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ユーザーのためのユーザーインターフェースを作ってますか?

本記事は前回の上記記事の続きです。ユーザーインターフェースが不適切である場合にどういったデメリットがあるかを述べましたので、どうすれば良いユーザインターフェースを作り提供できるかについて、今後何回かに分けて私の考えを書いていこうと思います。

手段について説明する前にまずは、良いユーザーインターフェースとは何かを定義しましょう。

「良いユーザーインターフェース」が指し示すところは人によって違いますので、これこそが「良いユーザーインターフェースの定義である」論を押し付けるつもりはありませんが、少なくともこれぐらいの要素を頭の片隅に置いておくのも悪くない、ぐらいに思っていただければ幸いです。

誰にとって「良い」のか?

https://grasshopperherder.com/business-model-canvas-iteration-and-marshmallows/ から引用 )

そもそも、良いユーザーインターフェースという言葉を使うとき、誰にとって「良い」のかを考えなければなりません。ユーザーインターフェースというくらいなんだからユーザーに取って良いユーザーインターフェースであるべきという考え方もあるでしょうが、ユーザー以外にとって良いユーザーインターフェースは存在しないのでしょうか?

例えば前回の記事ですと、操作ミス防止や満足度はユーザ側にとっての話で、サポートコストや機会損失はビジネス側にとっての話です。つまり、ビジネス側に取って良いユーザーインターフェースというのも存在するのでしょう。

ユーザーにとって良いユーザーインターフェース

ユーザーとは製品やサービスを利用する人たちです。そのユーザに取って良いユーザーインターフェースとは、ユーザの行動を支え、ニーズを満たし、ユーザを満足させ、ユーザーの生活を豊かにするユーザインターフェースが良いユーザーインターフェースであることに異論は少ないでしょう。

ところで私たちは「ユーザー」という言葉を使うとき、状況に応じていくつかの種類に分類して考えることがあります。

http://www.whatitisisbeautiful.com/1981-lego-ad/ から引用)

例えば、私が留学していたCIIDはデンマークを代表するおもちゃメーカーの過去にLEGO社のプロジェクトに関与していたり、LEGOの中の人がカジュアルに遊びに来たりとLEGO社との関わりが強く、様々な話を聞く機会がありましたが、その中で何度か話に出たのがユーザーとカスタマーは違うという事です。

ユーザーというのは製品を使う人。カスタマーは製品を購入する人です。ユーザーに製品を与える人と考えても良いかもしれません。つまりLEGOの場合、製品で実際に遊ぶユーザーは(多くの場合)子供だけれど、購入を判断するカスタマーは大人(つまり親や親戚など)だったりするわけです。ユーザーにとって使い勝手が良い事はもちろんであるけれども、カスタマーにとっての使い勝手も製品を購入してもらうためには必ず考えなければならないポイントとなります。

親の立場からすれば、特定の製品を子供に与えて「子供に良い影響がある」と思わなければ購買行動には繋がらないでしょうし、家庭、つまり彼らの生活の中でその製品の使い勝手も考慮するでしょう。例えば、自分の家のリビングや子供部屋に、それらの製品で遊ぶスペースがあるか?または片付けるスペースがあるだろうか?他の用途でスペースが必要に無ったときに、おもちゃを簡単に片付けられるだろうか。そもそもこの玩具で子供が怪我したりする恐れはどの程度あるのだろうか、万が一何かあったときのサポート体制はどうなっているのだろうか等。カスタマーの立場で考えることもたくさんあるはずです。

他の事例ですと、ゲーム機ビジネスなどが面白いかもしれません。複数のユーザー属性が存在する場合です。ゲーム機ビジネスの場合、実際にゲームを購入して遊ぶ消費者と、ゲームソフトを開発するデベロッパーが存在します。

