メジャー主義

コロナの影響で去年から大学のジャズハーモニーの授業は全てZoomを使ったオンラインに。これは非公開ながらアーカイブとして残るので、色々な方の教育、レクチャー系YouTubeを観ては説明や資料の提示などの参考にしている。
そこで先日、オルガン奏者で慶應SFCで教鞭をとられ、ご自身のYouTubeチャンネルでも発信されている土田 晴信さんと意見交換をした。
土田さんは主にアメリカの大学でジャズ以外にもクラシックの和声を学んでこられたため、いわゆるジャズ理論との表記の違いについては悩まれるところも多いとのこと。
そしてなぜかこの手のトピックは可燃性が高い(笑)

一般に広く普及していると思われる、いわゆるバークリーメソッドは「メジャー主義」すなわちコードもスケールも調性も「何も言わなければ当然メジャー」としてそれを基準に、マイナーもその中の一部として組み込んで考える。
そしてメジャースケール上に積み上げられるコード群をPure Diatonicとして、調性を構成するコードの中で最も優先的に認識されるものとする。したがってマイナーのダイアトニックもをメジャースケールを基準に♭Ⅲ ♭Ⅵ ♭ⅦというⅠからの距離で表記され、それらは調性の認識される優先順位としてPure Diatonicに劣るという考え方。
トライアドを基本としたクラシック和声ではメジャーを Ⅰ Ⅳ Ⅴ マイナーをⅱ ⅲ ⅵ ディミニッシュをⅶo と大文字、小文字のローマ数字で表記するのが一般的な慣習として普及しており、その反面、メジャー主義を基調とした体系の中での同主調短調の度数区別はされていないようだ。
おそらくバークリーメソッドはこのメジャーキーとマイナーキーを一元的に説明する方法論を提唱し、その整合性と利便性ゆえ、かなり普及したものと思われる。

では、そのバークリーメソッドにおいて例えばマイナーキーのセカンダリードミナントはどうアナライズするのか?
キーCmのE♭7は♭ⅥであるA♭maj7のセカンダリードミナントなのでⅤ7/♭Ⅵになりそうなものだけど、セカンダリードミナントはダイアトニックなルートを持つものと定義されている。なのでE♭7はセカンダリードミナントA7の裏コードsubⅤ7/Ⅱ、つまりその時点では♭Ⅵより優先順位の高いPure Diatonicである Ⅱ に半音下降し解決するもの、と考える。

まあ、しかし、これらは言ってみれば「教えるための方便」のようなもの。
そこに音楽が生まれる何かがあるわけではなく、説明する方法にすぎない。この「メジャー主義」に一元化されたバークリーメソッドもそれなりにいろいろな不具合を抱えている。

音楽理論というのは、いわば「世界地図」
3次元球体である地球の地理を2次元平面に描くのは原理的に不可能。ある図法は面積が不正確だったり、また別の図法は距離や形、方角が不正確だったり。なのでそれぞれの用途、範囲において少しの矛盾があるものの、概ね理解しやすい説明が出来るもの、言い換えれば「日本地図」程度のものなら誤差も矛盾も許容範囲に収まる、その程度で良いのだ。それがバークリーのメソッドが比較的広く普及した理由の一つと言えるだろう。
ただ、この同主調短調と平行短調という問題はそのなかでも比較的早くに現れる「説明の上での問題」。上記のようにクラシック和声の表記とも異なるためここで混乱してしまう学習者も多い。
また、これは移動ド、固定ドの問題同様、それぞれが原理主義化、信者化してしまい、お互いを排斥、攻撃してしまう傾向があるように思う。残念なことです。
なので「一つの音楽的事象を説明するのに幾つかの異なる方法論があり、それぞれ長所、短所があるのだけれど行き着く先は同じ、だからそこで混乱しないでね」ということを学習者に伝えていきたいなと思っています。

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