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かたちあるものにはすべて意図がある

先日、私の関わったプロダクトであるポケットチェンジがGOOD DESIGN賞を受賞し、六本木ミッドタウンで展示させていただく機会がありました。

多くの友人が忙しい中で展示を見に来てくださったのですが、とある友人から「グッドデザインって何がグッドなの?」という、ある意味で核心をついた質問をいただきました。

グッドデザインとは美しさ、つまりスタイリングのことであるという認識が一般的であることは否定し難い事実でしょう。しかし実際には、様々な評価軸からデザインがグッドであるということが評価されるのです。

デザインの良し悪しというのは難しいもので、これが正解、あるいはこれが不正解だと明らかに言える状況というのはそれほど多くありません。程度の差はあれど、特定のシーン、特定のユーザー、特定のゴール、あるいは限られたリソースなど、何らかの制約の中においては正解であることが多いのです。

それは「美しさ」を追い求めるものもあるでしょうし「高齢者(あるいは子供や外国人旅行者)にとって理解しやすい」「地球にやさしい」というものもあるかもしれません。あるいは「儲かる」「安く作れる」といったビジネス的な事情もあるかもしれません。

だからこそ課題設定がいかに面白いか、いかに独創的な制約を設定するか、そしてどのようなプロセスで眼の前のアウトプットが出てきたのかを知ることはデザイン、もっと言えばかたちあるものを評価するために必要であり、そこがデザインの面白さでもあるのでしょう。


少し前になりますが、Twitterを眺めていたら下記のような記事が目に入りました。すでに記事を読まれた方も多くいらっしゃるかと思いますが、簡単に説明すると、千葉大学では既存の路線図をデザインしなおことによってコミュニケーションデザインを学ぶ授業があるとのこと。路線図という、我々の身近にあるにも関わらず、定形のものが存在しないものを対象に、対象物を解釈したうえで、デザインし直すというこの授業は大変面白いなと感じます。

この授業、テーマ設定としても絶妙なところを突いている気がするのです。例えばこれが、カレンダーみたいなものをテーマに選んでしまうと、一気に難易度が上がります。なぜならカレンダーって工夫できる余地がそこまで多くないにも関わらず、多くのデザイナーがデザインを手がけているために、ちょっとやそっと工夫したぐらいでは独自性が出せない。

一方で、例えば映画のポスターを再構築させてはどうかとなると、今度は逆に自由度が高くなりすぎてしまうでしょう。世の中に映画は星の数ほどあり、ポスターのデザインに関しても映画の魅力を訴求するという目的はあれど制約らしい制約がそこまで多くない。

そんな中で、路線図というテーマはデザインにおける制約と自由度のバランスがちょうどよく、授業で取り上げるには大変良い題材であると言えるでしょう。


授業の中ではいくつかの路線図が取り上げられています。例えば秩父鉄道や、東急電鉄、名古屋地下鉄や京都市交通局など日本の様々な路線図を題材にデザインしなおしたものが紹介されており、非常に興味深い。

ただし、この記事では、デザインが見た目だけの話であるように書かれてしまっているのがちょっと惜しいなと感じたのも事実であります。

例えばこんな感じ。

さっきの秩父鉄道もスタイリッシュなだけじゃなくて、斜線の角度が45度で揃っていたり、秩父鉄道を実際の地形に沿って曲げたりしている。

コミュニケーションデザインとは人と人、あるいは人とプロダクトとのコミュニケーションをデザインする分野です。何を、誰に、どう伝えるか、そのアウトプットはビジュアルであったり様々なかたちを取る事がありますが、何らかの課題設定が存在します。

対象物に対して何らかの工夫を施すによって、ユーザーにとってどういう価値があるのか。あるいは以前の地図のどこがイマイチで改善しようと思ったのか。おそらく、学生さんたちはそれらの点を踏まえて彼らなりの工夫を行ったし、プレゼンの中でもそれらの点について説明したものだと思いますが、その点についてもっと知りたかったな、と思います。

もちろん、出てきたアウトプットからある程度推測できる場合もあるでしょう。これはおそらくこういった意図で作られたものなのであろう、とか。あるいは逆に、これはこういった目的にはマッチするだろうから良いデザインだろう、など。とはいえ、外から推測できる領域には限りがありますので、デザイナーはデザイナー自身で、自分たちのプロダクトについてもっと語れば良いのに、などと思ったりするわけです。



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