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令和のムスリム②

〇信仰


イスラームをあまり知らない私達も「メッカ」「礼拝」「断食」くらいは耳にしたことがあるのではないだろうか。

ムスリムの「イスラームの柱」とよばれるもっとも重要な「五行」を以下に述べる。

 ・信仰告白

   「アッラーのほかに神はない。ムハンマドはアッラーの使徒である」と宣言すること

 ・礼拝

   一日5回、聖地メッカの方向(キブラ)に向かってお祈りをすること。

 ・喜捨

   財産をもつ人が、貧しい人々などのために寄付をすること

 ・断食

   イスラーム暦9月にあたるラマダーン月の日中に、一切の飲食を断つこと

 ・巡礼

   一生に一度は聖地メッカをおとずれ、決められた儀式をおこなうこと(ハッジ)



〇信仰の実際


 「礼拝」は一日5回、季節によって時間は少しずつ違ってくるが、一番早い時間で早朝の3時45分、聖地メッカの方へ向かって決まった手順に従い礼拝する。朝一番の礼拝で、夜明け前の一番澄んだ空気を取り入れる。礼拝の一連の手順は内臓に良い動きであり、ちょっとした朝の体操の感覚なのだそうだ。実際ヨガに「礼拝のポーズ」なるものが存在する。エリーさんの母親世代は朝の礼拝のあと家事をするそうだが、エリーさんは「私は、もう一回寝る!二度寝ね。」と笑いながら教えてくれた。インドネシアの地元では礼拝の時間になると、放送が流れたり、テレビでお知らせしてくれるということである。

 では、イスラーム圏外で生活するムスリム達は、状況により普遍となる礼拝の時間やメッカの方向などをどのようにして把握しているのだろうか。  

メッカの神殿の方角を「キブラ」といい、以前は「キブラコンパス」というものでメッカの方向を確認していた。最近はスマートフォンの普及により「ムスリムプロ」なるアプリがあり、メッカの方角を表示し、礼拝の時間にはアラームで知らせてくれる。このアプリは、コーラン(経典)も読むことができ、現代のムスリムのニーズに応えた画期的なアプリであるといえる。

 一生に一度はメッカを訪れる「ハッジ」は、世界中のムスリムの憧れである。メッカ巡礼を果たしたムスリムは信仰のため真面目に働き貯蓄し、労をいとわず現地まで赴ける、みなに尊敬される。ムスリムはそんな「ハッジ」を楽しみにしていて、銀行の積み立てプランもある。日本人でいうお伊勢参りのような、というと理解しやすいのではないだろうか。「ハッジ」には旅行プランのようなものもあり、高級ホテルで過ごすか、テントですごすかによって、金額が大きく違う。テントといっても、しっかりした素材でできており、エアコンが完備されている。

 イスラーム暦の9月にあたる「ラマダーン(断食)月」の日中、断食によって日々の食事に感謝し、いつも以上にイスラームの教えにそって、善行を行い、負の感情をおさえる。断食は日中のみで、日没の礼拝後は食事ができる。子供や妊婦、その他、体調や状況によって、免除になる場合もある。慈善行為で補ったり、あとからやりなおすこともできる。「ラマダーン」を終えるとお祭りがあり、そこではたくさんの喜捨がおこなわれ、家族や親戚と集まり、ごちそうを食べ、子供達はお年玉がもらえる。「正月」のような楽しいイベントが待っているのである。「断食」は一見、苦行にも思えるが、「楽しみ」や「分かち合う」といったプラスの要素が主だっている。

〇ハラールとハラーム


イスラームの教えのなかで「ハラール」は「許されている」、「ハラーム」とは、「禁じられている」という意味である。

イスラームでは輸送方法や決まった調理方法で提供された食べ物を「ハラール食」として口にすることができる。お酒や豚などは「ハラーム(禁じられている)」であり、動物から命をいただく場合は決まった屠殺方法にしたがい、祈りをささげる。お酒は基本的に「ハラーム」であるが、地域によっては「酔うほど飲まないよいうに」としている。日本では馴染みのない「ハラール食品」は業務用スーパーにあるらしい。しかし、本当に必要としているような食材には「ハラール表記」がなく、数や種類も微々たるものである。エリーさん曰く、美味しそうなものにはだいたい「豚肉エキス」などが入っているのだと、残念そうに語っていた。昔は感染症など衛生面の懸念から「ハラーム(禁止)」に分類されていたが、令和のムスリムにとってはちょっとした苦行のようだ。


〇コロナ禍の信仰


昨今世界中に猛威をふるっているCOVID-19の大流行よってムスリム達の生活や信仰に影響をおよぼしている。ラマダーン月には、地元に帰れない、集まれない。おそらく各所モスク(集団で礼拝をおこなう教会のような場所)も以前のように集まることは制限されるであろう。ムスリムの一生に一度夢見るハッジも人数制限がおこなわれ、年齢も重症化のリスク面の考慮から18~60歳までと制限されている。リアルタイムのカーバ神殿(メッカの神殿)の様子をエリーさんに見せてもらったが、参考文献に掲載されている写真に写る大勢の人々が神殿を囲んでいる様子とは大きく違い、参加者が少ないうえにディスタンスをとりながら儀式をおこなっていた。長期にわたって積み立てをし「やっとハッジに行けるというところだったのに、制限によって行けなくなった」ムスリムの気持ちを考えると、なんとも割りきれない気持ちになる。

ーつづくー


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