趣味は布教することです

布教といってもこれはオタク用語におけるそれなので、世間一般で言うところの宗教とは一切関係がないということをご了承いただきたい。

要するにただ、自分の好きなものを広く宣伝したい、あわよくば好きになってほしいというだけのことである。

思えば教育業に就いてから、この傾向がいっそう強まったような気がする。

自分の知っていること、理解していることを、何も知らない相手にも理解できる言葉に置き換える作業が、いわゆる授業である。
言葉の使い方、とらえ方は人それぞれ違うので、相手の顔色を見ながら、性格を考慮しながら、言い方を工夫していかなければならない。

そしてそういう仕事を繰り返しているうちに、隙あらば自分の好きなものをプレゼンしてしまうくせがついた。

はた迷惑な趣味だが、これで打率は悪くない。
一昨年映画『銀魂2』にハマったときは、実際に劇場まで足を運んでくれた人が何人もいて、世の中心の広い人が多いと感動したものだ。

この春の外出自粛に伴って、実質的に無職になり、自宅で何ができるだろうかとあれこれ考えた中のひとつに音声配信がある。

対面で話すことと、一人で声を録音することは似ているようでだいぶ違うし、自分の声を自分で聞くことにはかなり抵抗があったのだが、やってみるとそれなりにコンテンツの体裁になったので今日まで続けている。

コロナ禍の中で楽しみが減った、時間を持て余すという声があまりにも目立ったので、とにかく何か楽しいものを提供したかった。

配信者の多くは歌や演奏が得意であったり、声そのものに自信があったり、何らかの話芸を持っていたりするようだったが、私はそのいずれも持ち合わせなかった。

だから結局、好きなものについて話すというスタイルに落ち着きつつある。

大好きなもの、心酔しているものについて話して暗くなるということはまずないし、自分にとって楽しいと感じるものが誰かに共有されたら純粋に嬉しい。

ちょうど、昨年一年間追い続けた大河ドラマ『いだてん』の再放送が始まっていたし、海外向けの再編集版『IDATEN』も公開された。
再放送はBSプレミアムなので視聴できない層もいるだろうが、オンデマンドやレンタルという手もある。

『いだてん』は本放送当時、出演者の不祥事や低視聴率、オリンピック礼賛ものだという誤解や、「大河ドラマとしてふさわしくない」という一部の意見によって、マスコミからも自称大河ファンの諸氏からも酷評を浴びた。

打ち切りだ、失敗だと散々な見出しが毎週のように見られたが、9月には無事クランクアップし、12月にはファンからの喝采を浴び、惜しまれながら最終回を迎えた。

私は大河ドラマを一年を通して観たのは初めてだったが、エンターテイメントと芸術性、メッセージ性、作り手の情熱と才能と実力で満ちた傑作だと思っている。

今という日本を築き上げた人々の体温を感じるほどリアルで、現代の基になった近代という時代に、日本人としてのアイデンティティを揺さぶられる思いだった。

音声配信では、主に『いだてん』を視聴したことがない層を想定して、見どころや裏話、史実に関する補足や、ドラマへの思い入れを話している。

五年後に観ても、十年後に観ても、間違いなく心に響く名作である。

そのファンがここに一人いるということだけでも、知ってもらえれば有り難い。


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