨の普及等を目指す「QUALITY HOKKAIDO」

この記事は、2022年3月16日に北海道のIT情報発見!発掘!マガジンのmikketa!!に掲載されたものです。

昨年11月、北海道の経済界で大きなニュースが報じられました。
北海道全域へのデジタル地域通貨の普及とデータを活用したオープンイノベーションを目指す業界横断の団体で構成される「QUALITY HOKKAIDO一般社団法人」の設立です。
設立時の代表理事コメントで、サツドラホールディングス株式会社代表取締役社長兼CEOでもある富山 浩樹さんはこう記していました。
「北海道を大量生産・大量消費といった従来の枠組みではなく、北海道そのものの価値・質を高め、またデジタルも活用した地域のスマートライフを実現することで持続可能な北海道を目指したいという思いから“QUALITY HOKKAIDO”と名付け、道内企業・団体の皆様と当法人を設立しました。オール北海道体制でデジタル地域通貨をはじめ、道内の社会課題を解決するサービスを生み出し、日本の地域の新たなモデルを創っていきます。」
設立から5ヶ月たった今、QUALITY HOKKAIDOはどのように進んでいるのでしょうか?また、今後目指すところは?サツドラホールディングス インキュベーションチームの高橋幸裕さんに話を伺いました。

再び日の目を浴びる地域通貨

地域通貨は、特定の地域やグループ、コミュニティの中で発行され使用される貨幣のことをさします。2000年ごろに日本国内では「地域通貨ブーム」と呼ばれる現象が起きたことを、覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。北海道では1999年に下川町で「LETS Fore」、2000年には札幌市で「ガバチョ」、「ガル」(苫小牧市他)、「クリン」(栗山町)などの地域通貨が登場し、地域で活用され当時は全国で約3,000もの地域通貨が存在したという記録が残っています。
地域通貨は、それぞれ法定通貨と同じように紙幣を発行する「紙幣(紙幣発行)型」通帳を持ち、利用都度記帳をする「通帳型」など、さまざまな手法がとられてきました。しかしながら、国からの助成金が終わったことや、運営負担の大きさなどを背景に、2010年ごろを境に減少を続け、地域通貨ブームは下火へと転じていきました。
昨今、再び「地域通貨」という言葉を耳にする機会が増えてきたと感じる方もいるのではないでしょうか。
IT技術の進化によって、スマートフォンを活用したキャッシュレス決済や、インターネットバンキングなどのフィンテックが広がり、地域通貨の運営負担や維持が軽減されたことをきっかけに、再び注目を集めているというのです。北海道でも電子地域通貨が徐々に広がりを見せ、美瑛町では「Beコイン」、ニセコ町では「NISEKO Pay」富良野市では「デジタル健幸ポイント」といった、新しい施策が各地で始まっています。

「地域通貨」を新たに作る真意

地域それぞれで導入している地域通貨と、QUALITY HOKKAIDOが目指す「北海道の地域通貨」導入する地域にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか?

高橋さん「メリットは主語を何に置くのかによって、変わってくると思います。例えば、ユーザーを主語に置いた場合は、当然地元だけで使える通貨というのも、とても重要なのですが、通貨自体に流動性とか使える場所が少ないと、”通貨”というものは回らない。例えば札幌で地域通貨ができたとして、隣の江別とか当別とか近隣市町村でも使うことができたら、ユーザーはいろんなところで使ってくれるようになりますし、使うメリットも増えると思います。一方で、地元の加盟店側のメリットで考えると、地元の商店街と、我々のサツドラのようなチェーンの店舗がある町だとしたら、地元の商店街の方々にとってみると我々の店舗で買い物を地域の人がすることで、「消費されたお金は地元に落ちてないよね」と思われることもあります。地元の中小企業の方からすると、「消費するのであれば、やっぱり地元にお金を落として欲しい」という、思いを抱かれる方々も多いと思います。地域通貨を導入することで、そういった地域へお金を落とすことに対して、非常に有効に繋がるのかな、と思っています。私たちは、消費者側と加盟店側双方にメリットがあるところを目指していきたいと考えています」

北海道だけではなく、全国の地方都市にも同じ課題感があるといえるのではないでしょうか。国道沿いは非常に栄えているけれども、よくよく見てみると、その土地資本の企業ではなく、別の土地に本社を持っている企業がずらっと並んでいることがあります。その場合、消費者がいくら消費をしたとしても、地域に落ちるお金は土地の賃料と、従業員に対しての時給などほんの僅かなものであり、利益から繋がる納税先は本社がある土地である。ということは、皆さんすでにご存じのことと思います。
お金周りだけではありません。ポイントカードなどで得ることができる、消費者の購買情報も同じです。私たち消費者にとっては、いろんなところで同じポイントカードを使うことができ、ポイントを貯めることができます。具体例で言うと、Aというお店で物を購入した情報はAのお店やAの本社にPOSデータとして残ります。しかしながら、購入した人はどんな人なのか、どんなものを好んでいるのかなどの、顧客情報を得てマーケティングに活用したい!といった場合、データはポイントカードを運営している企業から購入する必要があります。

