「スマートグラスで『働く』のウェルビーイングは高まるのか?」最終報告書
2023年6月から12月まで、ランサーズ新しい働き方LABの研究員制度「スマートグラスで『働く』のウェルビーイングは高まるのか?」に参加し、Lenovo Glasses T1と書の可能性を探究しました。この投稿は、濵一蝶とMikiの共同執筆による、実験の最終報告書です。
私たちについて
書家/刻字家で、大学で研究員を務める濵一蝶と、書道が好きな会社員Mikiによるユニット。共通の知人を介して、虎ノ門で一緒に書道をしたことをきっかけに親交を深める。今回の実験では、お互いの書への姿勢を学び合いながら、テクノロジーと書の新たな可能性を探究した。
実験の背景
私たちがどのような問いをもって、今回の実験に臨んだのかを説明します。
スマートグラス(Lenovo Glasses T1)と書でウェルビーイングのために何ができるのか?
今回参加したLenovo社の企画のテーマは「働くのウェルビーイング」。私たちの実験では、一見遠い関係性にあるテクノロジーを書の世界へ引き入れ、スマートグラスを含む、さまざまなテクノロジーと書の掛け合わせに挑戦した。
書の表現の豊かさを感じ取ってもらえているのだろうか?
デジタル化が進み、筆はもとより、手で書くことが少なくなっている現代。筆が描く線や表情を十分に感じ取れていないのではないか。書の豊かさとは何かを話し合いながら、その要素をAR(拡張現実)を使って表現することで、文字の表情を感じ取ってもらえる作品づくりに取り組んだ。
書という内的な活動に外的な要素を加えたら何が起きるのか?
自己と向き合うことで表現を深めていくかのような書は、いうならば内的な活動。デジタル、テクノロジーといった外的な要素を取り入れることで、新たな可能性が見つかるかもしれない。文化的にもお作法的にもあまねく開かれているとはいえない世界で、それぞれが大切にしたいことを守りながら、まだ誰も挑戦していないと思われる取り組みを目指した。
半年間に挑戦したこと
実験の方向性を二人で探る
試作を繰り返す(ソフト探しからデバイスとの相性、鑑賞の汎用性なども考慮)
体験してもらい、表現をアップデート
体験・展示の場を実現
各プロセスの詳細は随時noteにて発表してきたのでご覧ください。(2万字以上!)
実験による変化
受動的な作品鑑賞から能動的な作品鑑賞へ
書とARを組み合わせることで、鑑賞者が自ら作品に合わせた背景を選べるようになった。例えば、「馬」という書を、新幹線などでの移動中に、変化する景色とともに楽しんだり、通常ではあり得ない、街中の交差点に「馬」を出現させたり、ARを使うことで、自分が好きな場所(背景)で作品を鑑賞することを可能にした。興味深かったのは、鑑賞者が書に合わせて、この背景には「合う」、「合わない」、「ここで見てみたい」などの能動的な思いを口にし、実際に鑑賞に反映していたこと。作り手として、書から何かを感じ取ってもらえていることを実感できた。
スマートグラス(Lenovo Glasses T1)が鑑賞への没入感を増幅する
私たちの実験におけるLenovo Glasses T1の最大の意味は、見ることに集中できること。グラスをかけるというそれだけの行為で、周囲の環境から切り離され、作品の世界に集中することができる。グラスをかけていても見える口元の微笑みが印象的だった。
また、スマートフォンでの鑑賞時とは異なり、グラスをかけた時には、自然と動いて鑑賞する傾向が見られた。グラスをかけることが、単に鑑賞する道具を操るということではなく、身体の拡張として認識され、自らの感覚を用いて(動いて)鑑賞するという行動につながったのではないかと思う。
数字で見る変化
AR制作の技術ゼロからスタートした私たち。6月から12月までの半年間で、スキルの獲得から作品展示、そして非常にわずかながらも収益化までを実現することができました。
半年間の実験を終えて(感想)
わかりやすくまとめたプロセスや結果以上に、苦悩と鍛錬の時を過ごしました。今回は試作として制作にあたりましたが、プログラミングなどの知識も経験もない私が、htmlを書きARでの表現を実現するというのは、文字通りゼロからの構築で、地味で地道な作業の積み重ねでした。刺々しい瞬間に陥りながらも、つくることや表現を探究する楽しさを忘れずにいられたのは、濵一蝶さんと、私たちがつくるものを楽しんでくださった多くの方のおかげです。大好きな書の世界が続くように、クリエイティビティが純度高く存在できるように、今後も可能性を探究していきたいと思います。(Miki)
感覚的に伝わる書をつくりたくて新しい表現(AR)に挑戦した今回の実験。書道の作品を見る人たちが声を上げて笑ったり、体を動かして楽しんでくれるなんて経験はいままでになく、鑑賞の没入度を上げてくれるスマートグラスのおかげもあって、書字に含まれた何かを感じ取ってくれたのではないかと思います。Mikiさんと迷いながら、ぶつかりながら制作した作品たちを通して、書の魅力を再発見することもできました。テクノロジーを活用した書道は、書の表現と観者の表情を豊かにするだけでなく、伝え合うことの楽しさや嬉しさを拡張でき、私のウェルビーイングを高めてくれるものとなりました。(濵一蝶)
半年間、とにかく二人で会話をして、制作をし続けました。ここには書ききれないことも多くあり、二人で挑戦したからこその学びや出会い、経験を重ねることができたと思います。私たちの書の探求はこれからも続きます!ありがとうございました。
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