ソニーや任天堂、Microsoftは魅力的なゲーム機を開発するため多大なリソースを費やしているわけですが、ゲーム機の魅力はハードウェアだけで決まるわけではなく、そのゲーム機で遊べるゲームソフトの種類も魅力に大きく寄与しています。しかしながら多種多様なゲームソフトをハードウェア開発企業のみで開発し提供することは難しいため、ゲームソフトを開発するための開発環境やSDKを外部の開発者に提供してゲームソフトを開発してもらい自分たちのハードウェアの上で動くように提供してもらう仕組みができあがっています。

つまりゲーム機メーカーから見ると、自分たちが提供する開発環境やSDKをデベロッパーに使ってもらうわけですから、デベロッパーはユーザーの一種であると捉えることもできるわけです。もちろん、一般消費者から見れば、デベロッパーをサービスや製品の提供者側であるとみなすこともできるでしょう。

このように製品やサービスによってはユーザーという言葉が、複数の意味を持つ場合、つまり分類して考えても良いがあり「ユーザーにとって良いユーザーインターフェースを作ろう」とした場合に、そもそもそのユーザーとは誰のことを刺すのだろうか?と具体的に考える必要もありそうです。

製品、サービス提供者側にとって良いユーザーインターフェース

ユーザー以外、つまりサービスや製品提供者側にとって「良いユーザーインターフェース」という視点も当然あります。しかしながらサービスや製品提供者側も決して一枚岩ではありません。

https://en.wikipedia.org/wiki/Silo から引用)

例えば、ビジネスチームとカスタマーサポートチーム、セールスチームでは良いユーザーインターフェースの定義が異なる場合があるでしょう。

ビジネスチームはおそらくこう言います。良いユーザーインターフェースとは売上、利益に寄与するユーザーインターフェースだ、と。売上につながらないギミックはデザイナーのエゴだ。必要ない!などと。

一方で、カスタマーサポートチームは、ユーザーがトラブルになりにくく、万が一サポートに連絡を寄越した際には迅速に解決できるユーザーインターフェースこそが良いユーザーインターフェースであると言うかもしれません。

かと思えばセールスチームはこんなことを言うでしょう。売りやすいユーザーインターフェースこそが良いユーザーインターフェースだ。ユーザーに説明した時に簡単に使えそうで、魅力的に見えてもらわないと困る!と。

他にも、あるチームはデイリーもしくはマンスリーのアクティブユーザー数の推移を重視しているけれど、あるチームは新規サインアップのユーザー数を重視していて、開発側に要望を出すにしてもフォーカスしたいポイントが違う等はどこかで聞いたような話でもあります。

また、大きなサービスになると、サイトの部門ごとにもちろん、ビジネスに関わる全ての部署を満足させるユーザーインターフェースを目指すべきではあるのですが同じ会社であったとしても担当職務や役割が違えば良いユーザーインターフェースに対する認識も異なってくるのが実情かと思います。サポートチームが日常の業務の中でどのような課題を抱えており、どのような要望を持っているかまで、他のチームが詳細に把握できればもちろん理想ではありますが、大きな会社ですとなかなか難しいでしょう。

また、これらはちょっと特殊な例かもしれませんが、テクノロジー側にとって良いユーザーインターフェースという概念も考えても良いかもしれません。

代表的なものはPalm社のグラフィティでしょうか。

当時のコンピューティング能力は現在のそれに比べて大変貧弱なものでしたが、その性能であっても高い手書き文字入力精度を実現するために、グラフィティという特殊な文字を開発し、ユーザに提供しました。ユーザーはpalm pilot専用の文字の書き方を覚える必要がありましたが、入力のしやすさや精度が高かったこともあり、当時はそこそこ受け入れらたのでしょう。

似たものとしてはタイプライターの文字配列もありますね。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%BC から引用 )

当時のタイプライターは、ボタンを押すとアームが動いて紙に印字していたため、アーム同士がぶつかり合わないよう、あえて入力しにくいキー配列にしたという逸話が残っています。これも、テクノロジーにとって(つまりは製品提供者側にとって)良いユーザーインターフェースと言っても良いかもしれません。

