遊戯倶楽部

遊戯倶楽部という倶楽部が東京の某所にある。古今東西の色々な遊戯の愛好家が集まっている倶楽部である。この倶楽部の面白いのは、狭い部屋に一つの蝋燭の灯りだけで遊戯をすることだ。そしてその回の遊戯の内容によっては賭けをするという。
 元々この倶楽部は佐々木という遊戯愛好家の金持ちが始めたものであった。だが佐々木は遊戯倶楽部を始めてから十年ほど経った頃、友人で倶楽部会員の滝沢という男に倶楽部についての全ての権限を託すと人々の前から姿を消してしまったという。

 この倶楽部について聞いた田辺という遊戯愛好家の男は非常な興味を持ったらしく、あの手この手を尽くして倶楽部についての情報を手に入れた。全く摩訶不思議な力に引き寄せられる様に、なぜか田辺は倶楽部にすっかり夢中になってしまったのだ。その情報によるとこの倶楽部は月に一度やっているという。
 田辺がある日、遊戯関係の友人の赤城という男と酒を飲みながら話をしていた。だがその話の中で、田辺はつい誰にも話さないでおくつもりだった遊戯倶楽部のことを話してしまった。「赤城、遊戯倶楽部という倶楽部知ってるか?」
 すると、赤城は驚いた調子で、「なんだって、それは僕が入会している倶楽部じゃないか!」田辺は赤城が倶楽部の会員だったことに驚いた。それから田辺は赤城に倶楽部についてさまざまなことを訊いた。

 そして田辺は遊戯倶楽部を見学することになり数日後、田辺は倶楽部の部屋がある建物の前に赤城と共に立っていた。十秒ほど立ち尽くしていただろうか、「さあ行くぞ」赤城は田辺の手を引っ張った。田辺は初めての遊戯倶楽部に興奮していた。

 田辺と赤城が部屋に入ると、もう他の会員は椅子に座っていた。田辺と赤城を含めてその時の人数は五人だった。まず、倶楽部の会長の滝沢、その右隣には山村という男、左隣には澤村という女。本当はこれ以外にも会員がいるのだが、その時に部屋にいたのは五人だけであった。人数の少ない回だった。滝沢は会員を睨み付ける様な目で「それじゃ始めよう」

 滝沢が倶楽部を取り仕切っていた。滝沢は電灯を消すと、机の真ん中の蝋燭に火を灯した。その回の遊戯はとあるトランプ遊戯だった。しばらく遊戯をやっていると、澤村が赤城の方を見て「貴方、上手いわね」すると赤城は「僕は畑山先生という方に習ったんですよ」それを聞いた澤村は「あら、畑山先生ってあの畑山靖子先生? あの畑山御大の孫娘の?」滝沢がしわがれた声で、「畑山御大といえばこの遊戯を我が国に広めた第一人者ですからなあ」人々の話を聞いた山村は「僕は沢田先生という方に習いました。沢田次郎先生です」澤村は驚いた調子で「沢田さんって、最近奇術師として人気になっているあの沢田さん?」

 しかし田辺は畑山靖子なる女性も、畑山御大と呼ばれている老人も、沢田次郎という奇術師も名前すら聞いたことが無かった。だが、滝沢が田辺に今までに上げた人物を皆が知っていることが常識だとでもいう調子で「君は誰に習ったのかね?」と言ってきたのだから、田辺は訳もわからず咄嗟に「僕も、沢田先生に……」それを聞いた澤村は「あの、G町にあった遊戯塾で習ったの?」田辺はすっかり自分に自信がなくなっていった。「ええそうですよ」田辺は段々と生気のなくなった様な調子になり、心配した滝沢が「大丈夫かね?」と言う始末。

 山村が「君、畑山先生にあったことは?」それを聞いた田辺は「もうどうにでもなれ」とでも言うかのように、激しい調子で「ええ、ありますよ」と答えた。当然彼は彼女にあったことは無い。山村はニコニコと笑いながら、「そうか、そうか」滝沢はそこで「それじゃ畑山御大がこの遊戯を我が国に広めたのは何年の事かな?」田辺には当然わからない。「ええと……それは……明治……」田辺の額からは汗が吹き出し、ては今にも震えそうである。なかなか答えない田辺に山村は追い詰めるように「君、早く答えろ」それに追い打ちをかけるように、澤村も「早くしないの?」田辺の顔色は目に見えて悪い。だが、そこで今までずっと黙っていた赤城が、「皆さん、田辺くんも疲れていますしもうやめにしましょうよ」と叫んだ。

 すると、滝沢も、澤村も、山村も、皆、異口同音に「いや、済まなかった」田辺は咄嗟のことに意味がまるでわからない。「どういうことですか?」すると滝沢は「済まん済まん。畑山先生というのも、畑山御大というのも、沢田次郎というのも、ここにいる皆が即興で創り出した名前なのだよ。そんな人物はこの世にいない。今までの会話は皆君を試すために創られた、偽物の、罠の会話だったのだ。この倶楽部では新しく倶楽部に入りたいという者がいればこうやってどういう人間かを試すのだよ。だが、君はまんまとこの罠に引っ掛かってしまった。残念ながら君はこの倶楽部には入れない」

 赤城は「それじゃさよなら」田辺は建物から出されてしまった。
それから一月後、田辺はこの建物にまたやって来たが、そこにはもう「遊戯倶楽部」は無かった。これは田辺の幻想なのか、それとも現実なのか、それはもう誰にも、田辺自身さえもわからない。

これは小6の息子が書いたものです。
友達は誰も読んでくれないようなので、ここに投稿しました。

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