あの「焼きそばでいい」問題を考察する

「ねぇ、お昼ご飯は、何がいい?」
「あー、焼きそばでいいよ」

はい、これが世の中の多くの男女間や家族間に頻繁に発生する「焼きそばでいい」問題ですね。この一言で聞いた側の機嫌が急に悪くなる。答えた側は、何が問題なのか理解に苦しむ。この構図、よくありますよね。今日はこの問題に向き合い、言語化してみたいと思います。えっ?突然なんで?と思われるかもしれませんが、「伝える」という観点ですごく大切な事が見えてくるんです。

このやりとりの問題点はただ1点。「焼きそばでいい」の「で」だけなんです。

「焼きそばでいい」と「焼きそばがいい」とどう違うのか?
それは、「妥協」のあるなしです。

「焼きそばがいい」はしっかりとした自分の意思を感じます。いろんな選択肢の中から自分は焼きそばがベストだと思う。それ以外の選択肢はないという潔さ。
では「焼きそばでいい」はどうでしょうか?いろんな選択肢はあるんだけどまぁ、今日の所は、焼きそばにしといてやるか。本当はベストではないけど、ベターでしょ。分かりますか、この妥協的ニュアンス。

こっちが聞いている事に対して妥協の答えが返ってきた事に腹が立つ。これがまず第一戦争勃発の危険性ですね。

実はここで第二戦争勃発の危険性があります。
それは答えている側が何も考えずに「で」を選んでいるかそれとも意図があって「で」を選んでいるかそれによって変わってきます。

何も考えていなかった場合はただ単に「てにをは」を使い間違えたというだけにすぎません。「そんなつもりじゃなかったんだけど」ってやつですね。

しかし、意図を持って選んでいた場合は話が違ってきます。そして、その意図に「優しさだ」という主張が絡んでくると、これは厄介です。

焼きそばで手を打つよ。本当はもっと食べたいものはあるんだよ。あるんだけどさ、でも、お昼に面倒なものを作らせるのはいかがなものかと思うわけだよ。ほら、焼きそばってただチャチャっと炒めるだけだろ?簡単に出来るじゃないか。だから、他の面倒な食べ物じゃなくて、「焼きそばでいい」これは、君に対する優しさなんだよ。

何が問題なのか?声を大にして言いたい。

「焼きそばって簡単じゃねーぞー!!!!野菜や肉を切って、肉に下味つけたり、固くならないように先に炒めたり、野菜を下ゆでしたりしてるの、知ってんのか!洗い物だって多いし、それなりの量を作るってパワーもいるんじゃい!しかも全部やるのは私じゃないか。その大変さを全然分かってもないのに優しさだとか言って『で』とか使ってんじゃねーよー!!!」

心の叫びが汚い言葉ですみません。

でもね…
ちょっとだけでも知って欲しいんです。
ちょっとだけでも労って欲しいんです。
ちょっとだけでも感謝して欲しいんです。

それを「で」という言葉を使われるだけでぞんざいに扱われているみたいで何だか悲しくなっちゃうんです。
でも答えている方も優しさだと思って発している。
なんだか「伝わらない」の悪循環ですね。

テレビマンとして伝える仕事や、記事や原稿を書く仕事をやっていた私としては助詞1つの奥にこんなに意味を含ませられる日本語の「奥深さ」が怖くもあるけど面白くてたまらないのです。でもこんな事をイチイチ考えていたら会話もままならないしSNS投稿なんてできないじゃないですか。

言葉は使えば使うほど磨かれます。どんどん使っていっぱい失敗しましょう。

ちなみに私もテレビマン時代に先輩やデスクと言われる方々に原稿を真っ赤に添削されまくって「何言ってるか分かんねーよ!」とこっぴどく怒られながら書き続けたから伝える専門家としていられるのです。最初から出来たわけでは決してありません。失敗の賜物、って事ですね。

「どうやったら伝わる文章が書けますか?」と質問される事が多いのですが、とにかく書いてみるしかありません。それを的確にフィードバックしてもらえる場があるとベストだなと思って、たまに私も投稿やPR文章の添削などをやっています。

「伝えたい」と思うのであれば、難しいから諦めるのではなく、難しい中にある面白さを見つけられると最強ですね。

あっ、そうそう、これも大事な事なんですが…

日本語の奥深さを知ると、自分の言葉だけではなく、他人の言葉にも敏感になってしまいます。「そんな言い方ないでしょ!」みたいな。でも日本語の奥深さを知ると同時に、知らない人への寛容さも持った方がいいですね。

「焼きそばでいい」と伝える前に、どう言ったら伝わるんだろうと考える思いやりと

「焼きそばでいい」と言われた時に、もしかしたらその人なりの優しさを含ませてくれているのかもしれないと考えられる器の大きさ

そして、こんなくだらない事でこんなに話を膨らます事が出来るってすごくないと面白がる心

ちょっと自戒の念も込めてますが「伝える」にはいろんなものが必要ですね。

さて、そろそろお昼だな。
「ねぇ、お昼ご飯は、何がいい?」

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