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Margo-物語と糸- #34 |『ムーミン』を染める 2

少し時間が空いてしまいましたが、Margoの糸紹介コラムを続けます。
今回糸染めのテーマとなる物語はムーミン。2つめのカラーは「スノークのおじょうさん」です。

「びっくりしなくてもいいよ。ぼくがまもってあげるから。さあいいものをあげますよ」
こういってムーミントロールは、金の足輪をさしだしたのでした。
「まあ」
スノークのおじょうさんはあんまりよろこんだので、からだがすっかり黄色くなりました。
(『ムーミン谷の彗星』下村隆一 訳/講談社文庫より)

 「スノークのおじょうさん……って誰?」と思ったことはありませんか? わたしはあります。
昭和アニメでは「ノンノン」平成アニメでは「フローレン」だったムーミンのガールフレンドは、原作では「スノークのおじょうさん」と呼ばれています。
 一見ムーミンと同種族に見えますが、実は気分で身体の色が変化するスノークという種族で、恐怖を感じると紫、嬉しいときは黄色になります。自慢の前髪も足輪も金色のスノークのおじょうさんのイメージは、優しい黄色になりました。

いろんな顔を見せるムーミンのガールフレンド
 スノークのおじょうさんは、『ムーミン谷の彗星』でムーミンの運命的なヒロインとして初登場します。崖に残された金の足輪を偶然見つけたムーミンは、まだ会ったことのないスノークのおじょうさんに憧れを持つのです。そして、おそろしいアンゴラツーラの一種がスノークのおじょうさんを襲っているところに出くわし、勇敢にも戦いを挑んで救い出します。なんともドラマティックな出会いではありませんか。その後の『たのしいムーミン一家』『ムーミン谷の夏まつり』では、仲睦まじい二人の場面がたくさん出てきます。
 一方コミックスの1巻を読むと、スノークのおじょうさんはすっかり若奥さんのよう。金色の尻尾が生えて時の人となったムーミンのパートナーとして社交界デビューするため、自慢の前髪にパーマをあてて失敗したりしています。ムーミンの漫画はイギリスの新聞に連載されたもので風刺が効いており、余計大人っぽいのかもしれません。小説やコミック、アニメによって少しずつテイストが違っていて、それぞれがちゃんと面白いのもすごいなと思います。

女の子らしい女の子
 9巻ある小説にはお気に入りの場面がたくさんあるのですが、そのひとつにスノークのおじょうさんが出てくるところがあります。『ムーミン谷の夏祭り』のなかで、夏祭りの夜にスノークのおじょうさんがフィリフヨンカと花を摘むシーンです。
 ムーミンの世界では「夏まつりの夜に9種類の花を摘み取って枕の下へ敷いて眠ると、見た夢はみんな叶えられる」という言い伝えがあるのだそう。花を摘んでいる間もその後も無言でいなければならず、二人は微笑み合いながら黙って花を摘みます。
 また「おまじないを唱え、足踏みをしながらぐるぐると7回周り、後ろ向きに井戸に歩いていって覗き込むと、結婚する相手の顔が水に映る」というおまじないもあり、二人はドキドキしながらそれもやってみるのでした。

 このとき井戸に誰が映るのかは読んでのお楽しみですが、こういうおまじない、女の子は大好きですよね。わたしもこれを読んでいて、もう記憶の彼方に遠ざかってしまった「女の子の自分」を思い出したのはいうまでもありません。放課後の教室でみんなで「こっくりさん」をして、未来の結婚相手の苗字を教えてもらいましたっけ。
 ちびのミイやミムラ姉さん、おしゃまさんなど魅力的で個性的な女の子がたくさん登場しすぎるせいで、ついつい凡庸な感じがしてしまいますが、それはきっとスノークのおじょうさんが誰もが持っている女の子の女の子らしい面を象徴しているキャラクターだからなのでしょう。

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