「良いユーザーインターフェース」のバランシング

多くの場合、というよりも本来はユーザにとって良い事が提供側にとっても良いのが理想でこの2つは同一であるべき、もしくはある程度相関があるべきで、ここが一致しているビジネスって本当に強いはずです。しかしながら実際のビジネスを考えると、このバランスを取らなければ行けないシーンというのが多く見受けられます。例えば下記のようなケースがあるでしょう。

ビジネスモデル的な制約

クレジットカード会社は多くの利益を上げるために、可能であればユーザに取ってリボ払いや分割払いを使って欲しいと考えています。リボ払いや分割払いの場合、ユーザーはクレジットカード会社に対して利息を支払う必要があるため、利益的にプラスなわけですね。

そのため、クレジットカード会社は、あの手この手でユーザにリボルディング払いをさせようとしてくるわけです。もちろん、リボルディング払いを理解した上で活用しているユーザーも居るとは思うのですが、多くのユーザーからすればあまりありがたくない支払い方法であるとして認識されているのが実情ではないかと思います。

こういった提供者側の利益と、ユーザ側の利益が相反する場合、どのようなユーザインタフェースを提供するのが正しいのでしょうか。

リソース的な制約

ソフトウェアサービスの場合はあまり見受けられませんが、リアル店舗やリアルなハードウェアを用いたビジネスの場合、いかにして顧客の回転率を上げるか、少ない人員で多くの顧客に対応するかが課題になります。

例えば、飲食店などの場合、お客さんに最大限に楽しませるためには、居心地の良い空間を提供するのが良いのはわかっているのだけれど、そうするとお客さんの滞在時間が伸びてしまい、売上が下がってしまうと言った事情は多く存在します。いきなりステーキや立ち食い蕎麦などは、あえて長時間滞在しにくい環境を提供することによって顧客回転率を上げているわかりやすい例でしょうか。

また、行列ができがちな銀行のATMやスーパーのレジ、あるいはディズニーランドなどの遊園地なども、どうすれば多少ユーザーに負担を強いてでも短時間に多くのユーザーを少人数のスタッフでさばくかといった工夫がされています。そういった視点で見ていると新たな発見があるかもしれません。

コスト(費用、スケジュール)的な制約

ここをこうすれば、ユーザに取って使いやすくなるのはわかっているのだけれど、開発工数やハードウェア原価、または発売日のスケジュールなど、様々な都合で難しいという場合は想像に難くないでしょう。これはあえて説明するまでもないですね。

その他の制約

制約は他にも様々なものが存在します。例えば、組織文化やプロセス、法制度等も制約の種類としてあげられるでしょう。社内の承認制度に問題があり、特定のユーザーインターフェースの採用が難しい場合や、文化的な背景があってユーザーインターフェースの刷新ができない場合も珍しくはないでしょう。

制約はどのような場合も存在します。しかしながら制約があるからと言って妥協するのではなく、ときには制約と戦い、その制約の中で一番良いものをユーザに提供できるように務めなければなりません。

おわりに

以上、駆け足ではあるものの「誰にとって良いユーザインタフェースなのか?」について書いてみました。

開発の現場において「こうしたほうが良いユーザーインタフェースだよ!」のようなフレーズが飛び出すことは珍しくないでしょうが、そもそもそれが誰にとって良いユーザインタフェースであるのか、提供者側の都合ばかりでユーザーの事を見落としていないか、またはその逆はないか等振り返って見ると新たな発見があるかもしれません。

高いコンバージョン率を実現できるユーザインターフェースはビジネス側にとっては良いユーザーインターフェースでしょうが、それは本当にユーザーにとっても良いユーザーインターフェースなのでしょうか?あなたが決めたそのKPIは、ユーザーに取っても価値のあるものですか?会社の都合をユーザーに押し付けてませんか?

次は、「タスク」について、つまりユーザーがどのような環境でどのような行動をする時に「良いユーザーインターフェース」と言えるのか?の視点からユーザインタフェースの良し悪しについて書いていきたいと思います。

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