見出し画像

耳読書をやめた+おすすめAudible本3作

 最近、Audibleのサブスク更新を止めた。あまり良い使い方ができていないな、と思ったからである。

 書籍の朗読視聴、いわゆる”耳読書”ができるAudibleは、とても便利なサービスだ。私はわりと早い段階からちょくちょく使っていて、出産してからのこの一年あまりはヘビーユーザーだった。

 小説も、ノンフィクションも、ビジネス書も、児童書も、なんでも聴いた。とてつもなくありがたい存在だった。Audibleのおかげで、子どもの授乳中や離乳食をあげている間、子どもを寝かしつけるために抱っこ紐やベビーカーで家の周りをあてどなく歩き回っている間なんかにも、まったく退屈せず過ごすことができた。何作聴いたかはわからないが、100作くらいはいっているんじゃないかと思う。

 それでも、更新するのは一旦やめた。3ヶ月くらい悩んだ上で。


 理由はいくつかあるが、最大の理由は「そこまで読みたい(聴きたい)と思っていない本を漫然と選んで聴いて、しかも脳を疲れさせるのはよくない」と感じるようになったからである。

 大前提として、今の私はだいたいいつも慌ただしい。日々持てる力のすべてを出し尽くす一歳児の相手、会社労働、副業の執筆、家事、と一日中何かしらやることを抱えて目が血走っている状態だ。

 Audibleを使うのはその隙間の時間である。最近では、子どものぐずりに長時間付き合っているときや食事を与えているとき、買い物の道中、寝かしつけ中などに聴くことが多かった。

 子どもが積極的に動き回るようになる前までは、それで良かった。でも数ヶ月前から明らかに満足度が下がっていた。あまり内容を覚えていないし、聴いたあとに疲れが増す。聴く作品を選ぶのもなんだかおっくうだった。

 なぜかはわかっていた。「少しでも得をするものを聴きたい」という卑しい焦りが、心のゆとりと思考リソースをごりごり削り取っているのだ。

 子どもの相手と仕事でパンクしている私にとって、耳読書は貴重なインプット機会である。そうなると、なるべく多く聴きたいし、自分にとって勉強になる情報を優先したい。その考えから、私はこまめにラインナップをチェックして、特に社会科学系の書籍をどんどんブックマークしていた。

 ただ、Audibleに私の好きなタイプの本は少ない。小説はいいが、歴史や政治学の分野となると明らかにいい加減な本が増える。絶対読みたい、と思える本は少ない。しかしせっかくのサブスクなんだから、少しでも学びになりそうなものは限界まで摂取しなければ……。

 これは、はっきり言ってよくない発想である。

 ホテルの朝食バイキングで、食べたいものを闇雲に皿に詰むのと同じだ。そこには、食べたいものに真っ直ぐ向かう健やかな好奇心や欲望ではなく、「払った金の元をとり、あわよくばもっと得をしたい」という漠然とした損得勘定しかない。

 そういう目で見ていると、作品の選び方や、個々の作品の聴き方も冴えなくなってくる。直感がはたらかずぼんやりと無限スクロールしてしまったり、聴き終えるまで関心が持続しなかったりする。その結果、だらだらした散漫な作業やながら聴きが増え、頭が疲れて終わるのだ。これじゃインプットの意味がない。

 読書の時間が足りないのは苦しい。だけど、足りない気持ちで焦りながら得の有無をジャッジしつ続けたり、漠然と音声を頭に流し込むのはもっと自分の時間や体力の無駄遣いになる。

 そう気づいてからも、きっぱり思い切るまでずるずると3ヶ月もかかってしまった。

 疲れていると退屈が無駄に怖くなる。耳が空いているときに耳読書をしないでぼんやりする、ということに抵抗が生じ、少し検討に時間がかかった。Audibleをやめるというより、「隙間時間をインプットで埋めようとするのをやめる」と決めたらふんぎりがついた。


 Audibleなしで過ごしてしばらく経つが、気持ちは楽だ。耳読から離れて改めて思うのは、私は疲れと焦りから「有益中毒」になっていたんだな、ということである。今もそれが完全に治っているとは思えないが、少しゆるんできた気はする。

 いま、長時間の寝かしつけなどでどうしても頭が暇なときは、NHKのラジオかオンデマンド配信の音声を聴いている。朗読が休みなく流れるAudibleと違い、ラジオやテレビだと注意をそらしてもいい瞬間が多いのが利点だ。


 耳読自体はいいものだ。私も、また必要になったら再開すると思う。ただ、素朴に楽しんで聴けないうちは封印しておきたい。

 バイキングで全部のおかずを山盛り積んで、よく味わわないで丸呑みして終わる人より、好きなものを美味しく食べられる量とって終えられる人の方が優雅で憧れるというものだ。

 まあ、今の私の生活に優雅さなんてカケラもないのだけれども。


※おまけ

 私が「Audibleで聴けてよかった!!」と思い、かつAudible初心者でもとっつきやすいと確信を持っている三作。 Audible未経験の方はぜひ聴いてみてください。

▲それこそバイキングでみっともない真似など絶対しないであろう、優雅でちょっと(いやかなり)わがままなおばあさまと、その孫である著者による一風変わった旅行記。一人の若い女性の成長譚としてとても面白い。ナレーションも良くて楽しく聴ける。

▲ある幸せな女性が、旅行中のトラブルで家族と離れた場所に足止めをくらう。そこで彼女は否応なしに自分の人生を振り返ることになるが、その追憶にはひとつの大きな真実が隠されていて……。ひたすら人の内面を掘り下げ、その奥にある秘密に迫った、アガサ・クリスティの残した大名作。田島令子さん(オスカル様!)による朗読があまりに美しく品があり、聴いている間ずっと幸せだった。

▲これも多分Audibleを聴く人にとっては定番だと思われる。主人公は、富裕層だけを相手にする百貨店外商部に所属する叩き上げのアラフォー女性。彼女自身は富裕層ではなくいたって庶民的な感性を持っているため、彼女の目を通して見る富裕層の世界に心おきなくわくわく・はらはらできる。声優は女性・男性がそれぞれ一名ずつ入っていて演じ分けされているためほぼボイスドラマのよう。聴き終えると仕事を頑張りたくなる。

いいなと思ったら応援しよう!

小池未樹
読んでくださりありがとうございました。「これからも頑張れよ。そして何か書けよ」と思っていただけましたら嬉しいです。応援として頂いたサポートは、一円も無駄にせず使わせていただきます。