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ブラック・ジャック創作㊙︎話

手塚治虫の制作現場を関係者の証言で綴るノンフィクション。

「今週の『ブラック・ジャック』どうですか?」と聞く手塚先生。
アシスタントの一人が「ちょっとイマイチですね」と答えようなものなら、現在進行中の原稿を集めて破棄し、全く新しいネームに描き直す。それでなくても締め切りギリギリなのに。
思わず壁を殴って穴を開ける編集者。

週刊の『ブラック・ジャック』一本に必ず3つの案を出して編集者に意見を求めるというアイデアの豊富さと完璧主義者。

15分だけ寝かせてください、とコピー機と机の隙間に段ボールを敷いて仮眠をとる漫画の神様。

アメリカで開催されるマンガコンペティションに参加する手塚治虫だが、連載漫画の締め切りが間に合わない。ネットはもちろんファックスもない時代である。
手塚は電話でアシスタントに背景を指示する。
例えば「3ページ3コマ目は『三つ目がとおる』2話前10ページの住宅街をよりクローズアップして全面に」

アメリカまで原稿を取りに来た編集者が先生も大変だなあ、海外までたくさんの資料を持ってきて、と近づいてみるとホテルの机には電話以外何もない。一片のメモさえない。しかも「15ページの手術シーンは(手塚プロダクションにある)真ん中の本棚、一番下の段、右から10冊目の100ページあたり」と指示している。手塚先生は原稿を全て暗記しているのみならず、資料がどこにあるかも全部覚えていた。

帰りの飛行機、食事後の乗客はライトを落とした機内で寝ている。その中で手塚治虫は小さなスポットライトの下、折りたたみの狭いテーブルから原稿をはみ出させ、インク壺を左手に持ち、一心不乱に『ブラック・ジャック』を描いていたという。

手塚治虫は天才であるが、努力の人であり、漫画に対する情熱は尋常ではないのだ。
これを描く漫画家も憧れの手塚治虫を描く栄誉に俗するためだろう、画力の熱量が半端ではない。

手塚治虫ファンなら必読である。

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