蕎麦にフラれた事によって思い込みを捨てろと言う教訓を得た話。

数日前からどうしても蕎麦が食べたいと思っていた。
自宅には頂き物の生蕎麦があるのだから帰ってから食べれば良いものを、遅くなってしまって面倒になったり、お腹が空いていなかったり、途中で誘惑に負けてしまったり・・・
そんな日々が続いていたところ、Instagramで美味しそうな蕎麦屋を発見。
職場から少し歩いた場所にあるものの、行けない場所ではない。
そして以前にランチ場所を探すためになんの気なしに前を通って、入りにくいお店だなぁ・・・と思い、入らなかった記憶がある。
王道の蕎麦屋ではなくて、酒の肴に蕎麦、的な蕎麦メニュー推しの飲み屋さんらしいが、昼間に通ってお客さんがいたのでランチもやっているのを確認済み。
最初は、せいろをたらふく食べたいと思っていた蕎麦欲だったけれど、Instagramに掲載されているのは、ちょっと変わりダネの令和スタイル。
せいろのつもりだったけれど、どうにもこの蕎麦が食べたいという欲求がふくらんで、昨日、いざ蕎麦屋へ！

猛暑の続く東京で、冷たい変わりダネの蕎麦をすする自分を想像して、ニヤニヤしながら炎天下を歩き続け、道を一本間違ってしまった模様。
いつも行くつけ麺屋の前に出てしまって、「今日はそういう気分じゃないのよ、ごめん」と心の中でお詫びしつつ、件の蕎麦屋の前に到着。
ん？？
んん？？
んんんんんんんんん？
店の中に人の気配がない。
えーーーーーーーー！！！
ここまで来て、あの蕎麦食べれないという私のこの欲望はどうすればいいの・・・あまりにも切なくて、やりきれなくて、他の蕎麦屋に行く気になれず、この日は真逆のものを食べてやろうと、天丼に変更。

そして本日。
「いやいや、そうは言っても昨日は定休日とかだったかもしれないし、ダメ元で行ってみてもいいんじゃないかな〜」
と、呑気にランチタイムに同じ道を向かう。
当然、昨日のような道を間違えるミスは犯さない。
遠くに見えてきた蕎麦屋。
早る気持ちと抑えられない期待。
容赦無く降り注ぐ日差しに負けじと、日傘も持たずに向かう私。
はためく暖簾が見え、入り口には昨日はなかった案内看板的なものが出ている。
よし、これは勝負が見えてきた。
暑さに負けて吹き出す汗が目に沁みる。
そして2日目の、件の蕎麦屋の前に到着。
店の中に人の気配は・・・ある。
窓も空いている。
ん？？
んん？？
んんんんんんんんん？
えーーーーーーーー！！！
「本日のランチはお休みさせていただきます」
そう案内看板には手書きの文字が。
もう呆然とするしかない。
きっと、この蕎麦屋と私はご縁がないのだ。恋焦がれた蕎麦には出会えない。
私は蕎麦にフラれたのだ。完全に失恋だ。
フラれた相手に未練はあるが、引きずってもお腹は空くので仕方ない。
新しい恋を見つける必要がある・・・恋愛の傷は恋愛で癒す、これ常識。
そうだ、この近所に、それも職場に帰る道すがらに昔ながらの中華そばが有名な店があるじゃないか。
この店は、通常の中華そばも美味しいけれど、冷やし中華が美味しいのだ。

この季節しか味わえない冷やし中華。（先週も食べたけどね）
同じく麺は麺だしね。（食べたかったのは蕎麦だから）
この時間ならそんなに混んでいないはず。（それはどこも一緒だよ）

色々思うところはあるし、もうそこは切り替えて冷やし中華を楽しもう。
フラれたっていいじゃない、冷やし中華に慰めて貰えば。
2番目に好きな人と結婚した方が幸せになれるって、なんかそんなこと言ってる人がいた気がする、それと同じなんじゃないかな。
そんなことを思いながら店に入ると、店員さんに
「お２階の席どうぞ〜」
と言われ、階段を上る。中華そばとカレーのセットの人や、チャーシュー麺の人もいる。
2階に上がると正面に「冷やし中華」の文字。
普通の冷やしと、マヨネーズ付きと、おろし玉ねぎ付きの3種類。
席に座るや否や、「冷やし中華おろし玉ねぎ付きお願いします」とお伝えする私。

気持ちは吹っ切れたはずなのに、何かモヤモヤする。
これがフラれた人間の気持ち・・・
そんな、なんとも言えない気持ちのやり場に困惑していた私の隣にサラリーマン風の男性が二人着席。
一人は、チャーシューメン。
そしてもう一人。
私はその人のオーダーを聞いて、ハンマーで頭を殴られたほどの衝撃を受けたのだった。
「せいろ、大盛りで」

いや、私が悪いのですよ。
「この店は中華そばが美味しいのよ」と言う概念を捨て去れずにいるから、本来は何の店なのかなんてことをすっかり忘れていたのです。
店名は更科、そう、立派な蕎麦屋なわけです。
忘れてた・・・ほんと忘れてたよ。
「『蕎麦屋なのに』この店は中華そばが美味しいのよ」
思い込みって恐ろしい。
私のモヤモヤは、フラれたからだけでなくて、本当はせいろをたらふく食べて欲求を満たすことが出来たかもしれない大切なチャンスを、みすみす逃したからだったのだ。
冷やし中華は美味しかったです。
でも、どうにもこうにもモヤモヤが残る、夏の午後なのでした・・・
思い込みってやつは、本来のゴールへの妨げになってしまう。
これを教訓に、フレキシブルな考え方のできる大人になろうと決めました・・・

いつもなら大好きな更科の冷やし中華。この子に罪はありません。
そして、いつの日か更科で蕎麦を食べたいと心に誓いました。