見出し画像

Margo-物語と糸- #29 |『秘密の花園』を染める 5

物語の色をうつすMargoの手染め毛糸。

今回はバーネットの『秘密の花園』をテーマにしています。5つめに紹介する糸は「ディッコン」。この物語のなかでも、一番魅力的なキャラクターです。

みなりはこざっぱりしていますが、鼻はししっ鼻で、ほおはケシの鼻のように赤く、目といったらメリーがこれまでに見たことのないほど、まん丸で青いのでした。男の子のよりかかっている木には一匹のリスがいて、男の子を眺めていました。そして近くのやぶからはキジがやさしく首をのばしてのぞきこんでいました。そして男の子のすぐそばには、ウサギが二匹、うしろ足で立って大きな鼻をひくひくさせています。
(『秘密の花園』より)

 ポニー、狐、カラス、羊、キジ、ウサギ、リス……さまざまな動物と心を通わすことができるディッコンがメアリの元に来てくれると、いよいよ庭の再生が始まります。ディッコンはこの物語の良心であり、主人公のメアリや動物たちはもちろんのこと私たち読者の心もつかんで離しません。自然の神様が特別につくった天使のようなディッコンのイメージを、毛糸にうつしました。

画像1


天使か、はたまたムーアの妖精か
今回の毛糸を染めるために『秘密の花園』を読み返してみて、わたしと相棒の岡部が夢中になったのはディッコンでした。とてもいい子だし、読むたびに違う野生動物を連れていて、みんなにめちゃくちゃ懐かれている。素晴らしい登場シーンなど「天使なの? それとも、ムーアの妖精なの?」と思わずにはいられません。

メアリは会う前からマーサに話を聞いてディッコンを好きになっていたし、お屋敷の大人たちも皆口を揃えてディッコンを褒めています。読者のわれわれがファンになっても当然ではないでしょうか。そして今回発売した毛糸(秋の庭を除く9色)のうち一番人気が「ディッコン」と「春・奇跡」だったというのも、なんだか納得がいくのでした。


「花や木、動物や虫を好きになり親しくなれたなら、人は孤独にはならないのではないか。彼らと友だちになれるならば、人間とも通じ合うことができるのではないか」。
実はわたしは常々そう考えていて人生のピンチを何度か植物に救ってもらっているのですが、「いい年してファンシーが過ぎる」と言われそうで普段は口に出さないようにしています。
ところがこのあいだ見たYouTubeで、社会学者の宮台真司先生が似たようなことを言っているではありませんか。わたしの感覚は間違っていなかったのかも……! と嬉しくなってしまいました。

そして実は……「きっとバーネットも同じ考えでいたのではないか」と思っています。つむじ曲がりで虚ろだったメアリの心を初めて動かしたのが、人間ではなくコマドリだったからです。
「メアリに最初にできる友だちは、人間ではなくコマドリなんだ。そうかあ。バーネット分かってるなあ〜」と、何度も頷きながらメアリがコマドリに惹かれていく様子を嬉しく読みました。
それに、そもそも動物からも人からも愛される我らがディッコンは、まさにその考え方の象徴です。動物や植物に親しむ彼は、たった一人でムーアを何キロ歩いても孤独など感じることはないでしょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?