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木彫作家・松田政斗さん「自然豊かな但馬で木彫作家として生きる」


アトリエで創作に励む松田政斗氏

三木美術館の2階『gallery アートスペース miki』がオープンした当初よりお付き合いのある木彫集団『但馬木彫』のグループ展を現在、開催しています。松田一戯氏、松田京子氏、松田政斗氏、梅野浩壱氏の木彫作家と手作り家具作家の松田掲三氏で構成される但馬木彫がずらりと展示される機会は2年に1度。お買い求めもいただけるこの機会にぜひ足を運んでいただければ幸いです。
今回はその中核メンバーである松田政斗氏にお話を聞かせていただきました。

 
展示期間:2023年4月5日〜2023年4月23日

彫刻家である兄にマネージャーを頼まれたのが、木彫作家となるきっかけ

アトリエとギャラリーは自宅の横に併設されている。木彫の素材となる丸太は右の写真のように5年ほど寝かせ、きっちりと乾燥をさせます

私には7歳年上の兄がいまして、おそらく芸大へ行きたかったんでしょうけど、農家の長男ということがあり父から「画集を買ってやるから」と言われ、ここ但馬に暮らしながら彫刻をしていました。おそらく父は父で自分で勉強しろということだったのかもしれませんが。
 
私が24歳ごろにその兄から「マネージャーをしろ」と言われたんですね。で、兄を助ける気でマネージャーになったところ意外にも才覚があったのかそれなりに成果を上げたんですけど、それだけで十分に暮らしていけるわけはないので、「よし、自分も木彫をやって売っていこう」と思ったんですよ。なぜ? その頃周りで見る木彫といえば民芸品に毛の生えたようなものが多かったからね。

 
―「民芸品に毛の生えたようなもの」では木彫作家としてやっていくことができないと見抜いた松田氏。本来、民芸品といえば熟練した無名の職人によって作り出される地域色にあふれた手に入れやすい実用品を指す。しかし松田氏らのグループが作り出すのは実用品ではなく人形や装飾品。実用性のないものだからこそ、但馬の地域色は大切にしてながらももっと作家性の強い作品づくりをしなければ、作り手も鑑賞者も満足できないにちがいない。その思いが松田氏の木彫作家への道を開いたのだ。
 

人の手業というものはすごいものです

松田氏が使う木材は瀬戸内や九州から取り寄せたもの。大きな木目が少ない楠を愛用


それから木彫を始めました。そして兄や農作業の合間にコツコツと木彫をする仲間など8人が集まり、木彫の魅力を知ってもらいつつ作品も販売しようということになりました。もちろん自分たちの店があるわけじゃないから、なんとライトバンに積み込んで出石町などで売り出すことにしたんです。それには周りも驚いたようで新聞にも取材されましたよ。翌1980年5月に織物屋さんの奥のスペースを借りるかたちで固定の店を開くことができ、そして1982年には画廊をオープすることができたんです。

ギャラリーにはこれまでの足跡をまとめたアルバムも用意されています

作品を作ったり指導をしたりで瞬く間に時間が過ぎました。ありがたいことにナマズをデフォルメしたものやふくろうシリーズなどには固定のファンの方がついてくれました。バブルの時期などは百貨店に収めると初日に完売してしまって製作に追われる日々でした。木彫を始めたころはとにかく精緻に時間をかけて彫っていたと思います。そういう創作スタイルだったのに、多くのお客さんが待っているという状況になって…。
 
同じような形で作ればいいと言う人もいるだろうけど僕はそういうのは苦手。毎日決まったことをするなんて嫌だという気持ちも手伝って木彫を選んだくらいだから。で、お客さんを待たせるのも悪いと思って一生懸命に数を作るようになったんです。そうしたらどこに力を入れて彫るべきかがわかってきたんですよ。

お客様が「高齢になったからと」言って初期の頃の作品を持ってきてくださったそうです。 筍の皮の肌目や鳥にとらえられた魚の口の中まで細かく掘り込んでいます

 ―松田氏はお客様のためにある一定数を作らなければいけない状況に放り込まれた時に、木彫家として新たなステージへと進んだのだった。しかしそれを支えたのは初期の頃に養った観察力と精緻な彫りの技術だったに違いない。  

僕の木彫作品には、物語があるかないかが大問題なんです 


僕は主に動物をモチーフにした作品を一貫して作ってきます。でもその陰にもう一つの要素「物語」というものが存在しているんですよ。どんなに精巧に作ったとしても、最初のうちはいいけど、そのうち疲れて見たくなくなりますよ。でも物語があれば違うんですよ。

左は三木美術館にも展示されている作品。右は宮部みゆきの『火車』を読んで触発された作品

物語のヒントですか? 僕は音楽だとジャズが好きなんですね。小説も大好きだからすごく読みます。そういったものに刺激されて物語が頭の中に浮かんで、その一場面を僕が形にするという感じです。だから物語がないと作れなくなってしまうんです。
 
僕は夕方ごろから創作にとりかかり、夕食をはさんで夜の10時、11時ごろから明け方まではずっと根をつめた時間となります。その間、ジャズはずっと流しているんですよ。僕が彫る作品では動物が主人公なんだけど、すべて擬人化しているんですよ。今回三木美術館に多く展示しているジャズシリーズでは今年の干支であるうさぎに演奏をしてもらっているけど、あ、こんなジャズプレーヤーがいたなって思って思えたらいいですね。見る人が勝手に想像してくれて楽しんでくれればいいんです。

―松田氏はマンガはかけるけど絵は描けないと言う。だから動物は彫れるが人は彫れないとも言う。けれど松田氏の生み出す作品には、マンガのキャラクターのような個性がひとつひとつに宿っているのだ。そしてそれは持ち帰った人にいきいきと話しかけてくれるのだ。
                    [編集制作/ヴァーティカル]
 


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