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Margo-物語と糸- #28 |『秘密の花園』を染める 4


物語の色をうつすMargoの手染め毛糸。

今回はバーネットの『秘密の花園』がテーマです。
4つめに紹介すのは「メアリ」。主人公をイメージして染めた糸です。


ベイジルはメアリのまわりをぐるぐる踊り回り、おかしな顔をして歌い、はやしたて、笑いました。

つむじ曲がりのメアリさん
あんたのお庭にゃ何が咲く?
銀鈴花に貝殻草、
並んで咲いたは金盞花
(『秘密の花園』より)

 物語が始まってしばらく、主人公のメアリはことあるごとに「みっともない」「かわいくない」「気むずかしい」と描写されていて、可哀想になるほどです。ここまで可愛くないと書かれてしまう主人公も珍しいのではないでしょうか。両親を亡くしてすぐ世話になった牧師の家の子どもたちからは、「つむじ曲がりのメアリさん」と、囃し立てられてしまいます。

 しかしそんなメアリも、お屋敷に来てマーサやコマドリ、そしてディッコンに出会い、本来持っていた子どもらしさや愛らしさを取り戻していきます。庭とともに成長する主人公のイメージを、この歌に出てくる花々をエッセンスにして染めました。

つむじ曲がりのメアリさん
メアリが子供たちに囃したてられるのは、イギリスで古くからあるマザーグースの歌のひとつなのだそうです。バーネットもこの歌を意識しており、もともと物語のタイトルも歌いだしの「Mistress Mary」だったのだそう。だからこそ主人公のメアリは、つむじ曲がりの性格で登場します。

この歌は物語のなかで2回出てきます。1度目はメアリが両親を亡くしてすぐの本当につむじ曲がりのメアリさんだったとき。
2度目は屋敷に来て秘密の庭を見つけたあと、ディッコンと仲良く球根を植えているときです。

この歌で囃したてられたことを話すメアリに
「こんなに花がたくさんあってさ、けものや鳥たちがかけ回ったり、巣を作ったりしてさ、歌ったりさえずったりしてりゃ、だれもつむじ曲がりなんかになろうったってなれやしないだろ。」
とディッコンはいうのでした。

ディッコンのいうとおり、メアリはもうつむじ曲がりなどではありませんでした。何しろインド時代は誰とも心を通わすことができなかったのに、このお屋敷に来てから5人も好きになったひとがいるのです。マーサとマーサの母、ディッコンと庭師のベン、そしてコマドリです。
またディッコンもメアリが好きだといい「コマドリだってそうだ」と教えてあげます。そしてメアリは「わたしのこと好きな人がふたりもいるんだわ」と思います。

お屋敷にきたメアリがだんだん人を好きになっていく様子がとても良いのですが、自分を好きな人がいることを確認するこの場面は感無量です。何しろインドでのメアリは、誰にも好かれない子どもでした。コレラで家中の人が死んだり逃げ出したときにたった一人家に残されてしまうほど寂しい境遇でした。

そんなメアリが、庭を見事に甦らせ、自分だけでなくいとこのコリンまでもを甦らせるのです。『秘密の花園』には素敵な場面や設定がたくさんありますが、自分で考え行動するメアリの性格が何より好きです。メアリは自分で秘密の庭やコリンを見つけ出すし、自分の考えで秘密の花園を甦らせていきます。そして自分自身もどんどん健康になって、ついにはメイド頭のメドロックさんをして「太ってひねくれたところが消えたら、そりゃあかわいくなりましたわ」とさえ言わしめるのです。

そもそもメアリのお母さんは社交界の華だった美しい人です。後半出会ったディッコンの母もメアリに「「お嬢さんも大きくなったら、バラの花みたいにきれいになりなさるでしょうよ」といい、メアリが将来美しく成長するだろうことが示唆されています。
秘密の庭は10年放置され、荒れていました。メアリもまた、10歳になるまで大人から構われずにいたのですから、秘密の庭と同じ状態だったわけです。庭の再生はそのままメアリ自身の再生であり、甦った庭の美しさは、メアリ本来の美しさも象徴しているのでしょう。

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