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Just a cake.

Amazonプライムビデオで配信されているブリティッシュ ベイクオフにハマっている。

イギリス全土から集まった、お菓子づくりに自信のある素人ベイカーたちが、さまざまなお題のお菓子を作り、その腕を競う。全10週あり、2人の審査員が評価をし、毎週1人の落第者と、1人のスターベイカーが決まる。この番組は、優勝しても賞金などはない。最初はすこし不思議だった。なぜ、素人ベイカーを集めるのか、なぜ賞金がないのか。優勝して得られるものは、名誉だけだ。

見ていくうちにその理由が明らかになる。
彼女ら、彼らは、お菓子づくりを職業としていないから、ここで勝っても負けても本職に影響は出ない。ただただ友人や家族や教会にもっていくお菓子をつくり、食べ、またつくり、そして食べてきた人たち。素人だからこそ、びっくりするところで失敗をしたりするし、まさかと思うところでバランスが取れたりする。競い合っているけれど、ベイカー同士は励ましあう。審査員は結構辛辣だ。一緒に顔をしかめる。この大会の優勝者に賞金が出たならば、まったく趣旨の違う番組になるだろう。

もう、どのエピソードでの出来事か、忘れてしまったけれど、ある参加者のケーキが見るも無惨に崩れてしまう。焼き直す時間はない。呆然とするベイカーに司会者のひとりがそばに来て声をかける。

「Just a cake.(ただのケーキよ)」

ベイカーは一言小さな声で「No……」と答える。

司会者だってわかっている。彼女のケーキにかける気持ち。審査員に褒められれば跳び上がるほど嬉しくて、美しく仕上がれば誇らしくて、ゴムのようだと酷評されれば打ちのめされてしまう。

誰にでも、彼女にとっての、ケーキのようなものがあるだろう。それは、ただのケーキであり、同時に、自分の人生を支えうる何かであったりする。

それも、全部わかったうえで、もう一度司会者は彼女の腕や肩をさすりながら「Just a cake.(ただのケーキよ)」と小さな声で言う。わたしも、こんなふうに人に声をかけられるようになりたいと願った。そのケーキの重みはよくわかっているけれど、あなた自身の価値に比べたら、これは、ただのケーキよ、そう言える人に。

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