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【エッセイ】こびと

 たぶんうちには、コビトがいる。

 靴下片方とスプーンが、よくなくなる。家の誰に訊いても「自分は持っていっていない」と言う。泥棒がそんなものだけを持って行くわけがないから、たぶんコビトなんだと思う。
 靴下とスプーンで、一体なにを作っているんだろうと想像する。スプーンを柱にテントでも張っているんだろうか。はたまた、帆でも作って出航の準備でもしているんだろうか。
 しかし、我が家はマンションで適当な床下はないし、出航するには海も川も少し遠い。川はないことはないが、コビトの足では相当な距離を歩かなくてはいけないだろう。
 現代社会、森も林も少なくなって、コビトも住みづらくなっただろうな。

 靴下のほうは、ときどき干してある洗濯物の袖から出てくるときがある。出航は諦めて、返してくれているのかもしれない。

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