デザインはデザイナーだけに任せるには重要すぎる
Raymond Loewyというデザイナーさんの残した言葉のひとつに「Design is too important to be left to designers」というものがあります。これは日本語にすると「デザインはデザイナーだけに任せるには重要すぎる」とかそういった意味であり、しばしば様々なシーンで引用されています。
これまでデザインというとスタイリング、つまり「見た目をきれいにすること」として捉えられることが多くありましたが、近年ではスタイリングだけに留まらず、社会やビジネス的な問題を解決することであったり、あるいは新たな価値を生み出すことを「デザイン」と呼ぶ事が当たり前になりつつあります。
ファシリテーターとしてのデザイナー
デザインの定義が変化していく中で、デザイナーの役割が変化していく事も、ある意味で当然のことでしょう。これまでデザイナーと言えば、ビジュアルデザインとしての仕事、つまりPhotoshopやIllustratorといったAdobe製のツールを使って名刺やポスター、あるいは企業のWebサイトを制作したり、あるいはプロダクトデザインとしての仕事として、開発チームが開発した家電などの見た目を3D CADなどのソフトウェアを使ってかっこよくするような仕事が中心でした。
現在においてもスタイリングはもちろんデザイナーの重要な仕事のひとつであることは間違いありませんが、デザイナーのメインの仕事は問題解決や価値創出であり、ビジュアルを通じたコミュニケーションは、問題解決や価値創出を実現するための手段のひとつでしかありません。手段としてとり得るものがPHPやJavaScriptなどのコードである場合もあるでしょうし、マーケティング施策や他社との提携等の場合もありますし、社内の組織文化に対する施策が適切なシチュエーションもあるかもしれません。
言い換えるならば、解決すべき課題や新たに創出する価値を定義して、それを実現するために適切な手段を自社の状況やマーケットの状況を踏まえて選択し、実行に移すことがデザイナーに求められることです。しかしながらこれをデザイナーだけで完結させることがどれだけ困難であるかなんて、私が説明するまでもないでしょう。組織の内外で起こっているすべてのことや、人々が何を考え、感じ、行動しているかについて熟知し、問題を解決する様々な手段(エンジニアリングやビジネスやクリエイティブなど)を使いこなし、最後まで独力でやりきることの出来るスーパーマンなんて、漫画やアニメの世界にしか存在しません。
みんなで考え、カイゼンする。
そこで、解くべき問題を定義する。解決方法を考える。実行に移す。それぞれのステップにおいて社内外の専門家の力を借りて適切に対処していくことが必要となります。デザイナーがデザイナーだけで問題を抱え込むのではなく、みんなで考え、カイゼンすることが必要なわけです。
これはプロダクト開発においても同様で、いかに社内外を巻き込みプロダクト開発を加速させるか、つまりデザイナーにはファシリテーター的な役割が求められます。今後これがますます重要になってくるであろうことは想像に難くありませんが、そのような流れの中で先日、「UIデザイン みんなで考え、カイゼンする。」が先日発売となりました。たまたま機会があって著者の方より献本頂きましたので、ここでご紹介させていただきたいと思っています。
まずは、目次を見てみましょう。
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■CHAPTER 1 Webサービスの“カイゼン”と運用
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01 誰のための「デザイン」?
02 デザインでは改善できないこと
03 施策を考える前にユーザーを考える
04 取り組むべき課題の見つけ方
05 改善プロセスの考え方を見直す
06 サービスを成長させるために必要な体制
07 「デザイン」をデザイナーだけのものにしない
08 デザインプロセスを「目で見える」ものにする
09 よりファストなUIデザインフロー
10 デザインも「運用」する
11 情報共有のためのツールとルールを導入する
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■CHAPTER 2 UIデザイナーは何をどうデザインする?
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01 Webサービスを「デザインする」とは?
02 サービスを開発するデザイナーの仕事とスキル
03 UIデザインって何をするの?
04 情報を整理してUI要素に翻訳する
05 プロトタイプを作ってコミュニケーションを活発にしよう
06 スタイルガイドでデザインの品質と制作環境を整える
07 UIデザイナーの組織内でのコミュニケーションと役割
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■CHAPTER 3 「ビジネス視点」でサービスを成長させる
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01 定量データ/定性データは何を示すのか?
02 データにもとづくデザイン改善
03 自社のビジネスを理解する
04 アイデアとロジックを両立させる
05 プロトタイピングが意識と理解を変える
06 プロトタイプの種類
07 チームの意識を統一する
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■CHAPTER 4 「ユーザーリサーチ」でサービスを改善する
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01 ユーザーリサーチをはじめてみよう
02 ユーザーリサーチをプロジェクトで実践するには
03 ユーザーが見ている世界をつかむ「ユーザーインタビュー」
04 ユーザーインタビューを計画する
05 ユーザーインタビューの当日準備
06 ユーザーインタビューの質問手法
07 ユーザーインタビューの記録方法
08 チームでインタビュー結果を振り返る
09 「使いやすさ」を評価するユーザーテスト(ユーザビリティテスト)
10 ユーザーテストを準備するには
11 ユーザーテストを実査する
12 ユーザーテストの結果を分析する
13 街にいる人々を対象にするゲリラインタビュー
14 ユーザーを取り巻く環境を理解するシャドーイング
15 ユーザーとリアルに接するミートアップイベント
16 エキスパートレビューを実施するメリット
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■CHAPTER 5 「デザインシステム」を作り育てよう
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01 デザインシステムとは何なのか
02 デザインシステムはコミュニケーションの共通言語
03 デザインシステムが解決するもの
04 インターフェース体系化の事例を見る
05 デザインシステム構築の「きっかけ」を作ろう
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■CHAPTER 6 デザインワークをチームで協業する
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01 デザインワークを協業するのは何のため?
02 UXデザインに触れてみよう
03 戦術的プロトタイピングの実践方法
04 体験的プロトタイピングの実践方法
05 ユーザーテストを設計してみる
目次だけ見ると盛りだくさんですが、それぞれのチャプターごとに見開き2ページで説明されている事がほとんどなので、そこまでのボリュームはありません。知っている人からすると、少し物足りなさを感じるぐらいかも知れませんが、ビジネスサイドやエンジニアリングサイドをデザインに巻き込む際に、この本を見せて説明するようなケースを考えると、ある意味で適切な分量なのかもしれません。
1年以上前になりますが、私は以前、下記のようなnoteを書きました。
上記noteの中でも少し触れていますが、デザイナー、あるいはノンデザイナーに限らず、新しいサービスを企画する上で「どうやったら良いUI/UXを実現することが出来るのか」は非常に重要なポイントであるにもかかわらず、これについてきちんと説明された書籍って実はあまり存在していませんでした。
プロダクト開発において、企画者とデザイナー、あるいはエンジニアが分断された状態というのは何もメリットがありません。これらステークホルダー間で適切なコミュニケーションを取り、適切な方向にプロジェクトを進める事こそが正しいプロダクトを早く作るために必要な事であり、この本がその一助になればと思います。
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