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美術館の新しい開きかた。「作品のない展示室」の個人的記録

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コロナ禍の2020年3月〜9月の記録。「作品のない展示室」で妙に注目されてしまった東京・世田谷美術館の中から見えていたこと。こんなふうに新しく開くこともできる、という発見の日々。
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#建築

お金がなくてもあそこには行っていい、居ていい、と思える場所。【美術館再開日記29】

この「再開日記」も、あと少しで終わりになる。臨時休館明けから「作品のない展示室」を経て、もうすぐ100日というあたり。まだまだ「非常事態」は抜けていないけれど、あの猛暑は去って、季節は移ろう。今回は、広報担当者とのランチでの会話。まだまだ先は見えないけれど、1ミリずつくらい、変わっていけるといい。 美術館再開94日目、9/19。涼しい。広報担当の思い。 連休初日、都内コロナざっと220人。 今日は広報担当者と2人でランチ。 「作品のない展示室」の取材記事が まだ出続けて

再起の道すじが見えてきたのか、そうでないのか。【美術館再開日記5】

予定がすべて吹っ飛んでしまった展示室をどう使うのかは、最終的には金勘定の問題である。だからこそ、(なけなしの)お金を動かす志のありようが問われる。ボロボロなのに、あくまで「美術館」として展示室を開け続ける、とはどういうことなのか。思えばこれまで国内外で大きな厄災が起こるたびに、各地の美術館はその問いに直面してきたのだった。 いまとっさに(すごい飛躍とともに)頭に浮かんだのは、たとえば宮城県のリアス・アーク美術館。2011年の東日本大震災のあと、大津波で被災した地域のモノを収

あらためて、美術館の空間と向き合う。【美術館再開日記4】

再開1週間目の会議で、思いがけず「からっぽでいいから展示室を開ける」ことが決まった。当館の場合、からっぽだと、ふだんは移動壁などで隠してある窓を見せられる。それなりに長く勤めている人は、それが何を意味するか知っている。ただの白いハコにはならない。美しい借景をも堪能できてしまう空間になる。 ゆえに、どれだけ良い展覧会を企画できるかと日夜身を削っている学芸員にとっては、禁じ手でもある。「こんな時じゃないとできないことだし、無料開放だし、来場者も喜ぶかも」という意見が多いなか、黙