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飛行機

 飛行機が好きだ。というか、飛行機から見える景色が好きだ。いつもいちいち感動してしまう。庶民でも飛行機に乗れる現代万歳!と叫びたくなる。だから絶対に席は窓際だ。窓の見えない飛行機はただの大きなつまらない乗り物でしかない。

 飛行機から見える世界と、わたしの想像する死後の世界の姿は随分似ている。上空は上に行けば行くほど濃くなる青で、下には先の見えない白いふわふわの物体。毛布のようであり、砂のようであるもの。雲の下に見える海は、人肌の肌理に見える。波のつくる模様は、手の甲の皺とそっくりだ。

 意識がはっきりしてからはじめて乗った飛行機で、雲の上に死者も神様もいないことにひどくがっかりした。しかも、このふわふわの雲は触れられないらしい。ここに死んだ人たちが暮らしていてほしかった。地上とは、同じ方法でなくても。死者も神様もいなくても、やっぱりいつでも雲の上は美しかった。


 沖縄に到着するのは、もう夕方ごろで、陽もほとんど暮れていた。雲の上を見るのと同じくらい、飛行機から沖縄の海を見るのが好きだ。「おかえり」と言われている気がするから。でも今日平な土地にべったりと家々が建っている様子がすこしわたしにはこわかった。夕方の海は暗く青く、いつもとは違うように見える、しかしミステリアスで美しい沖縄の海があった。

 三重の上を飛んだときの、山の美しさを思い返した。わたしはずいぶんと、山の人になったのだなぁとなんだか感慨深くなった。


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