高橋さん「現状はデータの逆輸入といいますか、お店で消費というトランザクションが起きているのに、またお金を払ってデータをもらわなければいけない状態になっているので、そういったところに我々も危機感を感じています。地元の資産といいますか、データ資産だよね。というところで、うまく北海道で流通させていこう、回していこうという風に考えています」
データの利活用やポイントカードというと、サツドラホールディングスのグループ会社が運用をしている「EZOCA」があります。全道どこの地域に行っても「EZOCA」の名前を見る機会があり、データの利活用や、基盤作りというニュアンスでいくと、「EZOCA」の普及で良いのではないか?あえて、「地域通貨」に新規参入をしていく必要はあるのでしょうか?
高橋さん「毎年、加盟店が増えてきているので、一定の規模のポイントカードになってきたかなとは思うものの、データの利活用という点で見るとまだまだかなというのが、今の我々の現状です。そして、「EZOCA」ではなく、なぜ「地域通貨」という問いへの返答になるのですが、今回のQUALITY HOKKAIDOの取り組みは、サツドラだけでやろうとしているのではなくて、北海道に関連しているみんなでやろう!としているのもポイントなんです」


高橋さん「というのも、今回の座組みを見ていただくと、スポーツチームでいくとコンサドーレさんやレバンガ北海道さんが入ってくださっているのです。例えば、スタジアムで試合があって、その前や後にサポーターがどういう行動をしているのか、どういう動線で購買をしていくのか。というのを追いたいんですよ。そういう思いがあって、今回異業種の方々に参加いただいて、やっていこうとしているんです。」

コンソーシアムや団体というと、同じ業態や同じターゲットを顧客にしている人たちが集まる団体を目にすることはあれど、QUALITY HOKKAIDOのように、流通小売から、旅行業界、システムインテグレーターや不動産、電力会社など、多種多様な業態が集まるというのは珍しいことなのではないでしょうか。高橋さんは「私もびっくりした」と言い、目を丸くしていました。

将来的に目指す形は?

多くの企業が賛同し、まさにオール北海道のような形で地域通貨や地域基盤作りを進めているQUALITY HOKKAIDOですが、データの利活用や発展性を考えると当然「ブロックチェーン」という話がでてくるのではないでしょうか。

都市のデータ利活用の事例で名前が上がるのは、「エストニア」の事例です。日本のマイナンバーカードのロールモデルにもなったことでも有名な国です。エストニアではほぼ全ての行政サービスがデジタルで完結できると言われています。QUALITY HOKKAIDOが、地域通貨の取り組みや、購買情報や行動情報の蓄積を進めた先に、北海道独自のブロックチェーンの仕組みができるのではないか?と思うのは筆者だけではないはずです。

高橋さん「サツドラホールディングスとしては、ブロックチェーンのPoCをやってはいるんです。それは、個人情報や行政手続きというものよりは、決済に近い部分のブロックチェーンのPoCをやったんです。将来的には決済に加えて、データ連携の部分でブロックチェーン技術を活用できると考えています。一方で(小売の)ビジネスに実装していくには、より一層の検証が必要であるということも感じています。引き続き、関連法案である個人情報保護法や資金決済法などの動きをしっかり見ていきたいですね」

データを”オール北海道”で持つこと、それを行政サービス含め各所で活用するということは実現に向けて、まだまだ高いハードルが残っていそうです。一方で今回QUALITY HOKKAIDOが進めている決済という視点で見るとどうなのでしょうか?

高橋さん「今の地域通貨のいろんな全国的な取り組みとか多少、ブーム的な要素もあるんですけど、流れを見ていると自治体の補助金や、新型コロナウィルス関連の交付金が入り口となって始めてみたものの、(利益構造視点で見て)回っているか、っていうと・・・。というのが非常に多いですよね。なので、決済単体事業で利益を立てていくというのは、厳しいかなというのも感じていたりします。ただ、難しい点ばかり言っていてもアレなので、今回の座組みの良い点は、みんな実店舗や現場を持っている点なんです。システム屋さんが、システムを事業促進のために作るというのではなく、それぞれが店舗を持っているので、作ったシステムをうまく、PMFしながら進めていけるのではないかと思っています。今この段階で私たちが考えているのは、あくまでブロックチェーン化にこだわることなく、当面の二年間はやっぱり、QUALITY HOKKAIDOの加盟店や賛同してくださる基盤を広げていきたいですね。決済できる場所を増やしていくことによって、加盟店や消費者双方にとってのメリットが増えていくと思っています」

<編集後記>

以前、札幌市デジタル推進局へ取材に伺った際や、SNETさんへ伺った際も、個人情報保護の観点でデータの利活用が難しいという話が出てきていますが、「より便利な社会」を実現していくためには、データの利活用に関する法令の制限緩和が一つ肝になっていくと改めて感じるお話でした。

また、IT企業が手動するデジタル化の仕組みはあれど、小売業や旅行業など非情報産業の方々が進めるデジタル化のコンソーシアムというという点も、全国で見ても非常に珍しい座組みなのではないでしょうか。
北海道の名だたる事業者が参加しているコンソーシアムということもあり、今後の動向が楽しみですね!お話いただきありがとうございました。

取材、文:新岡唯

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?